広げよう、ボサモドキの世界
以前、ブラジル以外の音楽家がやっているボサノヴァ(とかブラジル音楽的なもの)をボサモドキと命名し、紹介したところ割と反響があった。
この記事の後も色々調べたのだが、日本のものについては「J-ボッサ」と称して愛好する人がいるらしい。いやあ、偉大なる先人には頭が下がりっぱなしである。
しかし世界各地の、というと本格的にはまだいないらしい。
というわけで、今回はJ-ボッサを中心に、僕が探し出した(または調べ上げた)ボサモドキの名盤をご紹介いたします。
TOKYO BOSSA NOVA LOUNGE
日本のボサノヴァの話をするとき、このアルバムは避けては通れない。
主に歌謡曲畑の方の歌うボサノヴァが収録されているコンピなのだが、日本のミュージシャンだけで作られたと聞いて驚いてしまうほど完成度の高い曲が沢山詰まっている。
亜流ながらボサノヴァの名盤として世界的に評価が高く、Rate Your Musicの2002年ランキングに入っているというこの手のアルバムにしては異例の快挙をなしえている。
coco←musika/coco←musika
2000年代初頭は日本の音楽界でボサノヴァが流行っており、様々なボサノヴァテイストの音楽があふれかえっていた(らしい)。
それを牽引していたのがTokyo Bossa Novaというコンピシリーズ。GONTITIやSaigenjiなどよく知られたボサモドキアーティストが収録された名コンピだが、その中に一緒によく入っているのがこの人たち。
ボサノヴァ風の音楽をギターだけでなく三線も使ってやるというごった煮の異形。こういうのがボサモドキならでは。
Tokyo Bossa Novaにはその他naomi & goroや流線形、Lampといった界隈の有名人から「商業的」と無視されてしまった音楽家までぎっしりボサモドキが詰まっている。チェック必須!
Touch! Generations O.S.T.
おそらく任天堂の特典でもらえたのであろう、DSやWii関連の音楽を集めたサントラ。
ミナス派に影響を受けたことで知られる、とたけけこと戸高一生氏や、かの名曲「けけボッサ」を作った峰岸透といったラテン音楽に造詣の深いメンバーによる楽曲が揃っており、ボサモドキの名盤と言っても差支えがない。
けけボッサやキッチンボッサといったボッサはもちろんだが、Wiiショッピングチャンネルのテーマといった戸高一生によるブラジリアンもどきは一聴の価値あり。ゲーム以外ではここでしか聴けない。特にネットミームと化し、ジャズミュージシャンによってカバーされもしたMiiコンテストチャンネルは必聴。
あと、結構最近のアンビエントとしても聴ける曲も入っているのでお得。
夢の城/アコースティック・クラブ
日本の環境音楽家たちが集ったグループによるアルバム。
環境音楽と言ってもバンド名通り電子的なものではなく、軽井沢のペンションでウイスキー飲みながら聴いたらきっと恐らく最高な気分になれるであろうメロウなアルバム。もちろんボサモドキナンバーもたくさん含まれており、弦楽器隊が印象的な緩やかなアレンジで聴かせてくれる。
GONTITIを昭和に持ってきたらこういうことをやりそうな、不思議な魅力のあるアルバム。
Aria the Animation O.S.T./Choro Club
この前単独記事で紹介したが、こちらでも。
厳密にはボサノヴァではなくショーロというジャンルなのだが、ボサノヴァとして聴ける曲もたくさん入っているので聴きごたえ十分。おそらくショーロの中で一番日本人が聴かれている曲たちが詰まっているアルバムのはず。
リーダーの笹子重治氏は日本におけるブラジル音楽の第一人者であり、同氏の参加しているコーコーヤやそのメンバーのソロもボサモドキラバーとしては是非聴いておきたいところ。
Sambaiana/Candeias
ではJ-ボッサ以外を見ていこう、となった時にまずお勧めしたいのがAgustin Lucena。
ブラジルのお隣、アルゼンチン出身の音楽家で、隣国まで行って本物のボサノヴァのミュージシャンにあれこれ教わったそう。
彼の組んでいたグループによるこのアルバムはまごうことなき名盤。ブラジル的な派手さは少し控えめで、やはりアルゼンチン的内省が影響しているのかな。ボサモドキと呼称するのが申し訳なくなるほどボサノヴァに肉薄しており、その意味では今回紹介するアルバムの中で最も完成度の高いもの。
ソロにも名盤がいくつもあり、そのうち一つが今度再発かかるらしいので是非確認しておこう。
Stasera In Casa Seduti In Poltrona Con La Luce Diffusa/COMPLESSO DI SANTE PALUMBO
イタリアンジャズの入手困難な名盤。題名は「今宵は自宅で間接照明のもと君とソファーに寄りかかって」という意味らしい。The 1975臭。
基本的にラウンジジャズであり、難しくなくかなり気を抜きながら聴くことができる。
そしてボサモドキにしては珍しい本格的なアコースティックジャズを聴けるのがこのアルバムの大きな特徴。高い技術力を駆使した流麗なボサモドキを味わおう。
また、この広い世界にはやはり物好きがいるようでイタリアンボッサなるジャンルも存在する。是非抑えておこう。
Verao/Nacho Casado
最近のボサモドキならまずスペインのNacho Casadoの名前が挙がる。何しろプレスリリースに「似非ボサノヴァ」というワードを使っていた唯一の人物だからである。
このアルバムはギター弾き語りとアコースティックベースによる作品。所謂ボッサなものはもちろんのこと、ネオアコティックなものやアルペジオ主体のものなど似非ボサノヴァと自称する割には作風の幅は広い。
総じて、ボサノヴァ風ネオアコ弾き語り。こういうのはベン・ワットとかの系譜なのだろうか。
Sunset Monkeys/Adam Dunning
オーストラリア産ボサモドキ。
ここで紹介するほかの盤と一味違うのはちゃんとリオに行って録音してある点。確かに最近のブラジリアンジャズの音と同じ音の響きがする。
そのほかオリジナル曲もちゃんとポルトガル語で歌っていたりと、最近のボサモドキにしては本格志向。
しかし、どこかブラジルのボサノヴァに見られないような英米のロック/フォーク的な要素が見え隠れするのも魅力。サンプリングも入っているしね。
She Smiles/Swissy
フィリピンのSSWの作品。ただオーストラリア育ちらしい。オーストラリアは意外とブラジリアン大国なのかもしれない。
ボッサに限らず、ギターポップやらAORやらメロウであればあらゆるジャンルを取り入れており幅広い。ただどの曲にもボッサ的な要素が見え隠れし、その意味でボサモドキ名盤として扱っても良いハズ。
やはり日本で人気があるようで、調べると日本でのライブ映像がバカスカ出てくる。やはりみんなこういうの好きね。
Porto Sirena/Cabro Artico
Snail's Houseみたいなkawaii future bassにもボサモドキ要素が散見されるが、ならばボサノヴァで固めて作ってしまえとしたのがこのアルバム。kawaii感じとは裏腹に、ジャケにはコルトレーンとか福井良とかシコ・ブアルキとか描いてあって思想が強い。
基本的な文法はfuture bassだがリズムが一貫してブラジル音楽のそれであり、いつしかノリノリになれること間違いなし。各曲によってボサノヴァへの向き合い方が違うので、飽きずに最後まで突破できるのもアルバムとして◎。
学会では現代ボサモドキの一種の到達点とみる向きもある。
Sensitive Soul/Hope Tala
最後にこちら。めっちゃ有名なので今更感があるが一応。
昨今の英米の新人でボサノヴァと一番向き合っているのは多分この方。ディスコティックなものとボサノヴァを混ぜる発想は以前からあったが、*1その中でも一曲で変化していくのは面白いよね。
ボサモドキを探すときの指針としてこういうのも含めて良いよね~。
というわけでこれらを含め、普通のアルバムにしれっと入っているボサモドキや有名なあの曲を沢山入れたボサモドキプレイリストを貼っておきます。是非ご活用くださいませ。
あ、そういえばこの前出たビリー・アイリッシュの新譜もボサモドキ入ってましたね。ボサモドキがワールドスタンダードになる日も近い。
*1:テイトウワ的な