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本州一下らない音楽レビューブログ

春の海/井上宗孝とシャープ・ファイヴ【1968】

GSのプログレ!?

日本ではインスト曲はあんまり売れないと言われるが、エレキインストは不思議と受けが良い。

ベンチャーズやトルネイド―スに始まり、GS期には寺内タケシの諸作やブルーコメッツなんかの日本産も多い。その後の時代にも様々な角度から日本の音楽に影響を及ぼし*1YMOフュージョンといった80年代のムーブメントもエレキインストの文脈から説明されることもよく見る話。ノリとして津軽三味線に通じる部分があるので抵抗なく受け入れられるものと思われる。


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そしてそういうわけで伝統的な日本の音楽をエレキでカバーする、という試みはグループサウンズ期の音楽によく見られる。好例はさっき挙げ寺内タケシだろうね日本民謡大百科と称し、多種多様な伝統曲を取り上げているシリーズも作るほどである。日本民謡における彼の功績はなかなかのもののはず。

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それゆえ今でも寺内タケシはよく知られているが、ただ個人的にこの手で最も出来が良いと思うのが今回紹介するシャープファイブ春の海である。

 

もともとシャープファイブはロカビリーバンドとして当時よく知られた「ウェスタンキャラバン」由来らしい。ロカビリーの凋落とともに解散し、そのメンバーを中心に作ったコーラスグループ「シャープホークス」からさらに分派独立のがシャープファイブ。この時代によくある解散、吸収、独立を繰り返した末に成立したバンドだね。

彼らの一番有名な活躍はテレビ番組「勝ち抜きエレキ合戦」での模範演奏らしい。ただ手軽に見れる映像は現在さすがに残っていなかった。当時を知る人によると、ギタリストの三根さんの演奏が驚異的で、寺内タケシと比肩するという人もほど。個人的に彼のギターはロックというよりジャズとかフュージョンのギターに近いような気がする。

シャープファイブはその巧みな演奏技術を縦横無尽に生かした演奏と抜群の構成力が持ち味。そしてアルバム「春の海」では伝統曲というコンセプトのもと、シャープファイブ節が楽しめる。

 

白眉は冒頭、タイトル曲「春の海」


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元曲はお正月になっているあれである。明治の琴の大家・宮城道雄の作曲。

序盤は純邦楽曲らしく比較的穏やかに開始。笙の如く鳴り響くオルガンも魅力的。

ユルユルとサイケ調に有名なテーマ部をひき終わると、待ってましたと言わんばかりにサーフロックに変貌。昭和の子供たちが熱狂したというギター捌きで現代人も圧倒していく。

邦楽~サイケ~サーフロックと違和感なく変容していくさまは、海外の音楽通曰くまさに日本のプログレ。このころのロックバンドに珍しくオルガンが目立って活躍しているのがプログレ感を助長しているね。
クラシックのロックカバーということでELP展覧会の絵を彷彿させる。まだプログレという言葉も生まれていない時代、本人たちもそこまで考えてなかったと思うが、日本にいながら彼らは世界的に見ても大変前衛的な音楽をやってしまったのだ。

この春の海のレベルの高さ故かアルバム内の他収録曲が霞みがちになってしまうが、もちろん他も素晴らしい。例えばさくら変奏曲。有名な「さくらさくら」を宮城道雄が琴用にアレンジしたもの。

尺八部をオルガン、琴部をギターが弾き倒す。寺内タケシも同じ曲をやっているのだがシャープファイブはより細やかなアレンジと演奏になっており、なんだかこの後でてくる和ジャズの民謡カバーたちを思い出す。

GSというと海外では「ジャパニーズ・ガレージロック」と称される通りどうもパンキッシュであったりサーフロック的であったりする音楽と捉えがちだが、ソフィスティケイトされた彼らの演奏はそれらとは異なるGSの側面を教えてくれる。

そして個人的に推しているのは木遣りづくし。残念ながらネット上に音源が見当たらなかったが、冒頭の掛け声をちゃんと再現しているのが偉い。ダサいとされたのか当時の民謡カバーではこういうのを省きがちなのだが、現代からみると和魂洋才の風がして面白い。

そして最後は春の海リプライズで終わり。当時最先端の「コンセプトアルバム」としてみても全く遜色のない選曲と編曲、構成。60年代日本のアルバム中でもトップクラスに位置するほど完璧なアルバムと言ってよい。

 

さて、このアルバムの何より凄いのはこれだけ意欲的なことをやりながら滅茶苦茶売れたところである。なんでも68年11月期のチャート一位をかっさらい、本命と言われた美空ひばりを抜きその年のコロンビアの年間アルバムトップ賞を取ったそうな。

この後このアルバムでやったような和風路線を進んでみたりクラシックのカバーをしたりするのだが、どうもレコード会社が無理やりやらせたと思わしき企画ものが増えてくる。また本人が「出来が悪かった」と言っているカバーを元曲が人気だからとシングルカットするなど、レコード会社の横暴が目立つ。もっともGSバンドには珍しくブーム後も長続きしたのだが、それ故その後のロック音楽家に商業音楽と思われ正当な評価を得られずに忘れ去られてしまった感が否めない。

シャープファイブがこのまま日本音楽をテーマにしたオリジナル曲なんかやっていたら、日本の音楽史どころか世界的に多大な影響を及ぼしたに違いない。レコード会社に縛られがちなGS故に忘れ去られてしまった、不運なバンドである。

 


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*1:70年代大滝詠一の諸作にエレキインストがあったり、意外なところだと平沢進がエレキインストからギターを始めていたりする。

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