Awakening(覚醒(目覚め))
先日、みんな大好きTHE1975の新譜が出た。
THE1975といえば、あのクッソダサい印象的な題名でも有名だが、今回は和訳すると「仮定形に関する注釈」らしい。
回を追うごとに毒っ気が抜けていって寂しい気もする。
このアルバム、僕もサブスクリプションで聴いてみたのだが、結構僕の好みに合っている内容。
今までのTHE1975は評論で大絶賛されていても、「そんなに言うほどか??」という感じでピンと来ていなかった.
が、これはAORやアンビエント等好きなジャンルのリファレンスが多く、ガレージやパンキッシュな曲も好きなタイプなものだったので好感触。1stと同じかそれ以上にお気に入りのアルバムになりそうだ。
ただ正直長いかな。半分にしても良かったかも。
で、他の人の評論的にはというと見た限りイマイチ。
ジャケや雑多感からビートルズのホワイトアルバムと連関させる意見もあったが、絶対にキャリア史上の名盤にはならないという声が多数。
なんだかTHE1975に関しては周囲の意見と一致しなくて哀しい。
で、このアルバムを課題やりながら聴いていたのだが、ある曲のサンプリングで笑ってしまった。
Tonight(I Wish I Was Your Boy)である。
これ思いっきり佐藤博じゃんwwwwwと一か月ぶりぐらいに大笑いしてしまった。
というわけで、今回はTHE1975の元ネタ・佐藤博について迫っていきましょう。
佐藤博は日本ポップス界を代表する鍵盤奏者で、坂本龍一と双璧をなし、山下達郎のバックバンドのメンバーであったなど多くのミュージシャンの名盤に参加した凄腕ピアニストである。
演奏例:
さらに、佐藤博の凄いところはピアノを20歳から始めたということ。
中学生の頃からギターやドラムなど多くの楽器に触れていたらしいのだが「編曲に向くのはギターじゃなくて鍵盤だ!」と思い、一番得意だったはずのギターを差し置いてピアノを極めた変人である。
その際ジャズの理論で勉強したからだと思うのだが、多くの鍵盤奏者がクラシックがルーツなのに対し非常にジャズ的な演奏をしたためジャズっぽいフレージングが必要なシティポップで重宝された人材であった。
そんな逸材を隙あらばバンドを組む細野晴臣が放っておくわけがなく、当時企画していたYMOのメンバーとして彼を誘ったそうだ。その為彼を横尾忠則のように「幻のYMO」と呼んだりもする。
しかし誘われているにもかかわらず彼は渡米。やはり変人。
そして帰国後作り上げたのが、今回取り上げる名盤"awakening"。
かの冨田ラボなど、多くの人に影響を与えている。
一曲目はタイトル曲。
ピアノの素敵な小品。
なのだが、いかんせん題名が面白すぎる。
この曲、awakeningと書いて覚醒とルビを振り、目覚めと読ませるのである。
これを昔Twitterで呟いたら、なぜか人気のVtuberがいいねしてくれた。何故。
次のYou're My Babyからが本番。
プロフェットやジュピターな音が素敵。
溌溂としたAORや踊りたくなるようなディスコと結びついた他の元気のよいシティポップとは一線を画す、アンビエントの佇まいを持ったからっとした夏の浜辺の様な曲である。
また、この曲の凄い!と言われる点はかなりリアルな打ち込みドラムでかのポンタ氏に「これ誰が叩いてるの?」と勘違いさせたほど。
ポンタ氏のポンコツエピソードに挙げられることもあるが、この曲相手じゃ勘違いしても致し方がない気がする。
冨田ラボ氏はI Can't Waitに衝撃を受けたそうだ。
これはYoutubeに佐藤さんがテレビ出演したときの動画が上がっているのだが、服装がなんだかマジシャンみたいで集中できない。
そして色んな楽器を弾きまくる。なんだこの人。
編曲もDX7版になっていて、ちょっと元と違う印象。
こちらのバージョンはなんだか最近のトラックメイカーの作品っぽく、現在のシーンにも物凄い影響を与えているんだなあ、と実感。ドリカムの中村氏に打ち込みジェダイマスターと言われただけある。
THE1975の曲で使われたのはSay Goodbye。
僕もこの曲がアルバムの中でも1,2を争うほど好き。
イントロの無作為な感じのシーケンスパターンやボコーダーとかのテクノ音楽的な要素とギターカッティングやコーラスワークのようなシティポップ的要素が絡み合い、YMOとナイアガラの幸福な融合に思えてくる。
そしてカッティングめっちゃいいな~とか思っていると山下達郎だったりする。あなたのそばにいつでもタツロー。
佐藤博が実際YMOに入っていたら、増殖がこんな感じのシャレオツアルバムになっていた気がするね。
さて、最近の洋楽による邦楽のサンプリングは増えてきており、
タイラー・ザ・クリエーターやヴァンパイア・ウィークエンドが邦楽をサンプリングしたのも記憶に新しい。
しかしこれらの曲を聴いたとき、THE1975のように笑うことはなかった。
なんだかTHE1975の曲はVaporwaveのパロディであるように感じたのだ。
また他の曲もなんだか色んなジャンルのパロディのように思える。
このことから、あのアルバムは現在の音楽シーンの図鑑を作ろうとしたのではないか?というように思う。
やはり先に言った通りホワイトアルバム的である。
しかし二枚組で飽きることのないホワイトアルバムとは対照的にもっと削れたのでは?という声が出てくるのは、THE1975の問題というよりも音楽シーンが画一化されすぎているということの証左なのかもしれない。
...なんだか佐藤博のレビュー記事のはずなのにTHE1975のレビューみたいになってしまった。
これではいけない。えっと、まあ、その、
佐藤博最高!!!!
Hiroshi Sato 佐藤博 - Say Goodbye セイグッバイ