EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

最近のディグ(2022/5)

最近聴いたアルバムで良かったものをまとめた記事です。新旧混合。

 

 

The Seventh Son - Malachi Thompson

madaboutrecordslabel.bandcamp.com

 

ジャケ写にかかけられた無駄なエフェクトが最高にダサい、70年代アメリカ産ジャズ。ただ中身は想像できないほど硬派。なんでもこの人はアヴァンギャルドなトランぺッターとして定評のある方らしく、なるほど今聴いても先進的なスピリチュアルジャズ。こういう中身と外見が一致していないアルバムを見つけると、それだけで白飯を四合と味噌と少しの野菜くらいはイケる。

スピリチュアルジャズと云うとなんとなくコルトレーン夫妻の感じを思い浮かべてしまうが、このアルバムはファンキーでノリノリ。ファンクやAORとか好きな人には刺さるはず。あとエレピ捌きが上品で素敵。

 


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When Do We Get Paid - Staples Jr. Singers

staplesjrsingers.bandcamp.com

CCMっぽい空気感があるゴスペルファンク。歌詞も公民権運動に関係するものらしい。時代柄だね。

どうやら元々自主制作で作られたものらしく、そのせいか結構音がスカスカだし楽器の音もこもっている。基本的に教団の後ろ盾がある普通のCCMはしっかり音が作りこんであることが多いので、逆にこのアルバム独特の味が出ていて◎。楽曲自体のレベルは自主制作で出たとは思えないほどにレベルが高い。こちらもAOR好きにオススメ。

ちなみにStaples Singersというよく似た名前のゴスペルグループがあるが、それとは無関係らしい。音楽性も少し似ているが、他人の空似。不思議なモノだね。

 


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Can Ràbia - Can Ràbia

upinherroom.bandcamp.com

バルセロナテクノポップバンド。ロシア構成主義なジャケは結構あるが、これはその中でもトップクラスにジャケにマッチしている。

なんでも影響元はLa DusseldorfやHarmoniaなど所謂NEU!近辺のクラウトロック群とのこと。音作りが本物の70年代音楽と見まごうほどにエイジングされており、要所要所でハンマービート風の打ち込みドラムが楽しめる。こういうの好き。

また、ただクラウトロックの再現をしているだけではなく、エレクトロファンク的なボコーダーを使ったボイシングや昨今のアンビエントリヴァイバルに影響を受けているだろうトラックも見られるのもポイント。あくまで現在の再評価軸で作られたクラウトロックという風がして新鮮。Sovietwave好きにはオススメ。

 


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Ждите нас звезды! - Project Lazarus

vill4in.bandcamp.com

もう一丁Sovietwave的なのをご紹介。Vaporwaveの名門・VILL4INから出ているアルバム。

先ほどのCan Rabiaはバンドサウンド風であったが、こちらはアンビエント風味がより強い。雄大な宇宙を飛んでいくロケットを思わせる。子供の頃に宇宙にあこがれていたので、このようなロマンのある音楽は個人的にノスタルジックに響く。

また音質の感じも国営放送のBGMのような雰囲気。それこそ宇宙開発のドキュメンタリーで鳴ってそうな感じ。Sovietwaveというより、ソ連版Vaporwaveということなのだろうか。

 

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Amen Break Nostalgia - aphextwinsucks

madbreaks.bandcamp.com

 

最近日本のアニメ等をサンプリングしたハードコアやブレイクビーツ路線のテクノ、通称「ロリコア」が流行っているがその中でも大変良かったもの。

アメリカンインディーのような優しいギターと歌ものの下に、まさにAphex Twinさながらの手数の多いビートが流れているさまは新鮮。意外とこういうの聴いたことなかったかもしれない。Arti e Mestieriのインディーロック版と云った感じかな?

EP最後に入っているチャットモンチーのサンプリングで作ったトラックも、おいしいところだけ取ってきました感がありサンプリングの妙を感じる。元曲を聴きなおしてしまった。

残念なのはこれがEPである点。フルアルバム出してほしい。


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The First Sound of The Future Past - Astrophysics & Hatsune Miku

astrophysicsbrazil.bandcamp.com

大分前から局所的に話題になっていた、初音ミクによる往年のテクノポップの名曲カバー集。80年前後からの選曲になっている。

制作者は現在はブレイクコアを作っているらしいが元々Synthwave出身とのこと。その来歴に裏付けされた、Vaporwave的な80年代Sythwaveな価値観と現在それにとってかわりつつあるロリコアやHyperpopとを結びつけるカバーになっている。世代の橋渡しともいえるね。秀逸。

個人的には「初音ミクsingsニューウェイヴ」と同じノリを感じた。それを10年後の今やるとこのアルバムになるのかもしれない。


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人は人を救えない - 六角精児

 

「相棒」での鑑識役で(個人的には)お馴染みの、六角精児氏によるカバーアルバム。

正直俳優が片手間にやったアルバムでしょ~なんて思っていたのだが、蓋を開けてみるとビックリ。非常に硬派なアルバムに仕上がっている。

まず選曲が良い。浅川マキや高田渡といった有名どころはもちろん、猫や休みの国といった通好みなもの*1、さらにはオリジナルはライブのみでしか演奏されていない曲なども含まれていて「本気」を感じる。

そして演奏と声も渋く、これらの硬派な選曲にピッタリ合っている。なんでも昔からバンド活動をしていたらしくその経験が遺憾なく発揮されているね。最後にひっそり置かれたオリジナル曲も大変レベルが高い。舐めていてすみませんでした…...

残念なのはサブスクでは数曲しか聴けない所。マイナーな新譜なので全部聴くには実際買うしかないです。


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დამწვრისები - Skhivosani

skhivosani.bandcamp.com

グルジア語は流石に読めない。だが、なかなか素敵なギターアンビエント

先駆者がクラウトロック系だからか、ギターアンビエントというと「繰り返し」の妙を感じるものが多い。しかしこちらはどちらかというと「音響派」的な意味でのアンビエントになっている。ドゥルッティ・コラムが近いかな。やる気のない、遠いボーカルも味があって緩いトラックに合っている。

またアンビエントに終始するのではなく、たまに歪んだギターも入れていくのがワンポイントになっている。その点においてシューゲイザー的な感性も感じられる。


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Journeys Vol. 1 - Chris Dingman

chrisdingman.bandcamp.com

Khan JamalにしかりBobby Hutchersonにしかりヴィブラフォンが入るジャズには名盤・名曲が多い気がするが、今年出たこちらもご多分に漏れず名盤。

ヴィブラフォン特有の透き通るような爽やかさは保ちつつ、よりミニマルな方向の音楽になっている。先ほど挙げた先人たちのものより現代的な内容にアップデートされている印象。

その先進性はアンビエントのアルバムとして聴いても違和感ないほど。というかほとんどアンビエント。自然礼賛の風を感じる。森の中で聴きたい。

 


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キ、Que、消えん? - 樋口寿人

wvsorcerer.bandcamp.com

何と読むか分からないでお馴染みのレーベル・巫唱片から出ていた日本人のフォークアルバム。

このレーベルは中国の山麓や台湾の寺社など東アジアの匂いが充満しているアルバムを出すことに定評がある。今回もご多分に漏れず日本の晩夏の夕暮れを音にしたような作品。大体お彼岸あたりかな。この世とあの世の境目が薄れてくる、あの時期の空気感がアルバム全体で漂う。

取り立ててわざとらしく日本風な音楽ではないのに日本を感じさせる不思議な音楽がたまにあるが、今作がまさしくそれ。今年の夏はとてもお世話になりそうだ。

 


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Prá Quem Sabe Das Coisas

PRA QUEM SABE DAS COISAS

PRA QUEM SABE DAS COISAS

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MPB黎明期にひっそり録音されたアルバム。

この時代のブラジルには結構好き勝手にやっている音楽も多く人にオイソレと勧められないものもしばしばなのだが、今作はボサノヴァに立脚したアシッドフォークという趣で素敵。南米独特のサイケデリアが感じられる、初夏の昼下がりに聴きたいタイプの音楽だ。

トロピカリアが土着的なブラジルの現れだとしたら、こちらは都会的なブラジルの側面をよく表しているように思う。Novos Baianosと併せて置いておきたい一枚。

 


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あがれゆぬはる加那 - 里国隆

あがれゆぬはる加那

あがれゆぬはる加那

  • アーティスト:里国隆
  • オフノート
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沖縄の道端で琴を担いで演奏していた里国隆氏の演奏を録音したもの。主に沖縄民謡からなる。

本来の沖縄民謡はこのようなドロドロとしたものだったのかと衝撃を受けること間違いなしのブルージーな歌と演奏。「呻くような.......」と表現している文章がいくつかあったけれど、まさしくその通り。そして琴と歌だけの音楽なのに、何度聴いても理解できそうにないほどの厚みがある。これが一種の芸術の極致なのだろうね。

不思議なのは、OKI氏の演奏するアイヌ民謡に通じる部分を感じること。北海道と沖縄と土地としては離れているが、精神的な部分で同相なのかもしれない。

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狂雲集 - Jigen

weeklynijikama.bandcamp.com

かの一休の名著の名前を冠したアルバム。その名の通り狂ったビートが集められているドラムンベース集になっている。

インダストリアルかつ和かつドラムンベースという多彩な要素を、最小限の要素だけで表現しているのは妙。ノイズとして聴けばBoredoms並みにオススメできるものかもしれない。寺で延々と鳴っていてほしい感じのアルバムだ。

手数の異様に多いDJ Krush、みたいな印象も受ける。DJ Krush好きにもオススメ。


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30 מקומות להיות בהם לפני שאתה מת (feat. אריק אבר & אושי מסלה) - פנחס ובניו

oferpinhas.bandcamp.com

最後にアルバムではなく曲を。イスラエルのバンド。彼ら曰くジャンル分けが嫌いらしいが、あえて言うならジャズロック

で、Twitterで偶然見かけたこの曲、レベルが異様に高い。目まぐるしく変わる展開、節々で挟まれる変拍子民族音楽に立脚したと思わしきフレージング、それでいてとってもポップと非常に高度。これがYoutubeで僅か2000再生あまりにとどまっているのはオカシイ、と断言してしまってよいだろう。

今年聴いた新曲の中でも抜群。こういう曲はなかなかお目に掛かれない。彼らがアルバムを出すのを大変楽しみにしている。

 


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*1:風じゃなくて猫から選んだのがオモシロい

Tonkori in the Moonlight/OKI【2022】

ピリカ・ウポポ!

TONKORI IN THE MOONLIGHT

TONKORI IN THE MOONLIGHT

  • アーティスト:OKI
  • MAIS UM
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トンコリという楽器をご存知だろうか。

アイヌに伝わっている弦楽器で、琴に似ている音が鳴る代物。ちなみに某異常言語学オタクによれば、トンコリの名は満州とかロシア方面とのつながりがあるらしい。*1

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面白い持ち方で演奏しているが、実は現在分かっているトンコリの演奏法や制作方法は樺太アイヌのもの。北海道や千島でもトンコリが演奏されていたらしいが、伝承が途絶えてしまって現在はよく分からないらしい。

 

 

いきなりドマイナー民族楽器の紹介を初めてどうしたんだこのブログと思った方もいるかもしれないが、今回紹介するOKI氏は数少ないトンコリの奏者の一人。

 

OKI氏は北海道生まれ。Bandcampのアルバムページによれば高田みどり*2と同世代とのこと。

元々自身がアイヌであることを全く知らなかったらしいが、大学生のときひょんなこと*3から自分がアイヌであると判明。もっともそんなすぐには現実に向き合えず、しばらくアメリカでネイティブアメリカンと放浪する。*4

その後北海道に戻ってきた際にアイヌ記念館の館長をやっていたいとこからトンコリをもらう。その時にこれこそ自分の進む道だ!と直感的に思い、以降今まで演奏を続けて来たそうな。作ったアルバムは20枚以上に及ぶ。Tonkori in the Moonlightは一種のベスト盤であり、彼の活動に今一度スポットライトを当てようという試みなのだ。ちなみにレーベルはイギリスのMAIS UM DISCOSで、民謡クルセイダーズなんかもこのレーベル出身。*5

 

一曲目のDrum Songから痺れる。


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上で歌われているのはアイヌの民謡、所謂ウポポなのだが、ドラムのリズムはジャマイカの音楽・ニャビンギを模したもの。


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そう、OKI氏はレゲエに非常に精通した人物であり*6、単なるアイヌ民謡の再演ではなく現代の音楽に基づいた価値観でもって演奏してくれているのだ。

氏のトンコリ捌きはKai Kai As Toでよく聴ける。


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この曲も伝統的なアイヌの民謡。カイカイアストというのは幌尻岳にある湖のことらしい。*7そこに古くからカムイが住むと言われており、それを信仰する歌がこれというわけ。

琴に似ていると記事冒頭で書いたが、トンコリはよりくぐもった音をしていて土着的。構造的にも大差ないはずなのに不思議。音楽の神秘を感じる。

個人的には不思議とハワイの民謡を思いだしてしまった。遠く離れておりさすがに交流があったとは考えにくいが、よく似た「自然への憧憬」がベースにあるからかもしれない。

 

いくつかの曲では安東ウメ子というアイヌ語民謡の名手とコラボしている。


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コオロギによる食害をテーマにした曲らしいが、一聴して分かる通り歌とトンコリの調がズレズレ。それなのにこれ以上ないほどバックと歌が調和しているのは伝統音楽の妙。

これは細野晴臣をしてこんなの作れないと言わしめたもの。美しさの中に狂いが込められているさまが、我々日本人にも通じるアイヌの災害や疫病をも精霊として祀る精神性を感じる。ちなみにより古い演奏家の音源だともっと滅茶苦茶やっているらしい。さすが。

 

 

アイヌ民謡というとどうしても一般リスナーに向いていないニッチな音楽というイメージがあるが、OKI氏はアイヌの精神性を失わず、現代のリスナーにも積極的に勧められるような音楽に仕立て直したのが偉大である。民謡クルセイダーズと同じレーベルから出ているのにも、レーベルオーナーのそういった意図が見え隠れする。

ちなみにOKI氏はダブを取り入れたバンドを組みライブ活動を行っているなど、現在も精力的に活動されている。ライブ動画もいくつかあるので是非見てみよう。

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確かこれは去年の11月ごろに発売が発表されたものだと記憶しているのだが、その際あまりにも衝撃的で2022年の年間ベスト候補と言ってしまった。

 

多分世界一速い年間ベスト宣言だったんじゃないだろうか。もっと早く言っていた人いたら教えてください。

 

 

※ちなみに……

アイヌ文化をテーマにした漫画・ゴールデンカムイ4/27まで無料だそうです。これを聴きながら読むっきゃないね。

 

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*1:幻の「本州アイヌ語」を復元する [Emishi/Honshu Ainu Language] - YouTube

*2:ここでこの人を出すのが海外レーベルらしい

*3:突然謎の女性から「あなたの父親は本当の親じゃない!」と電話がかかってきたそうな。怖。

*4:アイヌと近しい雰囲気があるのかな?

*5:海外の方がこういうのを再発しがちだが、日本人としてとても悔しい。

*6:アイヌに回帰したのもLucky DubeのBack to My Rootsの影響があることを仄めかしている。

*7:具体的にどこなのかは分からなかった。有識者教えてください

和名盤

ZENで行こう

昨今やれ和ジャズだやれ和ブギーだやれ和レアグルーヴだなどとやたら「和」を付けたジャンル名を目にすることが多い。海外のそれにも見劣りしない日本における音楽、という意味で付けているのだろうと思われる。

しかしながら、僕は悲しいよ。そういうもののほとんどは日本製なだけで伝統的な日本文化を取り入れているとは必ずしも言えないからだ。

僕はイタリアンプログレ、ブラジリアン、クラウトロックが好きなのだけれど、そのどれもに共通するのが「当地の文化に大きく立脚している」ということ。そうでなければ英米のそれと変わりないからね*1。そして日本にも日本文化に立脚した名盤が沢山あるのだ。主に和ジャズ。*2

が、和装時のBGMにしようかなと思って「和 名盤」とかで検索してもそれっぽい記事があまり出てこない。これは由々しき問題だ。多くの人が和装している時に何も聴けずに泣きながら過ごす羽目になってしまう。

というわけで、日本人にも十分和を感じさせる名盤セレクションです。*3

新月/新●月

新月

新月

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一応プログレサークル出身なのでここから紹介。日本のプログレというと海外のプログレの焼き直しだったり妙にフュージョン風なものだったりするのだが、新●月は日本人に日本を感じさせてくれる、日本にしか存在しえない音楽をやってくれている。

白眉は一曲目のジェネシスやP.F.M.系統の幻想的でクラシカルなプログレ空気感を日本の魂でもって表現している。日本文化を意識した日本のロックは海外受けするが国内受けはそこまで...なことが多いのだが、これはむしろ国内評価が高い。ライブでのパフォーマンスを含め後続のV系にも影響が強くあるらしい。*4

ハードすぎもポップすぎもしない音楽性で、アルバム全体を見ても無暗に長い曲や組曲が少ないのも非プログレファンにお勧めしやすいポイント。鬼の他にも白唇やFreezeなど日本プログレ史に残る名曲も収録されている。日本のプログレを追いたいなら必聴。

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Ceremony/People

70年代初頭のニューロック期、日本におけるロックを模索する様々な試みがなされていたがその中で出てきた奇盤。サイケロックを声明やお経に混ぜ合わせてみようという実験。

サイケが東洋思想に影響を受けている側面があるからかあんまり強引な感じはしない。エレキをこういう琵琶だと思うか、経をこういうドゥームメタルと思えば結構いける。

面白いのはあんまり仏教臭がしない所。仏教思想みたいなのはサイケロックのそれに吸収されてしまっているのかもしれない。ただただ「音」として仏教的云々が耳に入ってくる。フラワートラベリンバンドは結構思想を感じるが、対照的である。

その後メンバーは各々裏方として活動していたようだが、再びバンドでのアルバムは出さなかった模様。まあ一発ネタな気も否めないので仕方がない。


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銀界/菊地雅章+山本邦山

銀界

銀界

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日本を代表するジャズピアニスト菊地雅章人間国宝の尺八奏者山本邦山がタッグを組んだ作品。海外でも当時から日本のジャズを代表する名盤としてよく取り上げられていたそうだ。

西洋のジャズ理論に基づいたバンド隊と古来伝統に則った尺八の演奏とが互いに手を取り合う即興演奏は言うまでもなく圧巻。邦楽とモードジャズとの驚くべき親和性は、理論とかよく分からないリスナー*5にも圧倒的な迫力としてビシバシ伝わってくる。

またアルバム全体で「引き算の美学」を徹底しているのも特筆すべき点。この後の日本のアンビエントの名盤で徹底的な引き算をしているものがまま出てくるが、それの予言というべき編曲になっているようにも感じる。

山本邦山は人間国宝でありながら尺八ジャズに積極的に取り組んだ人で、他にも名盤がわんさかある。彼の参加したジャズ作品に外れはほぼないので、「山本邦山」という名前をジャズコーナーで見たら真っ先に買うべき。


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Bamboo/村岡実

尺八名盤として銀界と双璧をなすのは村岡実のBamboo。昨今は銀界よりもこっちの方が評価が進んでいる印象がある。

銀界がモードジャズと邦楽なら、こちらはジャズファンクと邦楽。一見珍奇な取り合わせに見えてしまうが、ここでは無理なくまとめ上げてしまっている。また尺八のみならず琵琶や三味線などの和楽器という和楽器を使っているのもおいしい。特に和太鼓捌きが光る「陰と陽」の説得力は他の追随を許さず、和ジャズを代表する名曲として海外からも再評価されている。またいくつか入っているカバー曲(妙に和風なTake Fiveなど)も珍妙でちょっと笑えてしまうが、かなりレベルが高い。

アルバム自体はサブスクにないが、オーストラリアのバンドが「陰と陽」をカバーした際一緒に村岡実バージョンも解禁したので是非聴いてみよう。ファンキーで和な音空間に圧倒されるはず。


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Is it Japan?/サクライケイスケ

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Music From Memoryのコンピに冒頭曲が取り上げられていたのも記憶に新しいアルバム。

内容はというと祝詞や声明にバックトラックを付けたもの。イメージとしてはPeopleの平成バージョンと言った趣である。

そしてPeopleはまだ仏教に寄り添う気概があったのだがこちらはその気は皆無。非常にモダンなハウス音楽の上にただ祝詞がくっついているだけ。これは「サイバー忍者」というワードを初めて聞いた時の違和感に似ている。この強引さは余裕があった時代の音楽界らしいが、逆に上手いこと調和しているような気もしないでもない。

乱暴な手続きや解釈を経過した後でも、これらの祝詞は日本文化といえますか?というのがこのアルバムの言いたいことだろう。ただ僕は十分に勘違いな日本を感じたので和名盤として取り上げた。

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THE 吉原/栄芝×近藤等則

こちらもIs it Japan?的なダンスミュージック×伝統俗謡。しかしこれは電化ジャズトランぺッター近藤等則作。一風も二風も変わっている。

ベースはゴリゴリのドラムンベースであり、その上で三味線やら琴やら長唄やらが歌われ、ちょくちょくリヴァーブの深いトランペットやギターが顔を出す、という仕様。一言で言うならIDMに伝統曲をぶち込んだという感じ。アルバム全体で異様な空気感が漂う。

演奏されているのは実際に吉原で歌われていた端唄。これに近藤さんが惚れ込みこのアルバムができたというわけ。ちなみに栄芝さんは端唄のお家元の方で「栄芝流」なる流派まであるそうだ。この異形感は吉原の妖艶な空気感にも通じるのかもしれない。

色々調べていたら、なんとこれをテレビでやっていたらしい。アルバムそのままの異形感。チャンネルを回してこれに行きついた人は愕然としたに違いない。


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虫の夢死と無死の虫/COCK ROACH

虫の夢死と無死の虫

虫の夢死と無死の虫

  • トランキ・リナライズ・レコード
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所謂ロキノン系の中で異彩を放つアルバム。The Back Hornと仲良いらしいが、中身は全く異なり和風オルタナグランジというべきもの。

和風でハードなロック、要所要所に顔を出す日本文学風味などちょっと人間椅子っぽさがあるのだが、今作は津軽のような一地域だけではない現代から見た広範的な日本を見据えている。その点についてはこの後紹介する志人に近いかもしれない。

個人的には子供の遊び歌のようなメロディラインが頻繁に表れるのが魅力的。雅楽とかから引っ張ってくるのも良いが、結局日本人の根幹にあるのは子供の頃周りが歌っていた遊び歌だったりする。


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詩種/志人+スガタイロ―

先ほどもちらっと名前を出したラッパー・志人の代表作。フリージャズピアニストのスガタイロ―氏とのコラボ作になっている。

志人もスガタイロ―も手数の多さに定評があるのだが、今作では悠々とした日本の森を感じさせるような、たおやかな印象がアルバム全体に漂っている。

とはいえ曲によっては二人が覚醒し、伝統文化をバックにした声明のような神懸ったラップとそれに追随するように毎小節拍子を変えていくジャズ隊が殴りかかってくるシーンも。また日本民話のようなコンセプトアルバムにもなっているのでしっかりリリックを聴いても楽しい。両氏の良いところが存分に発揮されている名盤であり、日本においてどういう音楽を作るべきかと云う問いに対する一つの答えを提示したとも思う。

驚きなのはこれほどの好内容でありながら僅か二日でレコーディングしたらしい。どこかで時間がねじれた?

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Alo/Ajate

Alo [Analog]

Alo [Analog]

  • アーティスト:Ajate
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一時期Twitterでも話題になっていたらしいバンド。竹でできたギターを使って演奏するらしい。

アフリカで見たお祭りと帰国してみた阿波踊りに同じ「土着性」を感じ、それを表現しようと出来上がったバンドらしい。それ故かメロディ主体になりがちな和名盤たちの中で最もリズム重視。打楽器は勿論、ギターや笛、歌に至るまで全ての音を線ではなく点で置いていっている印象。アフリカ音楽的なビート感が非常に心地よい。

とはいってもどこまで行っても日本の農村音楽という趣を崩さない。リズムに合わせるため歌詞は徹底的に解体されて聞き取りにくくなってしまっているが、田んぼや狩りの歌であったりする。

一言で言うならば祭囃子ファンクというのが最も近い形容。各地のお祭りに彼らを呼んでほしい。


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Echoes of Japan/民謡クルセイダーズ

これはもうみんな知っているだろうから取り上げるのも今更な気がしたけれど、「和名盤」と銘打っといてコレがないのは軽い詐欺なので取り上げましょう。

民謡を主題になんかやるのは東京キューバンボーイズ矢野顕子や山本邦山など50-70年代によく見られたのだが、じゃあ最近の音楽の潮流に合わせてやってみたらどうなるの?ということで彼等。

民謡の古臭いイメージをどこかへサヨナラしてくれる、現代的なラテンアレンジが楽しい。民謡から今の音楽に進化して~なんて考えがちだが、この世には進化なんてものはなくただ形態が変化していくだけなのだということをよく理解させてくれる。

最近は海外での活動も増えているほか、某なんとかミュージックが猛プッシュしたため市井にも広まっている模様。民謡が再び民衆の音楽となれる日は近い。

ちなみにVo.の方は本職の民謡師らしい。さすが声が違う。


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怪談/冥丁

怪談

怪談

  • 冥丁
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ご存知冥丁。冥丁といえば古風だけれど、「和な名盤」というくくりであったらこっちの方が上。

静謐としたアンビエントと時たま載ってくる不可思議な声、尺八のような楽器のおかげで小泉八雲の世界にいるような気分になること請け合い。ポエトリーリーディング的に挿入される怪談の一節や真言などがより一層その気分を盛り上げてくれる。京都で聴きたい。

古風の前作もこういう作風だったので古風聴いた時ずいぶん作風変わったなあと思ったが、レコードのサンプリングの仕方など後々に続く要素が結構散見される。でももう一作くらい怪談の作風でやってほしいところ。


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You Who Are Leaving To Nirvana/高田みどり

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MKWAJU等の活動で知られるパーカッショ二ストの高田みどりのソロ作。ちなみに記事公開時点ではまだ二曲しか聴けない。

でもその二曲だけで「名盤」と言い切れるほど。内容はこの記事で紹介したアルバムで嫌というほどに取り上げた声明をフィーチャリングしたものだが、高田みどりのアンビエンスの光るパーカッションでアルバム名通り天国へ連れていかれる気分になる。さすがはアンビエント・リヴァイバルの中心人物。

今年の強力な個人的年間ベスト候補の一つ。ちなみにもう一つの候補はOKIの「月明かりのトンコリ」でこちらもおススメ。アイヌ民謡に根差した音楽。

 

 

 

 

ふう。これで「和 名盤」の検索結果を一件作ることができた。あとこの前このブログで取り上げたシャープ・ファイブの春の海もおススメです。

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皆さんも#和名盤で和な名盤を任意のSNS上で発信してみるのはいかが?

*1:個人的に辺境ガレージの多くにピンとこないのはそういうのがあるのかもしれない。つまり辺境で英米と同じことをやる意味って何、と思ってしまうのだ。

*2:和ジャズという名称も当初は伝統に立脚したものを中心にセレクトしたから生じた名称なんじゃないだろうか。

*3:既に定番として一般に有名なのは外しています。芸能山城組矢野顕子人間椅子フラワー・トラベリン・バンド等。そっちももちろん良いからまだの人は聴いてね。

*4:実際そうらしく、プログレに疎い友人に聴かせたところV系みたいとのこと。

*5:例えば僕

春の海/井上宗孝とシャープ・ファイヴ【1968】

GSのプログレ!?

日本ではインスト曲はあんまり売れないと言われるが、エレキインストは不思議と受けが良い。

ベンチャーズやトルネイド―スに始まり、GS期には寺内タケシの諸作やブルーコメッツなんかの日本産も多い。その後の時代にも様々な角度から日本の音楽に影響を及ぼし*1YMOフュージョンといった80年代のムーブメントもエレキインストの文脈から説明されることもよく見る話。ノリとして津軽三味線に通じる部分があるので抵抗なく受け入れられるものと思われる。


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そしてそういうわけで伝統的な日本の音楽をエレキでカバーする、という試みはグループサウンズ期の音楽によく見られる。好例はさっき挙げ寺内タケシだろうね日本民謡大百科と称し、多種多様な伝統曲を取り上げているシリーズも作るほどである。日本民謡における彼の功績はなかなかのもののはず。

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それゆえ今でも寺内タケシはよく知られているが、ただ個人的にこの手で最も出来が良いと思うのが今回紹介するシャープファイブ春の海である。

 

もともとシャープファイブはロカビリーバンドとして当時よく知られた「ウェスタンキャラバン」由来らしい。ロカビリーの凋落とともに解散し、そのメンバーを中心に作ったコーラスグループ「シャープホークス」からさらに分派独立のがシャープファイブ。この時代によくある解散、吸収、独立を繰り返した末に成立したバンドだね。

彼らの一番有名な活躍はテレビ番組「勝ち抜きエレキ合戦」での模範演奏らしい。ただ手軽に見れる映像は現在さすがに残っていなかった。当時を知る人によると、ギタリストの三根さんの演奏が驚異的で、寺内タケシと比肩するという人もほど。個人的に彼のギターはロックというよりジャズとかフュージョンのギターに近いような気がする。

シャープファイブはその巧みな演奏技術を縦横無尽に生かした演奏と抜群の構成力が持ち味。そしてアルバム「春の海」では伝統曲というコンセプトのもと、シャープファイブ節が楽しめる。

 

白眉は冒頭、タイトル曲「春の海」


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元曲はお正月になっているあれである。明治の琴の大家・宮城道雄の作曲。

序盤は純邦楽曲らしく比較的穏やかに開始。笙の如く鳴り響くオルガンも魅力的。

ユルユルとサイケ調に有名なテーマ部をひき終わると、待ってましたと言わんばかりにサーフロックに変貌。昭和の子供たちが熱狂したというギター捌きで現代人も圧倒していく。

邦楽~サイケ~サーフロックと違和感なく変容していくさまは、海外の音楽通曰くまさに日本のプログレ。このころのロックバンドに珍しくオルガンが目立って活躍しているのがプログレ感を助長しているね。
クラシックのロックカバーということでELP展覧会の絵を彷彿させる。まだプログレという言葉も生まれていない時代、本人たちもそこまで考えてなかったと思うが、日本にいながら彼らは世界的に見ても大変前衛的な音楽をやってしまったのだ。

この春の海のレベルの高さ故かアルバム内の他収録曲が霞みがちになってしまうが、もちろん他も素晴らしい。例えばさくら変奏曲。有名な「さくらさくら」を宮城道雄が琴用にアレンジしたもの。

尺八部をオルガン、琴部をギターが弾き倒す。寺内タケシも同じ曲をやっているのだがシャープファイブはより細やかなアレンジと演奏になっており、なんだかこの後でてくる和ジャズの民謡カバーたちを思い出す。

GSというと海外では「ジャパニーズ・ガレージロック」と称される通りどうもパンキッシュであったりサーフロック的であったりする音楽と捉えがちだが、ソフィスティケイトされた彼らの演奏はそれらとは異なるGSの側面を教えてくれる。

そして個人的に推しているのは木遣りづくし。残念ながらネット上に音源が見当たらなかったが、冒頭の掛け声をちゃんと再現しているのが偉い。ダサいとされたのか当時の民謡カバーではこういうのを省きがちなのだが、現代からみると和魂洋才の風がして面白い。

そして最後は春の海リプライズで終わり。当時最先端の「コンセプトアルバム」としてみても全く遜色のない選曲と編曲、構成。60年代日本のアルバム中でもトップクラスに位置するほど完璧なアルバムと言ってよい。

 

さて、このアルバムの何より凄いのはこれだけ意欲的なことをやりながら滅茶苦茶売れたところである。なんでも68年11月期のチャート一位をかっさらい、本命と言われた美空ひばりを抜きその年のコロンビアの年間アルバムトップ賞を取ったそうな。

この後このアルバムでやったような和風路線を進んでみたりクラシックのカバーをしたりするのだが、どうもレコード会社が無理やりやらせたと思わしき企画ものが増えてくる。また本人が「出来が悪かった」と言っているカバーを元曲が人気だからとシングルカットするなど、レコード会社の横暴が目立つ。もっともGSバンドには珍しくブーム後も長続きしたのだが、それ故その後のロック音楽家に商業音楽と思われ正当な評価を得られずに忘れ去られてしまった感が否めない。

シャープファイブがこのまま日本音楽をテーマにしたオリジナル曲なんかやっていたら、日本の音楽史どころか世界的に多大な影響を及ぼしたに違いない。レコード会社に縛られがちなGS故に忘れ去られてしまった、不運なバンドである。

 


www.youtube.com

*1:70年代大滝詠一の諸作にエレキインストがあったり、意外なところだと平沢進がエレキインストからギターを始めていたりする。

Corneliusのコメントは異様に短い

コメントミニマリスト

音楽ファンであれば「○○推薦!」みたいな文句とともに、偉い音楽家の推薦文がCDに添えられているのを幾度となく見たことがあるはずだ。特に期待の新人にはよく推薦文がついてあるように思う。

 

例えば去年発売された折坂悠太の「心理」へ寄せられたceroの高城さんからのコメントを見てみよう。

 

折坂くんの声を聴いていると、時々自分の声帯が動いているような錯覚を憶える。歌うことの純粋な快楽を、無意識のうちに私の身体が追体験しようとしている。こんなふうに身体を鳴らすことができたらさぞかし気持ちの良いことだろうと思う。歌唱の中毒になって四六時中歌ってしまいそうだ。しかし彼の声には自身の魂を観察する理性も宿っている。だから歌いすぎるということがない。理性はユーモアやアイロニーと言い換えてもいい。獣の身体と諧謔の精神が声のなかで手を繋いでいる。それが彼の音楽の一番の魅力と思う。

身体感覚に基づいた理知的な文章。ネオシティポップをバンドの枠組みでやることを常々考えている人物だからこそのこれである。

 

洋楽であっても国内盤に日本人音楽家からのコメントがつくことがある。例えばDiggs DukeOffering For Anxiousについていた菊地成孔の推薦文。

ノーマークだったんですけど、買って聴いてみて腰を抜かしました。1曲も捨て曲が無い。自分の番組で何曲かプレイしました。ドナルド・フェイゲンのフォロワー・マニアにも俊英ですが、それだけじゃない。「いまジャズ」のリズムマニアには必聴です。打ち込みですが「1拍の5等分」という、世界的なトレンドに最もポップな形で挑み、見事に成功させています。音楽マニア向けでもありますが、懲り過ぎではなく、カフェでかかっていても気持ちよいのが嬉しいですね。一聴してあんまり新しさが解らない物こそ、裏ですげえ新しい。そんなアルバムの代表だと思います。

音楽理論や膨大な知識に裏付けされつつも、ざっくばらんとしたいつもの菊地節で書かれたコメント。

 

このように推薦文ひとつとってみても音楽家(ないしは作家、評論家等々)の色が楽しむことができ、推薦文を見て「ああ~これ〇〇っぽいね~」とかニヤニヤしている気持ち悪い音楽ファンも多くいることであろう。

 

そんな中で異色の推薦文を書く人物がいる。それがCorneliusである。

例えば、長谷川白紙「エアにに」に付けていたコメント。

この綿密で複雑な楽曲を作ったのが、まだ20歳の青年とは驚きです。自分が20歳の頃を思い出すと恥ずかしくなります。

そう、驚くほどに当たり障りが無いし短いのである。らしいっちゃらしいのだが。

 

いやいや、そんなこと言ってもこれが特別なんじゃないの?原稿の長さも短めで発注されているのでは?とお思いのあなた。実は長谷川白紙の帯は割と書いている方なんです

他の例として、推薦文ではないけど、い・ろ・は・すのCM曲をヨルシカのn-bunaと一緒に作った時のそれぞれのコメントを見てみようじゃないか。

rockinon.com

まずはn-bunaの文章。

【n-buna(ヨルシカ) コメント】
水が跳ね上がるようなメロディを意識して作曲、演奏しました。水の音というのは不思議なもので、季節、場所、条件、そして勿論聞く人によって様々な印象に姿を変えます。そういった水の気まぐれで蠱惑的(こわくてき)な面を、白州の水音との交わりの中に感じていただければ嬉しいです。
初めは澄んだピアノフレーズをイメージして、もっと落ち着いた印象のデモをいくつか持っていきましたが、その中でも元気な印象のものが採用されたように思います。その演奏データを原案に、小山田さんには好きにアレンジ、音を追加するなどしていじっていただいています。
小山田さんはミュージシャンとしても作家としても大変大きな先輩なので、今回胸を借りるつもりで制作しました。大きく引っ張っていただいています。貴重な経験になりました。ありがとうございました。

 

先輩である小山田圭吾に気を使いつつ、楽曲に込めた思いまで丁寧に解説してくれている理想的なコメント。

対するCorneliusはこんな感じ。

 

コーネリアス コメント】
楽曲で使われている全ての水の音は、「い・ろ・は・す」の水源である白州で録音してきていただいた音を使いました。
水が奏でる様々な音の表情を、楽しんでください。

短け~!当たり障りがね~~!n-bunaさんにもねぎらいの言葉を~!!

比較して分かったと思うが、彼は本当に短いし当たり障りのないコメントしか出さない。これがCorneliusの芸風なのである。

 

僕はこの芸風に憑りつかれてしまい、彼のコメントを片っ端からディグった。

良かったのはサ道の主題歌に引き続き選ばれた時のコメント。

www.tv-tokyo.co.jp

小山田圭吾Cornelius)コメント】

新シリーズ!嬉しいです!早く心からととのえる日が来ますように。

可愛い。そしてコロナにも気を遣う。そして短いし当たり障りがない。

 

この芸風が極北まで行っているのはNEU!のトリビュート盤へのコメントである。

skream.jp

Always NEU!

これは最早コメントなのか怪しい領域にまで突っ込んでいる。ミニマリズムここに極まれり。

 

さて、これだけ見てみて大体Corneliusのコメントの傾向が分かったと思う。

四つ挙げるとすれば、以下のとおりである。

・具体的な内容に触れない。

・自分の感情は「嬉しい」「楽しい」「驚き」程度でとどめ、それ以上ふみこまない。

・普段使いしない言葉は使わない。

・そして何より、短くて当たり障りがない。

 

実践編

さてここまでCorneliusの文体の特徴をみてきた。ここからは実践編として僕が最近買った良かったものをCorneliusっぽいコメントで紹介していこう。

 

コーヒーと一緒によく食べます。是非楽しんでください。

主観的描写を嫌うCorneliusは食品を紹介する時も「おいしい」とか「香りが......」とかは言わない。自分はコーヒーと一緒に食べるのだ、その事実だけを書くのである。己がうちの感情はCornelius流では言ってはいけないのである。「短くて当たり障りがない」を常に念頭に置くべきなのだ。

 

四十年も前にこのような漫画があったことに驚きました。

とはいっても時には己が感情を示すべき時もある。それは本の紹介や推薦など、直接取り扱うとどうしても内容に触れてしまうような状況に陥った時。そういう時は最小限度の感情表現をしよう。自分を主体ではなく媒体として扱うことで、内容に触れずに当たり障りのなく短いコメントを書くことができるのだ。このコメントは簡単そうに見えて深い思索の結果なのである。

 

ネピネピ

直接描写しようとすると内容に触れてしまい、自分の内にある感情を書こうとしても長文になってしまう場合もある。そういう時はナンセンスなただ軽い一言だけを添えるのが鉄則である。ただしこれは最終手段であることを忘れてはいけない。常日頃から苦心したミニマリズムを実践しているからこそ、このナンセンスが成立するのだ。

 

 

自分で書いてみると、決して手抜きではなく一種のCornelius流の哲学によってかような文章が錬成されていることが分かった。音楽に限らず、本の帯やお菓子のパッケージでこういった短いコメントを見かけたならば、主観を排したミニマリズムの美学を感じ取ってほしい。

 

ⒸEPOCALC