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本州一下らない音楽レビューブログ

Rain Forest/Walter Wanderley【1966】

爽やボサノヴァ

Rain Forest

Rain Forest

 

 皆さんは子供のころカーステレオで延々鳴っていた音楽を覚えているだろうか。

 だいたいそういうのは父親の趣味の曲であることが多いが、

人格形成や趣味嗜好にだいぶ強い影響を与えるだろうので

侮れないことは確かである。

友人のご家族の車に乗せてもらう機会が今まで何度か*1あり、

そのご家族の趣味の音楽がステレオから流されていたが

そこで鳴らされるものは決まって「私を構成する9枚」に入るような奴だった。

 

この前、僕の場合何聴かされていたか考えてみたが

ボサノヴァ山下達郎だった気がする。

僕はエレクトーンやクラシックピアノを嫌々やらされていたので

そこで弾いたクラシックとかがルーツかなァと思ったが

シティポップ好きであるあたり、たぶんそっちの影響が強いんだろう。

そして我が家のフォルクスワーゲン・ゴルフで最も鳴らされていただろうアルバム、

それが今回ご紹介するRain Forestである。

 

 

 ボサノヴァというと、ファミレスとかそういう場所で延々と鳴り続けているような

気取ったようで正直少しダサい音楽というイメージではないだろうか。

実際、先日友人とバーミヤンに行ったとき、

数時間ずっとボサノヴァが鳴りっぱなしだった。

(そして無駄に選曲が良い。趣味の人でもいるのかな)

 

 

でも、ボサノヴァと一口に言っても結構広い。

ボサノヴァはリズムとかコードがそれっぽかったら何しても自由みたいなところがある。

それゆえに60年代にロックと対等に渡り合える唯一の音楽ジャンルであったのかもしれない。

 

ちょっと変わったボサノヴァの例を挙げると

最初がほぼワンコード、歌詞も一単語を繰り返す"Undiu"のように

かなり攻めた前衛ボサノヴァもあれば、


João Gilberto - Undiú

 

バーデン・パウエルの様な超絶ギターテクボサノヴァまである。


Baden Powell - Manhã da Carnaval

 

特に前衛ボッサについては90年代のオルタナ渋谷系に及ぼした影響は計り知れなく、

例えばコーネリアスの多くの曲にボサノヴァのギター奏法・バチーダが使われている。


Cornelius - Ball in Kick Off

この曲では一回落ち着く箇所でバチーダ。 

こんな感じでボサノヴァは全体的に「落ち着いている」印象の曲が多い。

 

 しかしそんな中でひときわ元気爽やかなのが

オルガン奏者・ワルター・ワンダレイボサノヴァ

ブラジル、ひいてはジャズ界を代表する鍵盤奏者である。

 彼の代表作がRain Forest

 

一曲目は割と落ち着いた感じ。


Walter Wanderley - Summer Samba (So Nice)

爽やか。たおやか。

仮に物質を音楽に変換できる装置があったなら

その中にマンゴー、パパイヤ、グアバなんかと

さらにブラジル人を突っ込めば出力されてきそうな音楽である。

あとジャケのオオハシがかわいい。

前述のとおり、車の中で再三再四聴かれてきた曲で

何か鍵盤で弾くときは必ずこれを弾いてしまう。

 

次の曲もなかなか元気。


Walter Wanderley- It's Easy To Say Goodbye

最早サンバじゃないの?と思う方もいそうだが、

ボサノヴァは正式名称Samba de Bossa Novaと呼び、

サンバの一種としてできた経緯がある。

結構サンバから離れてきたボサノヴァに対し、

もうちょっと元のサンバに寄せよう!としたのがこのアルバムであるわけ。

 

 

次の曲なんてボサノヴァだと思って聴くとビックリするに違いない。


Walter Wanderley - 03 - Cried, Cried (Chorou, Chorou)

いきなりオルガン連打からのスタート。

その後も緩いメロの間を縫うように連打が挟まる。

”Cried,Cried”というタイトルだが

そんなに泣いている暇はないハイテンションさである。

 

このボサノヴァアルバムの異色なところは何も元気溌剌・ファイト一発なところだけではなく

ボサノヴァに必須とされるギターが全くいないところも注目ポインツである。

(オーケストラのイメージが強いWaveにさえギターが入っているのに、だ。)

このアルバムはギター不在でもキーボードがいればどうにでもなる、と示してしまった。

ELPが大々的にロックにギターがいなくてもキーボードでどうにかなると示す実に4年も前のこと。

ボサノヴァは見かけによらず非常に前衛的であると分かるね。

 

ちなみに、ワルター・ワンダレイも例によって例のごとく渋谷系にオマージュされており、

初期コーネリアスのB面曲のオルガンの弾き方がそれっぽい。


Rare Bossa Nova) ☺ Cornelius - Diamond Bossa

その後のコーネリアスが前衛に駆け出すきっかけの曲かもしれない。

 

非常に引き込まれるようなオルガン捌きがこのアルバムでは楽しめるが

超絶技巧を使っているわけでは決してなく、

むしろ割と単純なフレージングで成り立っている。

それなのに非常に魅力的に感じるのは

非常に緩急のとれた弾きまわし

ちょっとした小ネタ的装飾音符(楽譜上で♪/みたいになっている奴)だろう。

 

僕は一応鍵盤を弾くのだが、

全く上手ではないので技巧的部分以外で頑張らねばならない。

そう小さいころから思っていたが、

その意味でワルター・ワンダレイからの影響は計り知れない。

 やっぱりカーステレオは最強の洗脳機械である。

 


Rainforest (full album 1966)

 

*1:片手に収まる程度だけどね~~~~!!!!!

ⒸEPOCALC