EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

EPOCALCに10の質問

暇つぶしSP

 

 

 

はてなブログ10周年特別お題「はてなブロガーに10の質問

という企画があるらしい。たまにはてなブログがやっているお題である。なんでも参加賞ももらえるそうだし、運が良ければ万年筆が当たるらしい。

blog.hatenablog.com

丁度暇だったので、自己紹介を兼ねて答えていこうじゃないか。なおTwitter等に共有はしないので、この記事を見つけた君はラッキー!

 

ブログ名もしくはハンドルネームの由来は?

僕はEPOCALCと云う人ですが、この名前は旧い表計算ソフトの名前ですね。

FACOM 9450というパソコンに内蔵されていたものです。

ja.wikipedia.org

母がOL時代に使っていた機種らしく、EPOCALCという文字列をDOS的な画面に打ち込んでいたという話をよく聞いていたのでそこから付けました。80年代の何かの名前にしたかったというのがあります。

そしてEPOCALC's GARAGEというブログ名ですが、これは敬愛すべき音楽家大滝詠一のブログ・Amigo Garageから付けました。以前は過去記事が見られたのですが、残念ながら現在は入り口が残っているのみです。

www.fussa45.net

 

はてなブログを始めたきっかけは?

一つ記事のアイディアが浮かんだからです。それがこちら。

epocalcgarage.hatenablog.com

これを書かんがために作ったと言って過言ではありません。当ブログ全体を見てもやはり完成度は一番二番を争いますね。

また、音楽界隈ではギャグ的な要素を入れたレビュー等を避ける傾向があります。これはいくつかの音楽雑誌やブログが無思考にギャグ要素を取り入れ、それにより音楽を貶めるような表現をしていたためです。取り扱いを誤った人が沢山いたために、そもそも取り扱うなという規範ができてしまったように思います。

しかしながら大滝詠一が示したように音楽(というか芸術全般)と笑いは不可分であり、評論においてもそれは同様だと思います。ギャグによってギャグを使わない音楽レビュー以上の論点を示唆する。それが当ブログの当分の目標です。

 

自分で書いたお気に入りの1記事はある?あるならどんな記事?

さっき上げたナイアガラーの記事も良いんですが、楽家のいいね欄が一番ですかね。

epocalcgarage.hatenablog.com

完全に思い付きで作った突貫記事なんですが、意外とまとまりある面白い記事になったと思います。

楽家の皆さん、新しい表現方法としていいね欄はいかがでしょうか。

 

ブログを書きたくなるのはどんなとき?

レビュー記事はこれは良い!と思ったアルバムがあり次第作っています。企画記事も基本思い付いたとき作っていますね。

つまりスランプになると途端に何も書けなくなるんですね。これではいけないとブレインストーミングみたいなことで作ろうかなと思ったこともあったんですが、良いアイディアが思いつきませんでした。

ただ、以前MOZAIC MAGAZINEに寄稿したときは「新しいウェブ媒体の立ち上げ」というお題をいただいて作りました。

それが結果的にちょっとした評価を頂けるくらいの完成度になったことを考えると、お題出し係でも雇えば良い記事が沢山出来るのかもしれません。

 

下書きに保存された記事は何記事? あるならどんなテーマの記事?

100記事近くあります。大体没記事です。

代表例は再発版の発売当日に出そうと思ったけど間に合わなかった都市通信のレビューやオリンピック関係のせいで没になった某小山田氏をネタにした記事など。(※追記:小山田氏をネタにした記事は公開いたしました。)

また性質上他メディアとのネタ被りも多く、記事DJという全く関係ない引用だけで成り立たせるレビュー記事を書いていたのですが、オモコロの引用選手権とネタ被りの印象があったので没にしました。

omocoro.jp

 

自分の記事を読み返すことはある?

よくあります。その都度書き直したりしていますね。

 

好きなはてなブロガーは?

よく言及していますが、まず脱R論さんですかね。レビューの温度感はここからきています。

drr.hateblo.jp

 

国会図書館内の音源全部頭の中に入っていそうな音楽ディガーのブログと言えばこちら。いつもお世話になっております。

zangiriheads.hatenablog.com

 

ここから先は音楽関係以外。

www.ajimatics.com

数学オタクの鰺坂もっちょさんのブログ。僕は(一応)数学科大学生なのでよく読ませていただいています。数学にあまり馴染みのない人でも面白く読み通せるのが魅力的。*1

 

あとはこの人も外せないでしょ。

arufa.hatenablog.jp

はてなブログが誇る偉大なるブロガー・ARuFa!この人は漫才におけるダウンタウンに当たりますよね。彼以降、ブログの在り方を変えてしまったと言っても過言ではないはず。

他にも好きなブロガーさんは沢山いるのだけれど、意外とはてな民は少なめ。最近だとnoteも多いですからね。その他の方々はリンク集をご覧ください。

epocalcgarage.hatenablog.com

 

 

あ~あ、こんなにリンク張っちゃった。はてなブログってリンク張られると通知行くんですよね。あらかじめ謝っておきます。すみませんでした。

 

はてなブログに一言メッセージを伝えるなら?

毎日サーバー管理お疲れ様です。記事削除依頼のメールはもっと優しい文面にしてください。よろしくお願いいたします。

 

10年前は何してた?

まだ小学生ですね。ヤマハ音楽スクールに行っていましたが、まだ音楽ファンではないです。10年後音楽ブロガーやっているよと言っても「?」という感じでしょう。

 

この10年を一言でまとめると?

 

 

 

 

*1:いいですか音楽関係の皆さん、音楽界隈の外ではこういうギャグ的かつ理知的な文章が沢山あるんですよ!

Ambient1/Brian Eno【1978】(AIによる自動レビュー)

※面倒くさかったので、AIに文を書かせました。その為数々の虚構が入っています。鵜呑みにしないでください。

AMBIENT1/MUSIC FOR AIRPOR

AMBIENT1/MUSIC FOR AIRPOR

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2021年現在、アンビエント音楽、ないしは環境音楽は身の回りにあふれているものとなっている。アンビエント音楽とは人々に意識されずに周囲の空気を変える音楽のことである。

エリック・サティの「家具の音楽」がアンビエントの思想を最も初期に実践した例と知られているが、現在まで続くアンビエント音楽はある一枚のアルバムによって定義づけられていると言って過言ではない。

それが今回紹介するブライアン・イーノAmbient 1/Music For Airportである。


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1978年にLP盤で発売された本作は、当時その先進的な音楽性から大きな話題を呼び、現在でも多くのアーティストに影響を与えた傑作として名を残している。

本作に収録された楽曲の多くは、航空機や自動車などの移動体に搭載されたスピーカーを通して再生されることを前提として作曲されたものであり、飛行機や自動車の走行音などが収録されていることからも、本作の制作背景を容易に想像することができる。

また、この中には、後にテクノポップと呼ばれることになる電子音楽をいち早く取り入れた作品も収録されている。

 

本作では、これまで誰もが耳にしたことのあったようなクラシックの名曲が数多くサンプリングされている。例えば、バッハ作曲のG線上のアリアでは、ヴァイオリンの弦を擦った音をサンプリングし、ドビュッシー作/ラヴェル編曲による月の光ではピアノの音をそのまま録音している。他にも、モーツァルト作/シューベルト編曲の歌曲"Das Lied von der Museen des Flutes"がサンプリングされていたり、ショパン作のバラード第1番ト短調が使用されたりと、クラシック音楽に対する敬意を感じさせる作りとなっている。

そして何より特筆すべき点は、本作が現代音楽における一つの到達点であるということであろう。

それまで前衛芸術と呼ばれていたものが、既成概念を打ち破るという意味ではポストモダン的であったのに対し、本作はあくまで既存の枠組みの中でいかに新しいものを生み出すかという挑戦的な姿勢が見られるのだ。実際、本作を聴き終えた後には、従来の前衛芸術とは明らかに異なる印象を受けるはずである。

本作は、アンビエント音楽の歴史を語る上で非常に重要な作品であることは間違いないが、一方で同時に、アンビエント音楽の未来を担う新人たちの登竜門とも呼べる存在でもある。というのも、本作には、後のテクノポップシーンにおいて中心的人物となるデヴィッド・ボウイ坂本龍一といった面々が参加しているからである。

彼らは本作で実験的手法を用いながら、自分たちの持ち味を発揮していた。彼らが活躍した1980年代こそが、アンビエント音楽にとって一つの転換点だったといえるだろう。

 

現役音楽ブロガーEPOCALC氏による批評

僕より文章が断然上手い。こうやって人間の職業は奪われていくのでしょうか。

そしてAIが言うにはAmbient1ってAutobahnとDiscreet Musicの合わせ技みたいなアルバムだったんですね。聴きなおします。

 


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Stasera In Casa Seduti In Poltrona Con La Luce Diffusa/Complesso di Sante Palumbo【1973】

ピカソとかバンコクみたいな長い名前って名付けた時点で覚えさせる気があるのかよく分からないよね。

www.discogs.com

はい。題名が長いです。多分今までレビューしてきたものの中でもぶっちぎりに。

 

この作品はCipiti Recordsというイタリア・ミラノ発のレーベルから出ていたもの。

幾つか聴いてみたところ、ジャズとロックの中間を狙うような作品を幾つも取り揃えている、ロックレーベルともジャズレーベルとも言い難い立ち位置。イタリアンロック関連で著名なCramps Recordsと似た傾向があるね。ちなみにCrampsもミラノ発。ミラノ人はこういうのが好きなのだろうか。

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ただ、アヴァンなものが多いCrampsよりもっとフュージョンに近い雰囲気を好んでそろえている感じ。後期Crampsもこんな感じだけれど、70年代初期はここがそういうのを取り扱っていた模様。

一応EMI傘下のレーベル*1なのでメジャーレーベルなのだけれど、この通りインディな感覚があり日本で言うところのトラットリアを彷彿とさせるね。ただメジャーということもあり同時代的にもまあまあの知名度があったらしく、サンレモ音楽祭というイタリア国内で有名なフェスイベントに度々出ていたらしい。

 

あとこのレーベル、今回紹介するモノに限らず名前が長いアルバムがちょくちょくある

例えば下の曲の入っているアルバムはNessuno Siam Perfetti…ciascuno abbiamo i suoi difettiである。長え。

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そして中身が普通に良い。

 

 

さてこのキラキラネーム爆付ジャズロックレーベルから出ているStasera In Casa Seduti In Poltrona Con La Luce Diffusa*2は所謂ラウンジジャズなのだが、今までほぼ再発がかかっていなかったと聞いてビックリするほどにレベルが高いものになっている。

 

イタリアンジャズといえばブラジリアンジャズ!*3

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アコースティックジャズから電化ジャズに切り替わるのがいつ聴いても新鮮。即興部でも落ち着き払ったサックスとノリノリなオルガンとの対比でメリハリがついており、ともすれば退屈になってしまいがちなボッサの味を引き立たせているね。

このオルガンの音作りはやはり本場ブラジルを意識しているのだろうか、ローターをかけていなかったり倍音の重ね方などがワルターワンダレイそっくり

見逃しがちだが、ベースの動きが変態的で笑えてくる。同じ動きを二回としてやらねえぞという気迫を感じる。

 

最も人気なのがTREQUARTI。題名通りTre=三拍子になっている。

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ラウンジジャズとのたまっておきながらこの硬派な曲ですよ。

さっきみたいなボサノヴァも多いのでラウンジジャズか~と思って気を抜いているとこういうモダンジャズなものもぶち込んでくるので気が抜けない。少しかすれてもたっているサックスが良い味を出しているね。

後半はモードジャズみたいに。ラウンジ向けに改造したKind of Blueという感じだ。

 

これを作ったのはピアニストのサンテ・パルンボ氏。トニー・スコットと演奏した経験があるなど相当の実力者らしい。

この他にもCitipiにいくつかライブラリーミュージックの好盤を残している。

中でもSwayはCipitiの作品に珍しく前衛音楽的なアプローチもしているアルバム。

今回紹介したようなものをイメージすると大分裏切られると思うが、イタリアンロックファンの琴線に触れるものがある。

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カルト的な名盤らしく、一聴して損はないハズ。Cipitiマラソンでもするかな...

 

 

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*1:後期は別のところになる

*2:今宵は自宅で間接照明のもと君とソファーに寄りかかって、という意味らしい。嗚呼1975

*3:???

心眼銀河/志人【2021】

神様が棲む村のうた

templeats.net

ヒップホップ、特にラップというと個人的にはあんまり聴かない。トラックの方はよく聴くのにね...

が、なんにでも例外と言うものがあるもので、この人は別だよな~という方がいる。志人である。その手のファンには著名らしいけれどこのブログで紹介するのは初めてなのでまずは略歴を。

 

志人MCなのるなもないという方と一緒に降神というユニットをやっていたラッパー。

降神は所謂文化系ラップとしての解釈もできるグループだと思うのだが、詩のお手本のような硬派な韻の中に教科書で読んだような文章たちからの引用がしれっと使われ、僕のような部外者の思うヒップホップのイメージを打ち砕いてくれる、他に類例を知らない作風。これを聴いてしまうと安易に文化系ラップとか言いたくなくなる。


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これが入っているアルバムは自主制作で出たらしいのだがこの通り恐ろしいほど完成度が高く3000枚というインディーズにしては破格の売上を誇ったそうな。「インディーズではあり得ないほど売れた」と言われたあの相対性理論のシフォン主義が4000枚と近い数字、メジャーから出たはずの大滝詠一「レッツ・オンド・アゲイン」の3.7倍と言えばその破格具合が分かると思う。

なのるなもないも志人と比肩する人物なので是非聴いてみてね。

 

そして降神で二枚アルバムを出した後志人はソロでのアルバムを出し始めるのだが、神がかった領域へ突入する。


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なんか最早ヒップホップとかではない。*1

声明や民謡を彷彿とさせる何かの気迫が凄まじい。ラップで大事な韻も踏んでいない方が珍しいなる状態になっている。ヒップホップファンによれば彼こそ日本語ラップの最高到達点とのこと。和魂洋才の擬人化である。

昨今は民謡クルセイダーズに始まり日本の古い文化を現代風にソフィスケイトして演奏するのが一種のトレンドになっているが*2、その先頭を突っ走ったのが志人なのかもしれない。

 

その後は京都の山で木こりをするなど音楽家というか、仙人じみたことをしている模様。

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あまりに凄すぎてロバート秋山の動画に見えてきた。

 

そして彼の最新作こそが心眼銀河。今年の五月に出た。

こらそこ!発売5か月たった今更書くのかとか言わない!お金がなかったんだよ!

 

ただこの作品、著名音楽家の新作であるにも関わらずサブスクなし、Youtubeのティザーなし、販売も限定されたインディーズ盤と非常にハードコアな商法をとっている。

ただ最後の慈悲としていくつかサンクラに曲が投稿されているので、ここから試聴しよう。

一曲目の震えあがるほどレベルの高いインストアンビエント後、志人の十八番・ポエットリーリーディングのようなラップが始まる。

 

soundcloud.com

寺で説法を受けている気分になるのは僕だけではないはず。

志人印の固い韻で綴られた詩で「心眼銀河」の哲学が伝えられる。そこらで砧を打っている村のようなリズム感が癖になるね。

そしてそこから歌ものにシームレスにつながるのもプログレ好きとして大好物です。

 

このアルバムではサンプリングなしに80's~90'sのヤマハ機材*3を使って作曲しているらしい。

それゆえかヤマハ音源独特の空気感が出ており、先日記事化した吉村弘にも通じる音像が散見される。この曲ではないが、Creekによく似たころころした音も出てくる。

epocalcgarage.hatenablog.com

ただ吉村弘は都会の中の自然を想起させられるけれど、志人飛騨や木曽の夜を想起させられる。似た機材でも人によってこんなに変わるんですね。

冥丁など和の空気を携えたアンビエントが昨今人気だけれど*4、それに対しての回答とも捉えられるね。

 

今作ではボーカルのスタイルが曲毎に違う。例えば下の曲では比較的ラップらしいラップが聴ける。

soundcloud.com

そしてどんなスタイルでも志人流になるのは流石。Sam Gendelばりに記名性が高い。

外来語が詩中に出てきても全く日本的空気感を失わないのはこの人にしかできないね。

 

無意識中に祈りの手みたいに合掌して聴いてしまった。借金してでもとっとと買うべきだった。

僕は45分以上あるアルバムは助長に感じてしまうのだが、このアルバムは一時間以上あるのに短いとさえ思ってしまう。唯一無二の世界観に浸っていたくなるね。

 

個人的にはPizzicato Fiveさえらジャポンと対にして飾りたいように感じた。

 


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さえらジャポンは享楽的、都会的作風で「どこかでみた世界」なのにどこにもない日本像を構築し社会批判したものだと思うのだが、
心眼銀河は内省的、自然主義的作風で「見たこともない世界」なのにどこかにあったかもしれない日本像を構築し自然回帰を謳ったような印象を受ける。

 

そしてなにより、このアルバムはゴッホの絵に感じるそれと同じような悟りの境地に近い人が作った芸術作品独特の迫力と一種の恐ろしさが漂っている。作風がまるで違うのに志人フィッシュマンズは同じ感覚を何故か感じる、と誰かが言っていたが、それもこの境地故かもしれない。

このアルバムを聴いて夜の京都の街なんか歩いたらこの世ではない場所に行ってしまう気分になるはず。京都住みの人は是非異世界に行ってみよう。*5

 

このアルバム、アートワーク面も非常に凝っており最も豪華なものだと冊子がついてたり和紙でくるんであったりするらしい。

templeats.net

ここまでのモノだと神棚に飾りたくなる。

僕は予算の都合上通常版しか買えなかったのだが、非常に恐れ多いことに志人氏の書が入っていた。オーラが凄まじい。腰が抜けた。

そして何よりこの書を見ているとご利益がありそうである。さあ神棚へ...


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おまけ

 

折坂悠太・国府達矢・志人などなどが一堂に会した貴重極まりない写真

 

*1:本人もラップをやっている意識はないとのこと。

*2:これとか面白いよね。

*3:志人にもDTMの新時代が到来している模様

*4:そして志人から彼らへの影響も大いにあるだろう

*5:志人のCD聴いたら異世界に転生した件

Green/吉村弘【1986】

アンビエント真打

Green [Analog]

Green [Analog]

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シティポップ以降、色んな日本の音楽が国内外の人によってほじくり返されている。

たとえば和ジャズとかね。特に僕の地元・東北の陸前高田のジャズ喫茶、ジョニーが制作していたJohnny's Diskというレーベルの再評価はすさまじい。

waxfromabove.hatenablog.com

ジャズファンからの支持は元々高かったらしいけれど、今やそれ以外の音楽ファンや海外の音楽通からもよく知られた存在になっているよう。あれもこれもシティポップのせい。

この前東北ジャズ回顧展みたいなものが仙台であったのだが、もちろんジョニーの展示も相当取り上げられていた。撮影禁止で写真が撮れなかったのが残念。

 

その和モノブームでもシティポップに次ぐ人気と言えるのがアンビエント。Light in the Atticから出ていた日本のアンビエントを集めたコンピグラミー賞にノミネートされていたのも記憶に新しい。

www.timeout.jp

つまり皆さん、留学や海外赴任等の事情で外国に暮らすことになった時、万一音楽好きが周りにいたらこう訊かれることを想定しないといけない。

Hey, you're Japanese, right? If so, you must know a lot about ambient music. Do you have any opinions about ambient music?
ねえ、君は日本人だよね。そうであるならアンビエントに相当詳しいと思うんだ。アンビエントについて何かしらの意見を持っていたりするかい?

これは英検準一級の面接問題の一例として、または某国立大学の入試問題の一つとして取り上げられるのではないかと、関係者の間ではまことしやかに囁かれる。その関係者とは僕です。

 

つまるところ、日本の音楽ファンにおいてアンビエントの履修が当然の時代。もはやパンク、オルタナに並び立つ存在にアンビエントはなっているのだ。*1

というわけでアンビエント入門編として吉村弘Green。件のアンビエントコンピで取り上げられた人たちの中でも特に評価の高い人物であり、そして彼の最高傑作と言われるアルバムでございます。

 

吉村弘は音大とかではなく、早稲田大の第二文学部出身。早大二文は夜間部なのだが、永六輔大滝詠一タモリなどの文化人を数多く輩出しており、夜間部なのに一番早稲田っぽい学部とまで言われた学部だそうだ。吉村弘はここで美術を専攻している。

その後かのタージマハル旅行団に在籍し、その頃はスピリチュアルジャズで知られる富樫雅彦とも共演したらしい。多分その場にいたら僕は失神していたどころか、命が危なかっただろう。

 

 

その後サウンドアーティストとして楽器を作ったりサウンドロゴを作ったりするなど環境音楽家として精力的に活動。

その中で一般的に最も知名度のあるものは恐らく東京メトロ南北線の発車サイン「音無川の流れ」(下動画10:39~)。1991年に採用されたそうだが、全然古びていないところに彼の手腕の高さが見て取れる。

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吉村弘の面白いところは自然は勿論、都市も愛したところ。

アンビエントの人は自然派とかオーガニックに走りやすい傾向があり、実際自然派アンビエントと小ジャンルとして纏められるほど数がある模様。個人的には昨今アンビエントと一緒に紹介されることも多いニューエイジ音楽はこういう自然主義の極北としても考えられる気がする。

敬愛すべき音楽通、門脇氏のプレイリスト

勿論吉村弘も自然大好き人間なのであるが、それと同じように都市の中に潜む音も相当熱心だった様子。例えば都市の中で生まれる良い音を、使えない構造物を指す「トマソン」になぞらえてサウンドトマソン命名し、蒐集したらしい。例としては図書館の通風孔から出てくる風の音

こういった都会の雑音をディグするのはもう完全に向こう側に行っているが、それゆえ(?)自然主義に加え独特の未来感や都市の空気を受ける作風があるのが吉村弘の魅力。

 

今作Greenの幕開けCreekは日本のみならず、アンビエントの代名詞的存在になっている節もある。


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後輩曰く、Ambientで調べたらこれが出てきたとのこと。もうブライアン・イーノも落とす勢いである。

アンビエントにしては割とポップな印象を受ける、ポコポコサウンド。このポコポコはお気に入りらしく、先ほど紹介した音無川の流れの音像にも似ているね。ポップと言えど無駄な音は極力排除し音の強弱で曲が展開されており、アンビエントとミニマルの美学のお手本のような、素晴らしい音楽。

そして空気感はなんだかル・コルビュジェの家とかを彷彿とさせるモダニズムな印象。

すごーく卑近に言えば無印良品チック。Greenの名の通り、観葉植物(アロエみたいなの)が置いてあるラーメンズがコントやってそうな真っ白い部屋で聴きたい感じだ。

 

曲名もCreekにFeelにSleepにTeeveeと、無印良品っぽいモダンな感触。


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Sleepという曲を含んでいるがこのアルバム、その看板通り本当に睡眠導入BGMとして完璧ともいえる活躍をしてくれる。

いや退屈ということではなく、聴き入っているのに眠ってしまうという不可思議な、このアルバムでしか体験したことのない謎の現象が起きるのである。

実際ライナーノーツで本人がこれを聴きながら眠ってしまった旨を話しており、やはりそういう性質がある模様。

 

そして驚くべきことになんとこのアルバムはFM音源を使って製作されたそうだ。FM音源とは駅のチャイムみたいなデジタルシンセである。初音ミクの元ネタとしてもお馴染みのシンセ、DX7FM音源

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実際ヤマハの音源らしいのでグレードの差はあれこのシンセとほぼ同じものを使っているんですよ。とてもそうとは思えない...

この驚きはレイ・ハラカミの機材が店内BGMに使われるハチプロのみという話を聞いた時と似ている。作風もどこか似てるしね。

 

同じく再評価されつつある吉村さんの仲間、廣瀬豊氏によるとお洒落で温和」という感じの人だったらしい。ハイセンスな人だからこそ当時の他のアンビエントとは一線を画す作品に仕上がったのかもしれない。


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*1:いや、なってほしい。

ⒸEPOCALC