最近聴いたアルバムで良かったものをまとめた記事です。新旧混合。
The Seventh Son - Malachi Thompson
madaboutrecordslabel.bandcamp.com
ジャケ写にかかけられた無駄なエフェクトが最高にダサい、70年代アメリカ産ジャズ。ただ中身は想像できないほど硬派。なんでもこの人はアヴァンギャルドなトランぺッターとして定評のある方らしく、なるほど今聴いても先進的なスピリチュアルジャズ。こういう中身と外見が一致していないアルバムを見つけると、それだけで白飯を四合と味噌と少しの野菜くらいはイケる。
スピリチュアルジャズと云うとなんとなくコルトレーン夫妻の感じを思い浮かべてしまうが、このアルバムはファンキーでノリノリ。ファンクやAORとか好きな人には刺さるはず。あとエレピ捌きが上品で素敵。
When Do We Get Paid - Staples Jr. Singers
CCMっぽい空気感があるゴスペルファンク。歌詞も公民権運動に関係するものらしい。時代柄だね。
どうやら元々自主制作で作られたものらしく、そのせいか結構音がスカスカだし楽器の音もこもっている。基本的に教団の後ろ盾がある普通のCCMはしっかり音が作りこんであることが多いので、逆にこのアルバム独特の味が出ていて◎。楽曲自体のレベルは自主制作で出たとは思えないほどにレベルが高い。こちらもAOR好きにオススメ。
ちなみにStaples Singersというよく似た名前のゴスペルグループがあるが、それとは無関係らしい。音楽性も少し似ているが、他人の空似。不思議なモノだね。
Can Ràbia - Can Ràbia
バルセロナのテクノポップバンド。ロシア構成主義なジャケは結構あるが、これはその中でもトップクラスにジャケにマッチしている。
なんでも影響元はLa DusseldorfやHarmoniaなど所謂NEU!近辺のクラウトロック群とのこと。音作りが本物の70年代音楽と見まごうほどにエイジングされており、要所要所でハンマービート風の打ち込みドラムが楽しめる。こういうの好き。
また、ただクラウトロックの再現をしているだけではなく、エレクトロファンク的なボコーダーを使ったボイシングや昨今のアンビエントリヴァイバルに影響を受けているだろうトラックも見られるのもポイント。あくまで現在の再評価軸で作られたクラウトロックという風がして新鮮。Sovietwave好きにはオススメ。
Ждите нас звезды! - Project Lazarus
もう一丁Sovietwave的なのをご紹介。Vaporwaveの名門・VILL4INから出ているアルバム。
先ほどのCan Rabiaはバンドサウンド風であったが、こちらはアンビエント風味がより強い。雄大な宇宙を飛んでいくロケットを思わせる。子供の頃に宇宙にあこがれていたので、このようなロマンのある音楽は個人的にノスタルジックに響く。
また音質の感じも国営放送のBGMのような雰囲気。それこそ宇宙開発のドキュメンタリーで鳴ってそうな感じ。Sovietwaveというより、ソ連版Vaporwaveということなのだろうか。
Amen Break Nostalgia - aphextwinsucks
最近日本のアニメ等をサンプリングしたハードコアやブレイクビーツ路線のテクノ、通称「ロリコア」が流行っているがその中でも大変良かったもの。
アメリカンインディーのような優しいギターと歌ものの下に、まさにAphex Twinさながらの手数の多いビートが流れているさまは新鮮。意外とこういうの聴いたことなかったかもしれない。Arti e Mestieriのインディーロック版と云った感じかな?
EP最後に入っているチャットモンチーのサンプリングで作ったトラックも、おいしいところだけ取ってきました感がありサンプリングの妙を感じる。元曲を聴きなおしてしまった。
残念なのはこれがEPである点。フルアルバム出してほしい。
The First Sound of The Future Past - Astrophysics & Hatsune Miku
astrophysicsbrazil.bandcamp.com
大分前から局所的に話題になっていた、初音ミクによる往年のテクノポップの名曲カバー集。80年前後からの選曲になっている。
制作者は現在はブレイクコアを作っているらしいが元々Synthwave出身とのこと。その来歴に裏付けされた、Vaporwave的な80年代Sythwaveな価値観と現在それにとってかわりつつあるロリコアやHyperpopとを結びつけるカバーになっている。世代の橋渡しともいえるね。秀逸。
個人的には「初音ミクsingsニューウェイヴ」と同じノリを感じた。それを10年後の今やるとこのアルバムになるのかもしれない。
人は人を救えない - 六角精児
「相棒」での鑑識役で(個人的には)お馴染みの、六角精児氏によるカバーアルバム。
正直俳優が片手間にやったアルバムでしょ~なんて思っていたのだが、蓋を開けてみるとビックリ。非常に硬派なアルバムに仕上がっている。
まず選曲が良い。浅川マキや高田渡といった有名どころはもちろん、猫や休みの国といった通好みなもの*1、さらにはオリジナルはライブのみでしか演奏されていない曲なども含まれていて「本気」を感じる。
そして演奏と声も渋く、これらの硬派な選曲にピッタリ合っている。なんでも昔からバンド活動をしていたらしくその経験が遺憾なく発揮されているね。最後にひっそり置かれたオリジナル曲も大変レベルが高い。舐めていてすみませんでした…...
残念なのはサブスクでは数曲しか聴けない所。マイナーな新譜なので全部聴くには実際買うしかないです。
დამწვრისები - Skhivosani
グルジア語は流石に読めない。だが、なかなか素敵なギターアンビエント。
先駆者がクラウトロック系だからか、ギターアンビエントというと「繰り返し」の妙を感じるものが多い。しかしこちらはどちらかというと「音響派」的な意味でのアンビエントになっている。ドゥルッティ・コラムが近いかな。やる気のない、遠いボーカルも味があって緩いトラックに合っている。
またアンビエントに終始するのではなく、たまに歪んだギターも入れていくのがワンポイントになっている。その点においてシューゲイザー的な感性も感じられる。
Journeys Vol. 1 - Chris Dingman
Khan JamalにしかりBobby Hutchersonにしかりヴィブラフォンが入るジャズには名盤・名曲が多い気がするが、今年出たこちらもご多分に漏れず名盤。
ヴィブラフォン特有の透き通るような爽やかさは保ちつつ、よりミニマルな方向の音楽になっている。先ほど挙げた先人たちのものより現代的な内容にアップデートされている印象。
その先進性はアンビエントのアルバムとして聴いても違和感ないほど。というかほとんどアンビエント。自然礼賛の風を感じる。森の中で聴きたい。
キ、Que、消えん? - 樋口寿人
何と読むか分からないでお馴染みのレーベル・巫唱片から出ていた日本人のフォークアルバム。
このレーベルは中国の山麓や台湾の寺社など東アジアの匂いが充満しているアルバムを出すことに定評がある。今回もご多分に漏れず日本の晩夏の夕暮れを音にしたような作品。大体お彼岸あたりかな。この世とあの世の境目が薄れてくる、あの時期の空気感がアルバム全体で漂う。
取り立ててわざとらしく日本風な音楽ではないのに日本を感じさせる不思議な音楽がたまにあるが、今作がまさしくそれ。今年の夏はとてもお世話になりそうだ。
Prá Quem Sabe Das Coisas
MPB黎明期にひっそり録音されたアルバム。
この時代のブラジルには結構好き勝手にやっている音楽も多く人にオイソレと勧められないものもしばしばなのだが、今作はボサノヴァに立脚したアシッドフォークという趣で素敵。南米独特のサイケデリアが感じられる、初夏の昼下がりに聴きたいタイプの音楽だ。
トロピカリアが土着的なブラジルの現れだとしたら、こちらは都会的なブラジルの側面をよく表しているように思う。Novos Baianosと併せて置いておきたい一枚。
あがれゆぬはる加那 - 里国隆
沖縄の道端で琴を担いで演奏していた里国隆氏の演奏を録音したもの。主に沖縄民謡からなる。
本来の沖縄民謡はこのようなドロドロとしたものだったのかと衝撃を受けること間違いなしのブルージーな歌と演奏。「呻くような.......」と表現している文章がいくつかあったけれど、まさしくその通り。そして琴と歌だけの音楽なのに、何度聴いても理解できそうにないほどの厚みがある。これが一種の芸術の極致なのだろうね。
不思議なのは、OKI氏の演奏するアイヌ民謡に通じる部分を感じること。北海道と沖縄と土地としては離れているが、精神的な部分で同相なのかもしれない。
狂雲集 - Jigen
かの一休の名著の名前を冠したアルバム。その名の通り狂ったビートが集められているドラムンベース集になっている。
インダストリアルかつ和かつドラムンベースという多彩な要素を、最小限の要素だけで表現しているのは妙。ノイズとして聴けばBoredoms並みにオススメできるものかもしれない。寺で延々と鳴っていてほしい感じのアルバムだ。
手数の異様に多いDJ Krush、みたいな印象も受ける。DJ Krush好きにもオススメ。
30 מקומות להיות בהם לפני שאתה מת (feat. אריק אבר & אושי מסלה) - פנחס ובניו
最後にアルバムではなく曲を。イスラエルのバンド。彼ら曰くジャンル分けが嫌いらしいが、あえて言うならジャズロック。
で、Twitterで偶然見かけたこの曲、レベルが異様に高い。目まぐるしく変わる展開、節々で挟まれる変拍子、民族音楽に立脚したと思わしきフレージング、それでいてとってもポップと非常に高度。これがYoutubeで僅か2000再生あまりにとどまっているのはオカシイ、と断言してしまってよいだろう。
今年聴いた新曲の中でも抜群。こういう曲はなかなかお目に掛かれない。彼らがアルバムを出すのを大変楽しみにしている。
*1:風じゃなくて猫から選んだのがオモシロい