Mass (Volume I) / Yuri Umemoto【2025】
Z世代の礼歌
梅本氏のことを知ったのは2023年だったと思う。この動画がきっかけだった。
アニメをサンプリング・カットアップした音MADに(恐らく)自身で撮影したヴァイオリンの動画素材を合わせた、クラシカルかつインターネット的な、不可思議な手触りの音楽である。
音楽の行き詰まりが叫ばれて久しい昨今、ネット的ユーモアを現代音楽へと昇華させようとする試みは非常に新しいものだった。*1マニアックな現代音楽の動画ながら、音楽ファンの間でちょっとした話題になったのを覚えている。ちょうど直後に「人マニア」が市井をにぎわしたのも、そして原口サスケ氏率いるCDsが音MADを特集したのも全くの偶然ではないはずだ。
そんな極めて現代的な現代音楽家・梅本佑利氏だが、昨今はアニメ声でできる表現を突き詰めている。合唱(アニメ声のための)なるものまで作っている。
そしてその極北と言えるのが今作である。
構造は今までの梅本作品とはそこまで変わらない。カットアップされたアニメ声のボーカルに追従するように、クラシカルなピアノが乗っている。
ちょっと聴くと、アニメ声が何やらラテン語を喋っているのがわかるはず。丁寧に字幕までついている。なんだかぷよぷよの連鎖ボイスみたい。
実はこれはキリスト教の礼拝時に唱える文句。このアルバムの収録曲の歌詞はすべて礼拝の祈りであり、すなわちこのアルバムはこう見えて讃美歌集なのである。
彼が讃美歌をやるのは合点がいく。というのも、梅本氏は初期からずっとバッハについての曲を発表しているからである。
Super Bach Boyはマリオよろしく、バッハの楽曲をワープしたり失敗したりしながら演奏する。現代っ子のユーモアセンスはこの頃から炸裂している。
バッハは数多くの讃美歌を残した作曲家であり、その現代的解釈としてアニメ声による讃美歌という発想になったのは想像に難くない。またWikipediaによれば梅本氏のルーツは讃美歌にあるそうだ。
さて、実は以前このブログでも讃美歌集を一つ紹介していた。合成音声(ボーカロイド)による讃美歌である。
このアルバムは合成音声全般に漂う「虚無感」を生かしたものになっているが、梅本氏による今作はアニメ声特有の「非現実感」をうまく使っていると言えるだろう。
アニメ声というのは単なる非現実を越えた、画面の向こうでの現実といえるであろう。アニメの中で何かしらの現実が行われており、我々がそれを覗き見ている、というわけである。
実は多くの日本人にとって、キリスト教とはそんなアニメとさほど変わらない現実感ではないだろうか。
日本において、キリスト教を信じている人の割合はわずか1パーセントであるらしい。*2
これは親指がよく曲がって手の甲につく人より少ない割合である。多分相当少ないんだろう。
日本人にとってのキリスト教とは(言ってしまえば宗教とは)、画面の中の日常系アニメと本質的に変わらない。だからネットのおもちゃ=MADにもなってしまう......と読み取るのは冒涜的だろうか。
しかし、私にはどうしても魔法少女の呪文のように礼拝の祝詞を唱えるこのアルバムには、現実味を感じることができない。もはや宗教はアニメの魔法と変わりない存在、ということなのかもしれない。
*1:梅本氏によれば、この試みはスーパーフラットを参考にしているようだ。納得~~
*2:ソースとかそういうのはこれ https://jp.usembassy.gov/ja/religious-freedom-report-2022-ja/
ギター/戸張大輔【1999】
僕らのバラード、聴かせよう
noteにかまけていたら、「90日間更新されてないブログに付くあの広告」がついてしまった。自分のブログで見ることになるとは思わなかった。これは良くない。更新します。
謎の音楽家、という文句はその雰囲気とは裏腹にまあまあの頻度で耳にする。
好例がボカロ系・宅録系の音楽家。が、その手の音楽家をロックバンドより耳にする昨今においては謎の大安売り状態。謎の敷居が低すぎ。
そして最初謎な人でも、音楽活動やインタビュー等を重ねるうちにだんだん人物像が判明していく。そうして謎のレッテルはどこへやら、みんな知ってる○○さんになっちゃっていたりするのである。海外音楽家でも同じことで、結構フランクにインタビューに応えてしまいイメージが崩壊する、なんてこともしばしば。
そんな中、人気と裏腹に20年以上謎のヴェールに包まれている正真正銘・謎の音楽家がいる。それが戸張大輔だ。
日本音楽史上最大の異端と言っていいかもしれない戸張大輔。実際、2022年11月現在、彼の名をGoogleで調べてもレコ屋の情報と「ネットに全然情報が転がってないね💛(大意)」とだけ書かれたブログ記事、2chのスレがヒットするくらい。
それらの情報を総合すると、下記のような人物らしい。
彼は元々難波Bearsを中心に関西スカム界隈で活動していたらしい。(恐らく大学在学時)
その頃のライブの様子はなんとYoutubeで聴くことができる。ネット凄すぎ。
シタール風にギター即興を繰り広げた後、突如として叫ぶ。それだけなのにどこか神々しさがあるね。
初期はこんな感じのスカムやノイズばかりやっていたそうだが、段々とドリーミーなポップスに移行していったらしい。
そんな中でカセットテープEPを幾つか制作。ライブハウスにおいてもらったところ、それをたまたま聞いた山塚EYEが仰天。その中の作品「ファンタジー」がなんとREMIX誌のベストアルバム企画に選出される。
豊田道倫など周囲の勧めもあり、カセットで出していた音源と新録を併せたアルバム「ギター」を1999年に発売。また偶然来日していたキャロライナ・レインボーが本国にカセットを持ち帰り、勝手に音源を販売。これによって世界的な評価も得た。
その後の活動は2009年に2ndアルバム「ドラム」、2019年に「ギター」LPとオマケの7インチを出すのみ。インタビューはもちろん、ライブも21世紀中は多く見積もって5回以下しかやっていない。
以上が恐らく今のところ一番詳しい戸張大輔のプロフのはずだ。
そう、これくらいしか分かっていない。しかし彼の音楽を聴くとそれで良い気もする。
「ギター」の音楽は摩訶不思議である。民族音楽っぽくもあるしアシッドフォークっぽくもある。
しかしそのどれでもない。形容を拒否する音楽とでも言うべきか。故に人に紹介する時一苦労する。
ただ一つ言えるのはノスタルジーに満ち満ちているところ。彼の曲には名前がついていないが、そのせいか名前を忘れた懐かしい歌のようにも思ってしまう。
上記、無題4が彼の代表作とも言うべき作品。アルバムの4曲目なのでこの呼び名になっている。
Lo-Fi音像から繰り広げられるバラード。単純明快で一度聴いたら忘れられない旋律と、朴訥ながら精神的葛藤と愛情を帯びた歌詞。
やっていることに複雑さはない。しかしながら、あらゆるものを超越した何かがあると感じてしまう。僕はこれを聴くたびに、故郷の古ぼけた街並みや幸せと不幸の狭間を思い出す。
「誰しも頭の中で鳴っている、しかし頭の外には持ち出せない鼻歌のような音楽」という評があったが、見事に的を射ている。音楽の終点にある歌なのかもしれない。
無題4はその後さまざまな人にカバーされているが、中でもEGO-WRAPPIN'中納良恵氏のものが特に有名。こちらも名カバー。
他にも彼には名曲がわんさかある。例えばインストの無題16はイルリメにサンプリングされていたらしい。
このようなインスト曲も多く収録されており、どれも自然と遊ぶ風景が目の裏に浮かぶよう。山登りをしているジャケットもとてもよく似合っている。
またスカム出身らしい音楽も幾つかあるが、それもどこでもない民俗舞踊のようで絶品。さらにそこからシームレスにドリーミーな歌に行くさまは圧巻。山本精一のいう「うたもの」の概念をここまで体現している人はそういまい。
個人的に好きなのは無題5。
名曲の後なのでかすみがちだが、こちらは楽し気でさながらギターポップ。
しかしながら彼独特の異様な空気感は保たれている。暗いものを背負っている人が快活に振る舞っているような、そんな感じ。とても悲しい雰囲気を漂わせた明るい歌だ。
そんな戸張大輔の人となりはライブレポからも伝わってくる。
このライブでは自信なさげに2ndアルバムの発表をし観客から歓声が上がったらしいが、その際「嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべて「有り難うございます。」とお辞儀をしながら言った」そうだ。
この反応を見るにどうやら自分に途轍もなく自信がない人のようである。それ故「別に誰も聴かないから、たまの活動で十分」と思って活動していないんじゃないだろうか。その昔雑誌に「天才です」と言ってテープを送ったそうだが、それもこの性格の裏返しのように思えてならない。
しかしながら近年になっても彼の評価が下がるどころか上がりっぱなし。
例えば海外の人が選ぶ日本のアルバムランキング100に2ndのドラムが入っていたりとか。
アメリカ最大手の音楽コミュニティ「Rate Your Music(RTM)」で、得点上位100位の日本のアルバムをピックアップしてみた。
— 𝑷𝒆𝒕𝒆𝒓 (@zippu21) 2021年9月29日
1. サントラやライブ盤は排除
2. 投票数が5票以上のものから選出
はっぴいえんど史観とは一線を画す、海外からの評価、視点が面白い。 pic.twitter.com/13u6K887WD
もちろん国内でも支持が篤く、崎山蒼志やウ山あまねなど宅録系の音楽家がライブでカバーしているなど彼に親しんでいる若い音楽ファンも大変多い。
どうか戸張氏には自身は最も必要とされている音楽家であると知ってほしいところである。せめてサブスク解禁してほしい。
ちなみに古の着メロサイトには無題4があったらしい。着メロ文化すげえ。
Webマガジン"Water Walk"を作ったよ。
お世話になっております。
note上でWater WalkというWebマガジンを作りました。
Water WalkというのはJohn Cageの曲の名前です。
彼がこれをTVでやった時番組の観覧客は笑いながら鑑賞していたのですが、このような前衛的な故の面白さを音楽評論をはじめとした音楽記事でもやりたいね、というマガジンになっております。
ちなみに初回記事はこれです。
CorneliusのPoint of View Pointを書き出しました。#Water_Walk
— Water Walk (@WaterWalk_Music) 2022年5月28日
Cornelius "Point of view Point"書き出し(含"Bug (Electric Last Minute)")|EPOCALC @insomniaEPOCALC #note https://t.co/uYx0bHIqVS
「意味わからない」「狂気を感じる」といったコメントをいただきましたが、これがまともに見えるような記事も用意されております。オタノシミニ。
今後は複数人で月二回程度更新していく予定です。
執筆陣には今のところJMXさんやもこみさんなど界隈の有名人が揃っています。大変ありがたい。またオモコロ杯関連の記事で目を付けていた方にも書いていただけるようです。これまたありがたい。人々に感謝。
執筆希望の方はご一報いただければと思います。
それでは皆様よろしくお願いいたします。
最近のディグ(2022/5)
最近聴いたアルバムで良かったものをまとめた記事です。新旧混合。
The Seventh Son - Malachi Thompson
madaboutrecordslabel.bandcamp.com
ジャケ写にかかけられた無駄なエフェクトが最高にダサい、70年代アメリカ産ジャズ。ただ中身は想像できないほど硬派。なんでもこの人はアヴァンギャルドなトランぺッターとして定評のある方らしく、なるほど今聴いても先進的なスピリチュアルジャズ。こういう中身と外見が一致していないアルバムを見つけると、それだけで白飯を四合と味噌と少しの野菜くらいはイケる。
スピリチュアルジャズと云うとなんとなくコルトレーン夫妻の感じを思い浮かべてしまうが、このアルバムはファンキーでノリノリ。ファンクやAORとか好きな人には刺さるはず。あとエレピ捌きが上品で素敵。
When Do We Get Paid - Staples Jr. Singers
CCMっぽい空気感があるゴスペルファンク。歌詞も公民権運動に関係するものらしい。時代柄だね。
どうやら元々自主制作で作られたものらしく、そのせいか結構音がスカスカだし楽器の音もこもっている。基本的に教団の後ろ盾がある普通のCCMはしっかり音が作りこんであることが多いので、逆にこのアルバム独特の味が出ていて◎。楽曲自体のレベルは自主制作で出たとは思えないほどにレベルが高い。こちらもAOR好きにオススメ。
ちなみにStaples Singersというよく似た名前のゴスペルグループがあるが、それとは無関係らしい。音楽性も少し似ているが、他人の空似。不思議なモノだね。
Can Ràbia - Can Ràbia
バルセロナのテクノポップバンド。ロシア構成主義なジャケは結構あるが、これはその中でもトップクラスにジャケにマッチしている。
なんでも影響元はLa DusseldorfやHarmoniaなど所謂NEU!近辺のクラウトロック群とのこと。音作りが本物の70年代音楽と見まごうほどにエイジングされており、要所要所でハンマービート風の打ち込みドラムが楽しめる。こういうの好き。
また、ただクラウトロックの再現をしているだけではなく、エレクトロファンク的なボコーダーを使ったボイシングや昨今のアンビエントリヴァイバルに影響を受けているだろうトラックも見られるのもポイント。あくまで現在の再評価軸で作られたクラウトロックという風がして新鮮。Sovietwave好きにはオススメ。
Ждите нас звезды! - Project Lazarus
もう一丁Sovietwave的なのをご紹介。Vaporwaveの名門・VILL4INから出ているアルバム。
先ほどのCan Rabiaはバンドサウンド風であったが、こちらはアンビエント風味がより強い。雄大な宇宙を飛んでいくロケットを思わせる。子供の頃に宇宙にあこがれていたので、このようなロマンのある音楽は個人的にノスタルジックに響く。
また音質の感じも国営放送のBGMのような雰囲気。それこそ宇宙開発のドキュメンタリーで鳴ってそうな感じ。Sovietwaveというより、ソ連版Vaporwaveということなのだろうか。
Amen Break Nostalgia - aphextwinsucks
最近日本のアニメ等をサンプリングしたハードコアやブレイクビーツ路線のテクノ、通称「ロリコア」が流行っているがその中でも大変良かったもの。
アメリカンインディーのような優しいギターと歌ものの下に、まさにAphex Twinさながらの手数の多いビートが流れているさまは新鮮。意外とこういうの聴いたことなかったかもしれない。Arti e Mestieriのインディーロック版と云った感じかな?
EP最後に入っているチャットモンチーのサンプリングで作ったトラックも、おいしいところだけ取ってきました感がありサンプリングの妙を感じる。元曲を聴きなおしてしまった。
残念なのはこれがEPである点。フルアルバム出してほしい。
The First Sound of The Future Past - Astrophysics & Hatsune Miku
astrophysicsbrazil.bandcamp.com
大分前から局所的に話題になっていた、初音ミクによる往年のテクノポップの名曲カバー集。80年前後からの選曲になっている。
制作者は現在はブレイクコアを作っているらしいが元々Synthwave出身とのこと。その来歴に裏付けされた、Vaporwave的な80年代Sythwaveな価値観と現在それにとってかわりつつあるロリコアやHyperpopとを結びつけるカバーになっている。世代の橋渡しともいえるね。秀逸。
個人的には「初音ミクsingsニューウェイヴ」と同じノリを感じた。それを10年後の今やるとこのアルバムになるのかもしれない。
人は人を救えない - 六角精児
「相棒」での鑑識役で(個人的には)お馴染みの、六角精児氏によるカバーアルバム。
正直俳優が片手間にやったアルバムでしょ~なんて思っていたのだが、蓋を開けてみるとビックリ。非常に硬派なアルバムに仕上がっている。
まず選曲が良い。浅川マキや高田渡といった有名どころはもちろん、猫や休みの国といった通好みなもの*1、さらにはオリジナルはライブのみでしか演奏されていない曲なども含まれていて「本気」を感じる。
そして演奏と声も渋く、これらの硬派な選曲にピッタリ合っている。なんでも昔からバンド活動をしていたらしくその経験が遺憾なく発揮されているね。最後にひっそり置かれたオリジナル曲も大変レベルが高い。舐めていてすみませんでした…...
残念なのはサブスクでは数曲しか聴けない所。マイナーな新譜なので全部聴くには実際買うしかないです。
დამწვრისები - Skhivosani
グルジア語は流石に読めない。だが、なかなか素敵なギターアンビエント。
先駆者がクラウトロック系だからか、ギターアンビエントというと「繰り返し」の妙を感じるものが多い。しかしこちらはどちらかというと「音響派」的な意味でのアンビエントになっている。ドゥルッティ・コラムが近いかな。やる気のない、遠いボーカルも味があって緩いトラックに合っている。
またアンビエントに終始するのではなく、たまに歪んだギターも入れていくのがワンポイントになっている。その点においてシューゲイザー的な感性も感じられる。
Journeys Vol. 1 - Chris Dingman
Khan JamalにしかりBobby Hutchersonにしかりヴィブラフォンが入るジャズには名盤・名曲が多い気がするが、今年出たこちらもご多分に漏れず名盤。
ヴィブラフォン特有の透き通るような爽やかさは保ちつつ、よりミニマルな方向の音楽になっている。先ほど挙げた先人たちのものより現代的な内容にアップデートされている印象。
その先進性はアンビエントのアルバムとして聴いても違和感ないほど。というかほとんどアンビエント。自然礼賛の風を感じる。森の中で聴きたい。
キ、Que、消えん? - 樋口寿人
何と読むか分からないでお馴染みのレーベル・巫唱片から出ていた日本人のフォークアルバム。
このレーベルは中国の山麓や台湾の寺社など東アジアの匂いが充満しているアルバムを出すことに定評がある。今回もご多分に漏れず日本の晩夏の夕暮れを音にしたような作品。大体お彼岸あたりかな。この世とあの世の境目が薄れてくる、あの時期の空気感がアルバム全体で漂う。
取り立ててわざとらしく日本風な音楽ではないのに日本を感じさせる不思議な音楽がたまにあるが、今作がまさしくそれ。今年の夏はとてもお世話になりそうだ。
Prá Quem Sabe Das Coisas
MPB黎明期にひっそり録音されたアルバム。
この時代のブラジルには結構好き勝手にやっている音楽も多く人にオイソレと勧められないものもしばしばなのだが、今作はボサノヴァに立脚したアシッドフォークという趣で素敵。南米独特のサイケデリアが感じられる、初夏の昼下がりに聴きたいタイプの音楽だ。
トロピカリアが土着的なブラジルの現れだとしたら、こちらは都会的なブラジルの側面をよく表しているように思う。Novos Baianosと併せて置いておきたい一枚。
あがれゆぬはる加那 - 里国隆
沖縄の道端で琴を担いで演奏していた里国隆氏の演奏を録音したもの。主に沖縄民謡からなる。
本来の沖縄民謡はこのようなドロドロとしたものだったのかと衝撃を受けること間違いなしのブルージーな歌と演奏。「呻くような.......」と表現している文章がいくつかあったけれど、まさしくその通り。そして琴と歌だけの音楽なのに、何度聴いても理解できそうにないほどの厚みがある。これが一種の芸術の極致なのだろうね。
不思議なのは、OKI氏の演奏するアイヌ民謡に通じる部分を感じること。北海道と沖縄と土地としては離れているが、精神的な部分で同相なのかもしれない。
狂雲集 - Jigen
かの一休の名著の名前を冠したアルバム。その名の通り狂ったビートが集められているドラムンベース集になっている。
インダストリアルかつ和かつドラムンベースという多彩な要素を、最小限の要素だけで表現しているのは妙。ノイズとして聴けばBoredoms並みにオススメできるものかもしれない。寺で延々と鳴っていてほしい感じのアルバムだ。
手数の異様に多いDJ Krush、みたいな印象も受ける。DJ Krush好きにもオススメ。
30 מקומות להיות בהם לפני שאתה מת (feat. אריק אבר & אושי מסלה) - פנחס ובניו
最後にアルバムではなく曲を。イスラエルのバンド。彼ら曰くジャンル分けが嫌いらしいが、あえて言うならジャズロック。
で、Twitterで偶然見かけたこの曲、レベルが異様に高い。目まぐるしく変わる展開、節々で挟まれる変拍子、民族音楽に立脚したと思わしきフレージング、それでいてとってもポップと非常に高度。これがYoutubeで僅か2000再生あまりにとどまっているのはオカシイ、と断言してしまってよいだろう。
今年聴いた新曲の中でも抜群。こういう曲はなかなかお目に掛かれない。彼らがアルバムを出すのを大変楽しみにしている。
*1:風じゃなくて猫から選んだのがオモシロい
Tonkori in the Moonlight/OKI【2022】
ピリカ・ウポポ!
トンコリという楽器をご存知だろうか。
アイヌに伝わっている弦楽器で、琴に似ている音が鳴る代物。ちなみに某異常言語学オタクによれば、トンコリの名は満州とかロシア方面とのつながりがあるらしい。*1
面白い持ち方で演奏しているが、実は現在分かっているトンコリの演奏法や制作方法は樺太アイヌのもの。北海道や千島でもトンコリが演奏されていたらしいが、伝承が途絶えてしまって現在はよく分からないらしい。
いきなり民族楽器の紹介を初めてどうしたんだこのブログと思った方もいるかもしれないが、今回紹介するOKI氏は数少ないトンコリの奏者の一人。
OKI氏は北海道生まれ。Bandcampのアルバムページによれば高田みどり*2と同世代とのこと。
元々自身がアイヌであることを全く知らなかったらしいが、大学生のときひょんなこと*3から自分がアイヌであると判明。もっともそんなすぐには現実に向き合えず、しばらくアメリカでネイティブアメリカンと放浪する。*4
その後北海道に戻ってきた際にアイヌ記念館の館長をやっていたいとこからトンコリをもらう。その時にこれこそ自分の進む道だ!と直感的に思い、以降今まで演奏を続けて来たそうな。作ったアルバムは20枚以上に及ぶ。Tonkori in the Moonlightは一種のベスト盤であり、彼の活動に今一度スポットライトを当てようという試みなのだ。ちなみにレーベルはイギリスのMAIS UM DISCOSで、民謡クルセイダーズもこのレーベル出身。*5
一曲目のDrum Songから痺れる。
上で歌われているのはアイヌの民謡、所謂ウポポなのだが、ドラムのリズムはジャマイカの音楽・ニャビンギを模したもの。
そう、OKI氏はレゲエに非常に精通した人物であり*6、単なるアイヌ民謡の再演ではなく現代の音楽に基づいた価値観でもって演奏してくれているのだ。
氏のトンコリ捌きはKai Kai As Toでよく聴ける。
この曲も伝統的なアイヌの民謡。カイカイアストというのは幌尻岳にある湖のことらしい。*7そこに古くからカムイが住むと言われており、それを信仰する歌がこれというわけ。
琴に似ていると記事冒頭で書いたが、トンコリはよりくぐもった音をしていて土着的。構造的にも大差ないはずなのに不思議。音楽の神秘を感じる。
個人的には不思議とハワイの民謡を思いだしてしまった。遠く離れておりさすがに交流があったとは考えにくいが、よく似た「自然への憧憬」がベースにあるからかもしれない。
いくつかの曲では安東ウメ子というアイヌ語民謡の名手とコラボしている。
コオロギによる食害をテーマにした曲らしいが、一聴して分かる通り歌とトンコリの調がズレズレ。それなのにこれ以上ないほどバックと歌が調和しているのは伝統音楽の妙。
これは細野晴臣をしてこんなの作れないと言わしめたもの。美しさの中に狂いが込められているさまが、我々日本人にも通じるアイヌの災害や疫病をも精霊として祀る精神性を感じる。ちなみにより古い演奏家の音源だともっと滅茶苦茶やっているらしい。さすが。
アイヌ民謡というとどうしても一般リスナーに向いていないニッチな音楽というイメージがあるが、OKI氏はアイヌの精神性を失わず、現代のリスナーにも積極的に勧められるような音楽に仕立て直したのが偉大である。民謡クルセイダーズと同じレーベルから出ているのにも、レーベルオーナーのそういった意図が見え隠れする。
ちなみにOKI氏はダブを取り入れたバンドを組みライブ活動を行っているなど、現在も精力的に活動されている。ライブ動画もいくつかあるので是非見てみよう。
確かこれは去年の11月ごろに発売が発表されたものだと記憶しているのだが、その際あまりにも衝撃的で2022年の年間ベスト候補と言ってしまった。
2022年ベスト候補が早くも...https://t.co/ZwicZ5Yg80
— PA⊬EPOCALC (@insomniaEPOCALC) November 30, 2021
多分世界一速い年間ベスト宣言だったんじゃないだろうか。もっと早く言っていた人いたら教えてください。
※ちなみに……
アイヌ文化をテーマにした漫画・ゴールデンカムイが4/27まで無料だそうです。これを聴きながら読むっきゃないね。
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