EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

awakening/佐藤博【1982】

Awakening(覚醒(目覚め))

 

アウェイクニング スペシャル・エディション

アウェイクニング スペシャル・エディション

  • アーティスト:佐藤 博
  • 発売日: 2014/12/10
  • メディア: CD
 

 

 先日、みんな大好きTHE1975の新譜が出た。

Notes On A Conditional Form [Explicit]

Notes On A Conditional Form [Explicit]

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

THE1975といえば、あのクッソダサい印象的な題名でも有名だが、今回は和訳すると「仮定形に関する注釈」らしい。

回を追うごとに毒っ気が抜けていって寂しい気もする。

 

このアルバム、僕もサブスクリプションで聴いてみたのだが、結構僕の好みに合っている内容。

今までのTHE1975は評論で大絶賛されていても、「そんなに言うほどか??」という感じでピンと来ていなかった.

が、これはAORアンビエント等好きなジャンルのリファレンスが多く、ガレージやパンキッシュな曲も好きなタイプなものだったので好感触。1stと同じかそれ以上にお気に入りのアルバムになりそうだ。

ただ正直長いかな。半分にしても良かったかも。

 

で、他の人の評論的にはというと見た限りイマイチ

ジャケや雑多感からビートルズホワイトアルバムと連関させる意見もあったが、絶対にキャリア史上の名盤にはならないという声が多数。

なんだかTHE1975に関しては周囲の意見と一致しなくて哀しい。

 

で、このアルバムを課題やりながら聴いていたのだが、ある曲のサンプリングで笑ってしまった。

Tonight(I Wish I Was Your Boy)である。

Tonight (I Wish I Was Your Boy)

Tonight (I Wish I Was Your Boy)

  • provided courtesy of iTunes

 これ思いっきり佐藤博じゃんwwwwwと一か月ぶりぐらいに大笑いしてしまった。

 

というわけで、今回はTHE1975の元ネタ・佐藤博について迫っていきましょう。

 

 

佐藤博日本ポップス界を代表する鍵盤奏者で、坂本龍一と双璧をなし、山下達郎のバックバンドのメンバーであったなど多くのミュージシャンの名盤に参加した凄腕ピアニストである。

 演奏例:

論寒牛男

論寒牛男

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 

さらに、佐藤博の凄いところはピアノを20歳から始めたということ。

中学生の頃からギターやドラムなど多くの楽器に触れていたらしいのだが「編曲に向くのはギターじゃなくて鍵盤だ!」と思い、一番得意だったはずのギターを差し置いてピアノを極めた変人である。

 

その際ジャズの理論で勉強したからだと思うのだが、多くの鍵盤奏者がクラシックがルーツなのに対し非常にジャズ的な演奏をしたためジャズっぽいフレージングが必要なシティポップで重宝された人材であった。

そんな逸材を隙あらばバンドを組む細野晴臣が放っておくわけがなく、当時企画していたYMOのメンバーとして彼を誘ったそうだ。その為彼を横尾忠則のように「幻のYMOと呼んだりもする。

 

しかし誘われているにもかかわらず彼は渡米。やはり変人。

そして帰国後作り上げたのが、今回取り上げる名盤"awakening"

かの冨田ラボなど、多くの人に影響を与えている。

 

 

 一曲目はタイトル曲

AWAKENING(覚醒)

AWAKENING(覚醒)

  • 佐藤 博
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

ピアノの素敵な小品。

なのだが、いかんせん題名が面白すぎる。 

この曲、awakeningと書いて覚醒とルビを振り、目覚めと読ませるのである。

毒薬 ポイズン 前科 まえ  とかがかわいく思えてくるレベルの当て字。

これを昔Twitterで呟いたら、なぜか人気のVtuberがいいねしてくれた。何故。

 

 次のYou're My Babyからが本番。

YOU'RE MY BABY

YOU'RE MY BABY

  • 佐藤 博
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 プロフェットやジュピターな音が素敵。

溌溂としたAORや踊りたくなるようなディスコと結びついた他の元気のよいシティポップとは一線を画す、アンビエントの佇まいを持ったからっとした夏の浜辺の様な曲である。

 また、この曲の凄い!と言われる点はかなりリアルな打ち込みドラムでかのポンタ氏に「これ誰が叩いてるの?」と勘違いさせたほど。

ポンタ氏のポンコツエピソードに挙げられることもあるが、この曲相手じゃ勘違いしても致し方がない気がする。

 

冨田ラボ氏はI Can't Waitに衝撃を受けたそうだ。

I CAN'T WAIT

I CAN'T WAIT

  • 佐藤 博
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

これはYoutubeに佐藤さんがテレビ出演したときの動画が上がっているのだが、服装がなんだかマジシャンみたいで集中できない。

 

そして色んな楽器を弾きまくる。なんだこの人。

編曲もDX7版になっていて、ちょっと元と違う印象。

こちらのバージョンはなんだか最近のトラックメイカーの作品っぽく、現在のシーンにも物凄い影響を与えているんだなあ、と実感。ドリカムの中村氏に打ち込みジェダイマスターと言われただけある。

 

THE1975の曲で使われたのはSay Goodbye

SAY GOODBYE

SAY GOODBYE

  • 佐藤 博
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

僕もこの曲がアルバムの中でも1,2を争うほど好き。 

イントロの無作為な感じのシーケンスパターンやボコーダーとかのテクノ音楽的な要素とギターカッティングやコーラスワークのようなシティポップ的要素が絡み合い、YMOとナイアガラの幸福な融合に思えてくる。

そしてカッティングめっちゃいいな~とか思っていると山下達郎だったりする。あなたのそばにいつでもタツロー。

佐藤博が実際YMOに入っていたら、増殖がこんな感じのシャレオツアルバムになっていた気がするね。

 

 

さて、最近の洋楽による邦楽のサンプリングは増えてきており、

タイラー・ザ・クリエータヴァンパイア・ウィークエンドが邦楽をサンプリングしたのも記憶に新しい。

2021

2021

  • provided courtesy of iTunes

しかしこれらの曲を聴いたとき、THE1975のように笑うことはなかった。

なんだかTHE1975の曲はVaporwaveのパロディであるように感じたのだ。 

また他の曲もなんだか色んなジャンルのパロディのように思える。

このことから、あのアルバムは現在の音楽シーンの図鑑を作ろうとしたのではないか?というように思う。

やはり先に言った通りホワイトアルバム的である。

しかし二枚組で飽きることのないホワイトアルバムとは対照的にもっと削れたのでは?という声が出てくるのは、THE1975の問題というよりも音楽シーンが画一化されすぎているということの証左なのかもしれない。

 

 

...なんだか佐藤博のレビュー記事のはずなのにTHE1975のレビューみたいになってしまった。

これではいけない。えっと、まあ、その、

佐藤博最高!!!!

 


Hiroshi Sato 佐藤博 - Say Goodbye セイグッバイ

 

 

 

All Vacation Long/Pictured Resort【2016】

世界よ、これがシティポップだ。

 

ALL VACATION LONG

ALL VACATION LONG

  • アーティスト:PICTURED RESORT
  • 発売日: 2016/08/10
  • メディア: CD
 

 

先日、とあるポッドキャストに出させていただき、

そこで諸氏と「シティポップとは何ぞや」という非生産的極まることについて

あーでもない、こーでもないと話した。

 

その一応の流れとして出てきたのは、

「今シティポップと言われているものは80’sのそれではないよね~」

という話。

 

これは常々僕が思ってきたことである。

 

 

最近リヴァイヴァルしているというシティポップを見返してみると、

Plastic Loveだとか、Sparkleだとか、

クラブでかかっているようなものばかりであり、

それに呼応するかのようにシーンにおいても

ディスコでノリノリなリズム重視の奴が

「シティポップ・リヴァイバルだぁ~!!」と言ってもてはやされている。

reiji no machi (feat. イノウエワラビ)

reiji no machi (feat. イノウエワラビ)

  • パソコン音楽クラブ
  • エレクトロニック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

そうでなければ、環境音的な味付けを施したもの。

こっちは恐らく佐藤博とかの影響である。

Kiss In KIX

Kiss In KIX

  • Tsudio Studio
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

 

しかし!!!!!

小学生のころからシティポップを聴いてきた我々は騙されないぞ!!!

 

そもそも、そういう曲の呼び方はニューミュージックが一般的で

シティポップはメジャーな名前じゃなかったこと!!!

何より、ディスコや環境音楽風のシティポップだけじゃなく

AOR、歌謡曲的なシティポップもあったこと!!!

そしてそれが主だったこと!!!

竹内まりやと言えば「けんかをやめて」と「」だったこと!!!


駅 - 竹内まりや

 

 

 

また、同様の理由からか、シティポップで山下達郎と双璧をなす大滝詠一

正直そんなに取りざたされない状況である。

 


大滝詠一 恋するカレン LIVE音源

 

 

このリヴァイバルはシティポップの素晴らしい側面をかなり削ぎ落している感があり

なんだかなあ、という感じがしてしまうのも事実である。

 

そんな中、大滝詠一的な手法で立ち向かうバンドがいる。

我らがPictured Resortである。

 

 

Pictured Resortは大阪のバンド。

ジャンル的には一応ギターポップらしいのだが、

ネバヤンやヨギーがシティポップと偽れる言えるなら、

この人たちはギターポップとかいうより断然シティポップである。

 

しかも音楽性も、先述の通り80’sのあの感じそのものであり、

リヴァイバルで削ぎ落されてしまった部分をうまく拾い上げているイメージ。

第一、1stアルバムタイトルがAll Vacation Longというのが好感が持てる。

もろロンバケやんけ。

 

 

一曲目は"Good Weather"からスタート。

Good Weather

Good Weather

  • Pictured Resort
  • ポップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 もうね、最初のリードギターだけで泣けてくる。

これだよ、今のリヴァイバルに求めていたのは!!!

 

プロフェット系のシンセ歯切れのよいカッティングに、

サイダーの様な爽やかメロディが乗っかる。

細野晴臣大滝詠一を再融合させた雰囲気。

また、ギターポップよろしくボーカルがウィスパー気味で

それが爽快感に拍車をかける。

ギターポップとシティポップの理想的なドッキングでもある。

 

一応これに合わせて踊れなくはないが、

四つ打ちで強制的にガンガン踊らせようとする昨今の曲とは違い、

ナイアガラ系に通じるノリの良さ

クラブでガンガン頭を振るような感じではなく、

ベランダで揺れるように聴く音楽という趣。

出かけるのも億劫な文化系の僕はこういう曲の方が好き。

 

 

二曲目も素晴らしいのですよ。

Away To Paradise (Classic Beach Ver.)

Away To Paradise (Classic Beach Ver.)

  • Pictured Resort
  • ポップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 もうね、カッティングギターをこれほどに上手に使った曲って

この10年でこれくらいだと思うヨ。

 

動的なギターに対比されるような静的なキーボードの音作りも絶品で

泣けるね。泣けるキーボードランキング一位ですよ。*1

 

この後にも、インスト・歌もの含め色々続くが、

全部必聴の名曲と言って差し支えない。

なんでこんな凄いのがメジャー流通じゃないのかよく分からないレベル。

 

Electric Birdland

Electric Birdland

  • Pictured Resort
  • ポップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes
Picture Of You

Picture Of You

  • Pictured Resort
  • ポップ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

全編を通して言えることは、

あからさまにクラブ・ディスコ向けにチューニングされた曲はなく、

かといって環境音楽によることもない、

純粋無垢のシティポップである。

 

もうPicture Resortって最高すぎてですね、

この人たちをいかに再現するかが僕の現在の課題です。

もっと売れてほしい。

 

去年、2ndアルバムも晴れて発売され、インタビューも公開されていた。

 

mikiki.tokyo.jp

これによると、かなり頻繁に引用をするようで、

大滝詠一に通じる音楽性はこの手法によるものかもしれない。

 

 

ちなみに、同様にリズム型でも環境音楽型でもないシティポップ人に

Pictured ResortのいるSailyardの姉妹レーベル、

Local VisionsHIRO.JP氏がいる。

 

こっちはremixとかで一応Future Funkも取り上げているものの謡曲で、

ディスコやハウス等テクノ中心のトラックメイカー界でかなり浮いている。

そしてやはり大滝詠一パロのアルバム名。

この方もなかなかのチャレンジャーである。

両者とも、今まであまり注目されてない形のシティポップを盛り上げてほしい。

 

 

www.youtube.com

 

 

*1:二位はINOYAMA LAND

Viva/La Dusseldorf【1978】

Viva クラウトロック

ヴィヴァ <Progressive Rock 1300 SHM-CD>

ヴィヴァ

 

 若者というのは常に大人に反抗しようと試みるものだ。

そんな反抗・反駁の繰り返しによって歴史ができてきたのは言うまでもないネ。 

 

音楽だってもちろん例外ではなく、

パンクに代表されるように、

旧世代のシーンにかみつくことによって

新ジャンルがポコポコと生まれるのである。

 

そういう音楽ジャンルは、時代を下るにつれ

どんどん「未来への絶望度」が高まっている気がする。

パンクを例に挙げると、

有名なピストルズGod Save The QueenのNo future連呼が思い出される。


Sex Pistols - God Save The Queen

No Future For You!

 

 

最近はやりのVaporwaveも「過去の懐古」という側面があり、

「未来に希望があった時代への憧れ」があるというのは常々言われていることである。

 

しかし、今回注目したいのは反駁されたサイドの音楽、

プログレからの返答である。

 

 

さてパンクの成立経緯をおさらいすると、

権威的・超絶技巧的なプログレに対して、

どんな人でもすぐ演奏できる音楽を!

ということで生まれたのだった。

 

 ↑楽器始めたての人がこんなことできっこないわけで。

 

 パンクが出てきて、プログレサイドの人たちはどうしたかというと

ニューウェーブに寝返ったり、AOR等産業ロックに手を染め始めた。

 


Asia - only time will tell

あの日の影はどこへやら。

 

しかし、プログレの中でも異質なあいつらは何とパンクに反抗した。

 それがクラウトロックの雄・La Dusseldorfである。

 

 

このバンドはNEU!の片割れ・クラウス・ディンガーのバンド。

例の8つ打ち・ハンマービートの上に歌やシンセと言った上物がのっかり

後期NEU!的な雰囲気が終始漂う。

と言うか、ほとんどNEU!のメンバーと同じらしい。

主要な一人が抜けたから名前を変えたようだ。

どっかのキリンジとは大違いである。

 

上の曲は1stアルバムの曲であるのだが、

2ndアルバムVivaが最も評価されている。

1stと2ndの間に例の拳銃sがアルバムを出すのだが

先述の通り、それへの回答となっていると言われている。

 

一曲目はタイトル曲からスタート。


La Düsseldorf - Viva

Viva!」と絶叫するボーカルに

なんだか統率が取れてるんだか取れてないんだか分からないlo-fiバンドが続く。

歌としては「地球人達よ、愛こそ生命なんだ!!」とか言ってるらしいです。

出だしからこのアルバムを象徴するかのような「躁」の曲で

鬱屈した英国パンクに食ってかかっている。

まあ、失恋してHallo Galloなる謎曲を生み出し、

その後も未練たらたらの歌を歌っていた人に言われると少しアレだが。

 

(多分これ失恋歌

 

このバンドで一番売れたシングルは3曲目のRheinitaらしい。


La Duesseldorf-Rheinita

7分間同じような展開が続くアンビエント的な曲である。

一応NEU!印のハンマービートがてくてくと続いているが、

正直あんまりNEU!感はない。

やっぱりギターも少しは欲しい。

 

A面にはこのような小品が収められているが

このアルバムの存在意義はB面である。

B面にはプログレらしく一曲のみ収められており、

その曲名はCha Cha 2000。


La Düsseldorf - Cha Cha 2000 (long version)

テーマは2000年代への希望。

明らかに「未来なんかねぇ~!」と言ったピストルズを意識している。

曲としてはピアノが割と全面であるものの

NEU!的なギターも聴け、

アンビエント過渡期を感じさせて面白い。

時折入る語りは英独混交

「未来が呼んでいる!」

「未来に向かって僕と踊ろう!」

「目を開いてごらん、楽園だ!」

「僕らがすべきなのはCha Cha Cha・・・」

みたいなネジが吹っ飛んだように陽気なものから

「過度の飲酒・喫煙・ドラッグ依存はやめましょう」

「貧しい人と分かち合いましょう」

みたいな道徳の教科書じみた文句まで様々。

こんな吹っ飛んだ人にドラッグ依存を指摘されても。

 

 

しかしこの20分の大作は凄まじく、

強制トリップさせられるという声が多数。

また、未来を手放し褒めているというよりかは

ちょっとディストピア的楽園感がある。

 

 

このアルバムは英米の主要ミュージシャンにも受け入れられ、

パンク後のニューウェーブとかに影響を強く与えている。

その中にはピストルズのメンバーによるP.I.L.も含まれているので

カリフォルニアロールみたいなことになっている。

 


Public Image Ltd.- Albatross

さっき言ったCha Cha2000の様なディストピア感もニューウェーブに強くみられるネ。

 

 

ちなみにLa Dusseldorfは度々来日しており、

1996年にはCha Cha2000を三時間以上ぶっ続けでやるという

狂ったライブを行ったそうだ。

このライブ盤はCD2枚組に収録された。

たま~に売られているので気が向けば買ってみてください。

僕は地元で一回だけ売ってたのに、逃してしまったのを後悔中です。

 


La Düsseldorf VIVA on TV 1978

 

ピッチフォークで0点の奴を聴いてみる。

おのれピッチフォーク!

 

ラージ ピッチフォーク 48"    Large Pitchfork 360

ラージ ピッチフォーク 48" Large Pitchfork 360

  • 発売日: 2005/08/25
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

突然だが、僕は「駄作」が結構好きである。 

打ち切り漫画、クソ映画等々、そういったもの。

下らなく突っ込みどころが豊富で、しかしそれはあくまで真面目に作られたものなのでかえって面白い。意外と好きな人も多いんじゃないだろうか。

 

しかし、音楽にはそういうものは少ない。

音楽は聴き手に依存する部分が多く、ある人には最悪でも、ある人には最高な曲だってある。どんな音楽も「駄作」と断じられない。

 

そう思っていた僕だったがある日、あるフォロワーさんが呟いていた。

 

「ピッチフォークで0点アルバム特集があれば逆に見たい」

 

 

・・・・・・。

 

その手があったか!!! 

 

 

さて、ピッチフォークとは言わずと知れた超有名音楽メディアであり、10点満点で古今東西のアルバムの評価を付けるのに快感を覚えるサディスティックな人々の集団である。

10点満点のレビューなぞめったに出るものではなく、日本の大名盤でさえ8点台に落ち着くという結構厳しい評価。

この記事を投稿する直前に10点を取ったFiona Appleは大ニュースになっていた。 

 

Fetch The Bolt Cutters

Fetch The Bolt Cutters

  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

また編集部のバンドの好みがあるらしく、同じような音楽なのに点数が全然違うことも。低い点を付けられたバンドのファンからは不当にけなされている!という声がちらほらあるほどである。

 

とはいえど、良いものには良いと正当な評価を付け、実際満点レビューは全て押しも押されぬ名盤ばかり。そういう点では信用できるメディアでもある。

でもPolysicsのベストが邦楽の中で一番高いのがいまだに何故か良く分からない。

 

 

しかしながら、光ある所に影があり、勝者の裏に敗者あり。

その中で先述した満点アルバムと同様に、あまり知られていないが0点アルバムも僅かながらにある。

 

広いこの世には同じことを考える物好きがいるようで、このブログでも度々利用している音楽バカが集まるサイト・RYMでピッチフォーク0点アルバムをまとめている人がいた。

https://rateyourmusic.com/list/yo_yo_yo/listening_reviewing_all_of_the_0_0_rated_albums_from_pitchfork_com/

 

今回はそれらからいくつか聴いてみたのでレビューしつつ紹介します。

 

Bachman‐Turner Overdrive/The Definitive Collection 【2008】

 

 Bachman‐Turner Overdriveとは、カナダのバンド。

70年代に一世を風靡したらしい。

そう、結構有名で知名度のある人でも0点になりうる。

というかこれから紹介する人の多くは有名な人。

 で、これは何かというとベスト盤らしい。

 内容的には「似た曲の寄せ集め」という感じであり*1ベストならもうちょっと飽きさせない工夫が欲しかったかも。

また、確かに今の耳で聴くと退屈かもしれないが、0点というほどまででもない気がする。

 過悪評価という日本語があるなら、そういう感じである。ピッチフォークらしい。

 

 Flaming Lips/Zaireeka【1997】

Zaireeka

Zaireeka

  • アーティスト:Flaming Lips
  • 発売日: 1997/10/28
  • メディア: CD
 

 

あの大御所・フレーミング・リップス

 これはCD四枚組のアルバムで、各ディスクに8曲ずつ入っている。

しかし、単なる32曲入りのアルバムというわけではなく、全てのディスクを同時に再生させないとちゃんとした曲にならないという驚きのシステムである。

 当時のピッチフォーク評は「CDプレーヤーもう三台買わせるのか!」と酷評だったらしい。

 もっとも、その後評価を改め「変なCDのしかけ10選」に選んだり反省文を書いたりしている。

 その性質上、サブスクにはない

DJセットでやろうにも2セット必要になるので聴きづらいことには変わりはない。

あんまり音が良くないが、Youtubeに全部合わせた音源があったよ。内容は割と「らしい」もので結構よいアルバム。これも過悪評価だろう。

www.youtube.com

 

Jet/Shine On【2006】

Shine On: Deluxe Edition

Shine On: Deluxe Edition

  • アーティスト:Jet
  • 発売日: 2016/12/09
  • メディア: CD
 

 

Jetはオーストラリアのバンド。

 結構売れており、iPodのCMにも使われていたらしいが、その曲がイギーポップの曲に似ていると指摘されているなど、

 このアルバム以前にもいろいろ問題があったそう。

で、問題のこのアルバムだが、これの批評ページには文が添えられておらず、

代わりに動画が添付されているが、その動画が酷い。

気になる方は下のリンクから飛んで見てみよう。

pitchfork.com

 

まあ、確かに新規性もなく(ビートルズの曲をそのまんま等)、歌詞もかなり平々凡々。

新規性とか前衛性を重視しがちなピッチフォークからすれば妥当かもしれない。

しかしながらレビューの仕方が酷い。なんか某地下室タイムズみを感じる。

 

 KISS/Music From The Elder【1981】

Music From The Elder

Music From The Elder

  • アーティスト:Kiss
  • 発売日: 1997/09/23
  • メディア: CD
 

 

なんとあのKISSも0点を取っている。

この人たち、本当に有名無名にかかわらず0点を付けているのだ。

海外の音楽家たちは明日は我が身と震えながら曲を作っているのかもしれない。

 

このアルバムはある映画のサントラだったそうだがその映画が公開中止となってしまい、メンバーが憤慨して発表したものらしい。

 

全くKISSに詳しくない僕が聴いてみたところ可もなく不可もなくなアルバムであった。が、どうやら普段のKISSとは全く毛色の違うものであったそう。ピッチフォークだけではなくQ誌でも酷評。さらに一般にも失敗作と言われていたよう。

音楽でここまでマイナス評価が一致するのは結構珍しい。

もしかしたら当時から失敗作の代名詞扱いだったのかもしれない。

 

Sonic Youth/NYC Ghosts & Flowers 【2000】 

 

NYC Ghosts & Flowers

NYC Ghosts & Flowers

  • アーティスト:Sonic Youth
  • 発売日: 2000/05/16
  • メディア: CD
 

 Sonic Youthのアルバムも入ってしまった。

このアルバムは機材盗難後に作られたという代物。

ギターが盗まれた!程度ではなく、バンド一式盗まれたらしい。

おい警備員。

その為、それ以前とは音が違ってしまっているそうな。

そこがマイナス要因かな??と思いきや

なんだかSonic Youth節が板につきすぎていてツマラナイらしい。

Sonic Youthへのこの評価はよほど衝撃的だったのか、

日本語訳まで作られている。

 聴いてみたが、普通に僕は好きだった

この批評へのファンからの評価もそんな感じのようで、「いたずらに零点を付けるのはいかがなものか」というピッチフォーク批判の対象となるレビューでもあるようだ。

コーネリアスのMellow Waveについた評みたいなものなのかもしれない。

 
 
 
有名どころだけでもこれだけの0点アルバムがあった。
どんな人に対しても即低評価をつける発言力あるメディアが存在することによって 洋楽界全体が引き締まっているのかもしれない。

あるいは、ピッチフォークの発言力のせいで本来とても良いはずの作品が不当な扱いを受けている事例なんかも数あることが分かった。というか今回紹介した作品のほとんどがそうじゃないか?

 

なんにせよ、ピッチフォークは鬼のように怖がられる存在であるのだろう。

 ピッチフォークとは悪魔の持っているような三又槍のことらしいけれどそのネーミングは結構妥当なもの。色んな意味で悪魔的である。

 

 

 

*1:同様の指摘がRate Your Musicにあり

Rain Forest/Walter Wanderley【1966】

爽やボサノヴァ

Rain Forest

Rain Forest

 

 皆さんは子供のころカーステレオで延々鳴っていた音楽を覚えているだろうか。

 だいたいそういうのは父親の趣味の曲であることが多いが、

人格形成や趣味嗜好にだいぶ強い影響を与えるだろうので

侮れないことは確かである。

友人のご家族の車に乗せてもらう機会が今まで何度か*1あり、

そのご家族の趣味の音楽がステレオから流されていたが

そこで鳴らされるものは決まって「私を構成する9枚」に入るような奴だった。

 

この前、僕の場合何聴かされていたか考えてみたが

ボサノヴァ山下達郎だった気がする。

僕はエレクトーンやクラシックピアノを嫌々やらされていたので

そこで弾いたクラシックとかがルーツかなァと思ったが

シティポップ好きであるあたり、たぶんそっちの影響が強いんだろう。

そして我が家のフォルクスワーゲン・ゴルフで最も鳴らされていただろうアルバム、

それが今回ご紹介するRain Forestである。

 

 

 ボサノヴァというと、ファミレスとかそういう場所で延々と鳴り続けているような

気取ったようで正直少しダサい音楽というイメージではないだろうか。

実際、先日友人とバーミヤンに行ったとき、

数時間ずっとボサノヴァが鳴りっぱなしだった。

(そして無駄に選曲が良い。趣味の人でもいるのかな)

 

 

でも、ボサノヴァと一口に言っても結構広い。

ボサノヴァはリズムとかコードがそれっぽかったら何しても自由みたいなところがある。

それゆえに60年代にロックと対等に渡り合える唯一の音楽ジャンルであったのかもしれない。

 

ちょっと変わったボサノヴァの例を挙げると

最初がほぼワンコード、歌詞も一単語を繰り返す"Undiu"のように

かなり攻めた前衛ボサノヴァもあれば、


João Gilberto - Undiú

 

バーデン・パウエルの様な超絶ギターテクボサノヴァまである。


Baden Powell - Manhã da Carnaval

 

特に前衛ボッサについては90年代のオルタナ渋谷系に及ぼした影響は計り知れなく、

例えばコーネリアスの多くの曲にボサノヴァのギター奏法・バチーダが使われている。


Cornelius - Ball in Kick Off

この曲では一回落ち着く箇所でバチーダ。 

こんな感じでボサノヴァは全体的に「落ち着いている」印象の曲が多い。

 

 しかしそんな中でひときわ元気爽やかなのが

オルガン奏者・ワルター・ワンダレイボサノヴァ

ブラジル、ひいてはジャズ界を代表する鍵盤奏者である。

 彼の代表作がRain Forest

 

一曲目は割と落ち着いた感じ。


Walter Wanderley - Summer Samba (So Nice)

爽やか。たおやか。

仮に物質を音楽に変換できる装置があったなら

その中にマンゴー、パパイヤ、グアバなんかと

さらにブラジル人を突っ込めば出力されてきそうな音楽である。

あとジャケのオオハシがかわいい。

前述のとおり、車の中で再三再四聴かれてきた曲で

何か鍵盤で弾くときは必ずこれを弾いてしまう。

 

次の曲もなかなか元気。


Walter Wanderley- It's Easy To Say Goodbye

最早サンバじゃないの?と思う方もいそうだが、

ボサノヴァは正式名称Samba de Bossa Novaと呼び、

サンバの一種としてできた経緯がある。

結構サンバから離れてきたボサノヴァに対し、

もうちょっと元のサンバに寄せよう!としたのがこのアルバムであるわけ。

 

 

次の曲なんてボサノヴァだと思って聴くとビックリするに違いない。


Walter Wanderley - 03 - Cried, Cried (Chorou, Chorou)

いきなりオルガン連打からのスタート。

その後も緩いメロの間を縫うように連打が挟まる。

”Cried,Cried”というタイトルだが

そんなに泣いている暇はないハイテンションさである。

 

このボサノヴァアルバムの異色なところは何も元気溌剌・ファイト一発なところだけではなく

ボサノヴァに必須とされるギターが全くいないところも注目ポインツである。

(オーケストラのイメージが強いWaveにさえギターが入っているのに、だ。)

このアルバムはギター不在でもキーボードがいればどうにでもなる、と示してしまった。

ELPが大々的にロックにギターがいなくてもキーボードでどうにかなると示す実に4年も前のこと。

ボサノヴァは見かけによらず非常に前衛的であると分かるね。

 

ちなみに、ワルター・ワンダレイも例によって例のごとく渋谷系にオマージュされており、

初期コーネリアスのB面曲のオルガンの弾き方がそれっぽい。


Rare Bossa Nova) ☺ Cornelius - Diamond Bossa

その後のコーネリアスが前衛に駆け出すきっかけの曲かもしれない。

 

非常に引き込まれるようなオルガン捌きがこのアルバムでは楽しめるが

超絶技巧を使っているわけでは決してなく、

むしろ割と単純なフレージングで成り立っている。

それなのに非常に魅力的に感じるのは

非常に緩急のとれた弾きまわし

ちょっとした小ネタ的装飾音符(楽譜上で♪/みたいになっている奴)だろう。

 

僕は一応鍵盤を弾くのだが、

全く上手ではないので技巧的部分以外で頑張らねばならない。

そう小さいころから思っていたが、

その意味でワルター・ワンダレイからの影響は計り知れない。

 やっぱりカーステレオは最強の洗脳機械である。

 


Rainforest (full album 1966)

 

*1:片手に収まる程度だけどね~~~~!!!!!

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