EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

Let's Ondo Again/Niagara Fall Stars【1978】

コミック・ソング最終形態。

LET'S ONDO AGAIN

LET'S ONDO AGAIN

 

 よくこのブログでネタにしているのに全く触れないのはかわいそうなので今回はこれを紹介いたします。

 

大滝詠一、と言えばどんなイメージだろうか。

多分君は天然色だとか、夢で逢えたらであるとか、

山下達郎の路線でもっと邦楽じみた曲を作るメロディメーカー

みたいなイメージじゃないだろうか。


大滝詠一 - 夢で逢えたら

そしてジャケットを彩る永井博や鈴木英人の絵。夏の音楽という感じだと思う。

 

しかし!それはあくまで大滝詠一ほんの一面を見ているだけに過ぎない。

こういうイメージと言うのは主に80年代以降、すなわちロンバケ以降についたイメージであって

本格的に売れる前の70年代は凄いことになっている。

では少しだけ大滝詠一の70年代の歩みをみてみませう。

 

 

 

まず、大滝詠一はっぴいえんどという、ちょっと探れば耳にたこができるほど聴かされるグループにいたのは有名。

ビートルズ由来ではなく、アメリカのロックを継承して日本風にしたので

日本のビートルズとも呼ばれていたそうだね。

それだからか、大滝詠一は対する細野晴臣との関係で

はっぴいえんどでは細野がレノンで大滝がポール」

なんて言われることもあるが、正直はっぴいえんどにはポール不在な気がする。

だって、はっぴいえんど時代の大滝曲って細野曲以上にめちゃくちゃ実験的ですから。

 

www.youtube.com

ちょっとプログレっぽい。

 

むしろこの時は細野晴臣のほうが素直な曲を作っていた気がする。

だって風をあつめてだぜ?平和だろう?

まあ細野さんはそのあとお薬で沖縄までとんじゃったみたいだからね。

 

はっぴいえんどの解散原因については諸説あるが、そのうちの一つに「大滝ソロのせい」というものがある。

そもそも全員ソロアルバムをやる予定で、大滝さんが先駆けとして出したのだが

はっぴいえんどのライブでそのアルバムの曲をやるのをせがまれるという

なかなか気まずい事態になったそうだ。


大瀧 詠一 空飛ぶくじら

せがまれたといわれる空飛ぶくじらはっぴいえんどでは禁じ手にしていたビートルズの下記の曲からの引用を使ってある。


The Beatles (Paul McCartney) - Your Mother Should Know (Music Video)

 クリソツですね。本当にありがとうございました。

ビートルズをあえて避けるというバンドのコンセプト的にも良くなかったのかもしれない。まあcome togetherの引用曲あるけど

 

 解散後、大滝詠一はシティポップの総本山として有名なレーベル「ナイアガラ」と言うものを立ち上げる。

レーベル買いしても損がない日本のレーベルのうちの一つであるネ。*1

 

ナイアガラは今では椎名林檎とかも普通にやっているプライベートレーベルのはしりで

大滝さんはかなり好き勝手なことをしている。

例えば当時は珍しいCMソングだけのアルバムを作ってみたり自分のラジオをパロディしたレコードを出したり

さらには他の人の作品であっても必ずどこかに大滝詠一の声が入っているともいわれるふざけっぷり*2

 

とはいうものの、割とちゃんと売れることも気にしていた大滝さんだったが、

渾身の作品「Niagara Calendar」が時間不足のため思うような出来にならず、プロモも不十分だったため不発に終わると

もうレーベルは次でおしまいという雰囲気になり、吹っ切れてしまう。

そして出来上がったが今回ご紹介するLet's Ondo Againでございます。

初回プレス1500枚、売り上げ800枚というメジャーであることを疑う流通枚数でありつつも

レーベル史上もっとも費用が掛かったという立つ鳥後を濁しまくりな作品である。

では聴いていみましょう。

 

最初は「峠の早駕籠」からスタート。

 

峠の早駕籠

峠の早駕籠

  • provided courtesy of iTunes

 これは、童謡「お猿の籠屋」を「峠の幌馬車」のパロディで演奏するというなんとも奇怪なもの。

www.youtube.com

ただ今の耳で聞くとサンプリングがガンガン使われていて、小品だが割と面白い。

 

次の曲は337秒間世界一周。

337秒間世界一周

337秒間世界一周

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 その名の通り337秒間にわたって世界中の音楽のあるあるフレーズをひたすら弾き続けるというもの。

沖縄に行ったりロシアに行ったり中国へ飛んだりと忙しい。

100万円なんか払わなくても世界一周できるお手軽旅行曲。

ピースボートなんかよりこっちのほうが良いね!

大滝詠一の引用の手際の良さが光る。

 

さらにお次は自分の過去作のリメイク「空飛ぶカナヅチ君」。


NIAGARA FALL STARS - 空飛ぶカナヅチ君

YMOもびっくりのシンセの使い方。

一応元曲とメロディが同じなのだが、シンセのせいで別物と化している。

泳げカナヅチ君

泳げカナヅチ君

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

こんな感じでいわゆる「大滝詠一」を期待している人は大やけどするコミックソングである。

A面はこの調子でパロディソングが続く。ここまでで結構お腹いっぱいだろう。

しかし、このアルバムの白眉はB面である。

まず、ピンクレディ「渚のシンドバッド」の替え歌「河原の石川五右衛門


河原の石川五右衛門

無駄に定位にこだわっているのがむかつく。

しかもただの替え歌ではなくSOSやらカルメンやら色々ぶち込んで異形と化している。

ちなみにこれは阿久悠から直々に怒られてオリジナル版には未収録。怒られろ。

 

さらに禁煙音頭はかの鈴木雅之をボーカルに取っている。

禁煙音頭

禁煙音頭

  • 竜ヶ崎 宇童
  • J-Pop
  • ¥250
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 これはダウン・タウン・ブギウギ・バンドのスモーキン・ブギのアレンジ。

この曲にはほかにも山下達郎やらBUZZやらがコーラスにおり、豪華な人選でうならせる。

そして間奏部では山下達郎が「煙が目に染みる」を歌っている。無駄遣いすぎる。

 

もちろん洋楽にもけんかを売ることもわすれていない。

レイ・チャールズのWhat'd I Sayの音頭カバー、

その名も呆阿津怒哀声音頭。

呆阿津怒哀声音頭

呆阿津怒哀声音頭

  • 蘭越 ジミー
  • J-Pop
  • ¥250
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 正直ほぼカバー。

この曲の面白いところは実は歌詞カードで、

なんと英語を漢字で当て字して書いてある。

パソコンやワープロのない時代にやったのだから大滝詠一のしつこさが見て取れる。

 

そして最後は表題曲Let's Ondo Againでおしまい。

Let's Ondo Again

Let's Ondo Again

  • アミーゴ布谷
  • J-Pop
  • ¥250
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そもそも「ナイアガラ音頭」を作った後、

ツイストをもう一回流行らせようとした曲、Let's Twist Againに引っ掛けて

この曲を作るという企画からスタートしたのでこの曲が発端みたいなところがある。

これの81年版リミックスがなかなか良く、

音頭だと意識せずに聴けるなかなかの良曲に仕上がっていておススメです。

 

 

さて、このアルバムは「パロディとコミックソングの連続」と一口に説明されてしまうが、

よく聞いてみるとサンプラー登場以前にサンプリング的なことを実践していたり

全く毛色の違う曲を露骨に引用しつつ一つの曲にしてみたり

同じ音・フレーズが複数曲にまたがってでていたり

かなりヒップホップ的なサンプリングのアルバムだと考えることができる気がする。

特に一番最後の点に関しては同じフレーズを複数曲に入れようとしたビーチボーイズのSmileのパロディとも捉えられる。

 

世界初のサンプリングアルバムの誉れ高いのはYMOのTechnodelicだが、

それは単に「世界初・サンプラーを全面使用したアルバム」であって

実は世界で初めてサンプリングという行為をアルバムのコンセプトとしたのはLet's Ondo Againじゃないかと思っている。

 

だから、このアルバムはふざけているようで何か恐ろしいものを秘めている気がしてならないのです。

*1:他にはトラットリア、カクバリズム、マルチネなど。

*2:これに関してはヒッチコックが自身の映画に毎回カメオ出演していることにちなむそうだ。

用語集

このブログで頻繁に使うけれど、音楽を聴き始めた人には良く分からないワードを解説するコーナーです。

 あと、このコーナーを読むとある程度「はっぴいえんど史の流れ」も分かります。

 

僕の趣味

はっぴいえんど

細野晴臣大滝詠一鈴木茂松本隆によるロックバンド。

幅広い音楽性を持ち、日本語を自然に組み込み、

しかも全員邦楽の重要人物となったので

「日本のビートルズ」とも呼ばれる。

前述の「はっぴいえんど史」というのはこのバンドを起点に邦楽を語るやり方で

「本当に流行っていた音楽ではない」「視野が狭い」という指摘があるものの、

ここで出てくるバンド群は海外の音楽通からも支持される上、

他国のロック史、クラシック音楽史、さらには現代哲学史等と写像になっており

非常に扱いやすいので今日まで評論家の主流の考え方になっている。

 

・ナイアガラー

大滝詠一と彼の関係者の愛好家のこと。

大滝詠一主宰のレーベル名「ナイアガラ」にちなむ。

 

ナイアガラに所属していた山下達郎大貫妙子

うる星やつらのOPの作詞で知られる伊藤銀二、

所属していないものの大滝詠一と深く関わりのあった

竹内まりや佐野元春

ウイスキーがお好きでしょ」の作者・杉真理などを総称して

ナイアガラ系とも呼ぶ。

作風には自身の趣味の曲が反映されていることが多い。

 

1970年代から存在している概念で、

音楽関係のめんどくさいファンの走りともいえる存在である。

この流れはのちのサブカル系のファンに受け継がれる要出典】。

 

・ティンパン系

ナイアガラ系が大滝詠一関連であるように

70年代細野晴臣関連のアーティストを総称した呼び名。

70年代に細野晴臣がやっていたバンド「ティンパンアレー」にちなむ。

松任谷正隆佐藤博など。

ちなみに80年代細野晴臣関連は接点の場所によって

YMO系、Yen系、Non Standard系に大別できる。

全体的に電子音楽、特に環境音楽に傾倒している人が多い。

70年代後半のアングラで活躍したパンクバンド群・東京ロッカーズ

ポストYMOとして出てきた三バンテクノ御三家

アングラレーベルの先駆けナゴムレコードなど、

一見はっぴいえんど史に出てこないミュージシャンも

細野晴臣関連のいずれかに接点を求められることが多い。

 

・Nova Musicha

イタリアのレーベルCrampsが出していたシリーズ。

前衛的な無調音楽が絶え間なく続く狂気のレコード集である。

John Cageのキノコのジャケットが有名。

その他のアルバムもジャケットが美しく、

現代音楽愛好家から蒐集の対象になっている。

 

 

ジャンル

・オールディーズ

ビートルズ以前のポップス。

ロコモーションなんかが有名か。

一応ジャンルだが、幅が広くて一口に説明できない。

 


Little Eva - The Locomotion

 

 

 

・サイケ(デリック)

薬物中毒の幻覚ような(曲)。

一言でいえば「シュール」。

ビートルズのHello Goodbyeなんかが代表的。

フランスの歌として有名な「オー・シャンゼリゼ」も

元々イギリスのサイケのカバーらしい。

サイケポップについては今のポップスにも影響が色濃く残っている。

 


This Will Be Our Year - The Zombies

 

 

 

AOR

大人向けロックのこと。

代表的な人にビリー・ジョエルがいる。Uptown Girlは有名。

当時から産業ロックと批判されることも多いが

後のギターポップとかにつながるので大事なジャンル。

 


Toto - Africa (Official Music Video)

 

 

・シティポップ

70-80年代、日本人が作り上げた都会派の洋楽風邦楽。

大半がナイアガラ系やティンパン系の人、

もしくははっぴいえんどフォロワーによるもの。

オールディーズやサイケポップ、AORをルーツとするので

時代の経過に耐えることができる作風。

山下達郎とか、最近だとネバヤンとか。

最近世界的に流行っているらしい。

 

例 


山下達郎「 RIDE ON TIME」 HD720P

 

 

プログレ

プログレッシブロックの略称。

プログレッシブロックとは欧米で70年代に流行した

前衛・芸術的なロックのこと。

何故商業音楽であるロック・ポップスが芸術たり得るかのキーワード。

前にネットではやったRoundaboutなんかがこのジャンル。

後の色んなジャンルに影響を与えている。

しかしながら、長大・難解であり初心者にはお勧めしない。

ちなみにプログレッシブハウスの略称でもあるが

基本的に僕はそっちの意味では使わない。

 


Yes - Roundabout

 

ギターポップ

アコギやクリーントーン主体のロック。

パンクと同年代だが、全く逆の「穏やかさ」というアプローチで反抗した一派。

 


Aztec Camera - Oblivious (Official Video) (REMASTERED)

 

ニューウェーブ

パンクブーム以降に出てきた先鋭的な音楽。

パンクっぽいがテクノに近い触感がある。

というか後のテクノ。

ギターポップを含めることもある。

 


Devo | Satisfaction | Official Video

 

渋谷系

音楽に精通した日本の若者が生み出した引用の音楽。

引用を頻繁にしたナイアガラ系のリバイバルとも言われる。

多かれ少なかれ前衛的な音楽が多い気がする。

90年代、引用していればなんでも渋谷系にくくられたので

ギターポップからノイズ音楽まで幅広い。

10年以上邦楽界に居座り続けたので

初めと終わりとで全然音楽性が違う。

でも「軸」はぶれていないのが分かるはず。

 

例1:初期渋谷系


Pizzicato Five - Sweet Soul Revue

 

 

例2:後期渋谷系


CORNELIUS - Point Of View Point

 

・Vaporwave

2010年代、海外で流行ったネット音楽。

後期渋谷系に影響を受けているという説がある。

昔の曲をほぼ丸ごとサンプリングするというイリーガルな音楽であったが

今のテクノ・ヒップホップ系にかなりの影響を与えており、

享楽的でダンサブルなFuture Funk,

ジャズ風で落ち着いたLo-fi HipHop,

後述するトラックメイカーなど

多種多様なジャンルを生み出すきっかけになった。

また、この中で山下達郎が使われたことによりシティポップが流行った。

 


MACINTOSH PLUS - リサフランク420 / 現代のコンピュー (Music Video)

 

・トラックメイカ

DTMならではの技法を使って曲作る人。

基本的にVaporwaveに強い影響を受けたアーティスト。

2010年代後半現在のアングラ邦楽界の流行。

tofubeatsなんかが有名。

 


tofubeats - 水星 feat.オノマトペ大臣(PV)

 

他、適宜追記します。

 

彗星ハネムーン/ナユタン星人【2017】

ボカロから来た物体X。

 

ナユタン星からの物体Z(初回限定盤)

ナユタン星からの物体Z(初回限定盤)

 

 

 

皆さま、ボーカロイド音楽って聴きます?

こう僕の旧友に聞いてみると

「聴いていない」

「オタク用音楽」

「程度が低い」

 と散々な言われようである。

 

かく言う僕も中学時代は校内でも有名なアンチボカロ派で放送委員会書記の立場*1を利用し、ボカロの校内放送週一回までという不文律を作り上げ、2chのアンチボカロ版を立てたのは僕だという噂*2まで広まってしまっていた。

今思えばメルトなんかを誰かが教えてくれていれば僕の印象はだいぶ変わったと思うのだが、当時ボカロ好きだった諸氏はもれなく今邦ロック好きになっているので多分メルトはそこまで好きじゃなかったのかな。しかしながら、のちに割と馬鹿にできないジャンルだと気づくことになる。

確かボーカロイドをちゃんと聴いたのは高校2年のころだからかなり遅い。ニコ動を徘徊していたころなのでおよそ平沢進と一緒に聴き始めた感じである。それまでずっと旧い邦楽を聴いていた。大滝詠一万歳。

 

さて、ボーカロイドの曲には元ネタがしこんであることが多い。ある程度音楽を聴いてから舞い戻ってみたとき「これってあれじゃん」と何回かなった。恐らくPに音楽好きが多いため。

例えばこの前フォロワーと話題にしたNyanyanyanyanyanyanya!の元ネタ。

 

これはたぶんELPのHoedownだよねー、という話になった。


Emerson Lake & Palmer-Hoedown

結構、いやかなり似ている。

ELPはボカロ界隈から謎の支持があり、曲名が思い出せないがある音ゲーに収録された変拍子のボカロ曲がタルカスを引用していた記憶がある。

 

さっき言及したメルトも少しスーパーカーのcream sodaっぽくもある。


Cream Soda - Super Car スーパーカー

 というか、ryo氏はStorobolightsのカバーをやっているので多分そう。

 

 

そんな感じで元ネタ多めのボカロ曲だが、今回ご紹介するナユタン星人彗星ハネムーは面白いところから引っ張ってきている。

 

そもそもナユタン星人とはどんなPかと言うとデビュー以降すぐ一気に有名になった人。シンデレラストーリーを地で行く人である。動画のヴィジュアルイメージが簡潔かつ強烈であり、キャッチーなダンスロックであるので踊ってみたや歌ってみたが作りやすく、色々な動画に使われたからだと思われる。

あと、名前からわかる通り自称・異星人だそうだ。マグマのコバイア星との関連はいかに。

 

では問題の彗星ハネムーンを。

 

 

まず、根底にはフジファブリックの銀河があるのが一目瞭然。

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まあでもこれは毎回のこと。ナユタン星人はフジファブリックのファンらしい。

 

重要なのは他の元ネタ。なんか似ている曲ありませんか?

そう、大滝詠一のさらばシベリア鉄道ですよ!

Aメロが似ている。大滝詠一をダンス風にした感じ。

歌詞の内容が似ているので恐らく意識的にやっていると思われる。

 

さらに歌詞中に出てくる「愛してモナムール」と言うのは

岩崎良美の曲名である。

www.youtube.com

たいして有名ではないところから引っ張ってくるのが乙。

 

さらにさらに間奏部のラップには「ロマンス飛行」米米CLUBの曲名っぽいものが出てくる。

www.youtube.com

 

曲調も歌詞もなんだか全体的に80年代歌謡。これは確か投稿日に聴いたが、「シベ鉄!」と一人叫んだ気がする。そしてなにより昭和歌謡風でありつつも自分のエッセンスを失わない点はずば抜けているね。

 

実はナユタン星人は古い歌謡曲が好きらしく、CDのライナーで阿久悠がすき」というなかなか渋いことを言っている。また、他のPとは比べ物にならないほど頻繁に歌詞やメロディに小ネタを引用しているためごくごく一部の人の間で渋谷系っぽい作り方」と評されている。

 

この曲までも様々な曲からの借用が多かったものの、ここからリスナーの年齢層的に絶対に気づかないような元ネタを大量に入れ始めた。挙句、今やピンクレディーとコラボしたりしている。昭和歌謡が本当に好きなんだろう。

 

引用の多さ、そのデビュー以降からの活躍などボーカロイド界の小沢健二*3的な感じのナユタン星人だが、渋谷系的存在が現れたということは何もしなければたぶんボカロシーンはこれから穏やかに死んでいく。

というかもうなっているか。

 

と言うのも、例えば渋谷系を例にとると「もう良い音楽は生まれません!素敵な音楽全部引用してやります」というなかなかニヒリズム的な考え方がベースとなっているからであって、こういう人やジャンルの誕生はすなわちシーンの成熟を意味する。例えば最近だとVaporwaveもそうだよね。

 

さて、この状況を打開するうえで必要となるのは

「同じシーンから出てきた強烈なアンチ」

「全く違うシーンから出てきた回答」

である。

渋谷系であれば前者がサニーデイ・サービス、後者が中村一義もしくは椎名林檎
Vaporwaveであれば前者がFuture Funk、後者が現在のシティポップ

という感じだろうか。

現在のボカロシーンの衰退もこの両者いずれかに当たる存在がいれば状況打開策になるはず。がんばれ、ボーカロイド

 

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

 

 

*1:実質委員長より格上。書記に権限が集中したのは共産圏と中学時代の僕だけと言われている。

*2:違います。

*3:作風全然違うけどね!

鬼/新●月【1979】

日本の冬。新●月の冬。

新月

新月

 

 皆さん、もう11月ですよ。一年って案外あっという間ですね。

去年の紅白で「ティンパンアレー-細野が出た!」「桑田佳祐ユーミンと歌ってる!」

なんて盛り上がったのがまるで昨日のようだというのに、もう今年も残り二か月を切ってしまいました。光陰矢のごとし。

 

10月の終わりから、東京も冬じみてきた。

・・・と思ったら全然寒くないね。

むしろ晴れの日はちょっと暑いくらいである。

温暖化時代の冬は遠い。

 

 

しかし、僕の地元は付近の地域に比べれば大したことはないが、

東京と比べれば1.42段階くらい寒いのでもう冬らしくなっているかもしれない。

もしかすると雪が降っちゃってたりするかもしれない。

地元では12月あたりになるとキチンと雪が積もりはじめ、小学生たちはそれを投げたり食べたり *1する。

また、東京と比べて古い家々が街中にも点々とあるので東京よりもずっと「日本の冬」らしい風景が見られる。

f:id:EPOCALC:20191026200714j:plain

かなり移動すればこんな景色もあるらしい。見たことないけど。

 

そんなトンネルを抜けなくても雪国な皆様におかれましてはこの冬はでっかいストーブ、雪かきスコップ、スタッドレスタイヤ、そして新月のレコードを手元に置かれますことを推奨いたします。

 

新月とは日本のプログレッシブ・ロックバンド。正式には新●月だが、ここでは●は割愛させていただきます。他の真面目なサイトでも書いてないしね!

新月四人囃子とともに日本のプログレの草分け的存在らしく、サークルの先輩に聞けば十人に八人は好きと答え、残り二人は大好きと答えるようなバンドである。所謂「カリスマ・バンド」と言うやつ。

70年代後半、日本で本格的にプログレが始動する前に欧米での動きが陰りを見せはじめ国内のプログレシーンも下火になりそうだった時に現れた彗星だったらしい。新月だけど。

 

 

 

さて、日本のプログレと言うとどうしてもフュージョンっぽくなりがちな印象がある。

飲み会で「日本のプログレあるある」なんてやったらそれがまず最初に出て終わるだろうが、

そんな状況はこの世界線には存在できないので安心しよう。

 

なんでこんなことになっているかを考えてみると日本でプログレが隆盛だったのは80年代でちょうどフュージョンの時期と重なるうえ、次のフュージョンの定義式、プログレッシブロックの定義式

F={(ジャズ∩ロック)\ジャズロック

P={(クラシック∪ジャズ)∩ロック}

を見れば両者意外と似ていることが分かるだろう。わかってくれ。

 

しかし、新月はちょっと違う。インストフュージョン風ではなく日本らしい歌心を持ったプログレなのである。

何言っているかわかりにくいと思うので、実際に聴いていきましょう。

 

唯一作のアルバム「新月」より「」。


Shingetsu 新月 (New Moon) - Oni 鬼 (Demon)

シンセとアコギの絡み合いからスタート。非常にプログレらしい始まり方。

この時点でもう雰囲気が完成している。日本の雪景が目の裏に。

そしてプログレにしてはすぐに歌が来るのが良心的。

歌詞もまた素晴らしい。

いつものところで夢から醒めて

編みかけの糸玉また拾うと

夜もふけてる

山羊は小屋の隅でなぜ震える

燃え盛る囲炉裏のその炎の

上にふるのは雪

雪は消えた すぐに消えた

大正の終わりくらいの東北の民家、ないしは白川郷風である。

囲炉裏に雪が降る、と言うから

吹雪いて家に雪が入ってくるような豪雪地帯と分かるね。

もともとの歌詞では囲炉裏ではなく暖炉だったらしいが変更したそう。曲調的には囲炉裏がよい。

 

この曲を聴くたびに子供のころに行った秋田を思いだす。

なまはげが闊歩し、きりたんぽを主食とし、全てを漬物にする秋田。

秋田では雪が多くて我が家の墓が完全に雪の下へと埋まります。

そんな雪国の山奥の村に伝わっている歌です、と言われたら信じてしまいそう。

 

プログレはクラシックや土着音楽をルーツにしていることが多いので本来は各国の色が出やすいジャンル。

例えばイタリアンプログレバロック調のものが多かったり、ギリシャエスタンピー*2っぽかったりオランダではヨーデルしてたりと、ご当地ソング的な楽しみ方ができる*3

そんなご当地プログレ日本代表と言って差し支えない一曲でしょう。

 

でもなんでこんなに日本的なのかが本当にわからない。

解説を読んでみると「日本人の心には陽旋法も陰旋法も関係ないことに気を使った」とのこと。だが、そもそもこのフレーズ自体、何気なく思いついた間奏部のフルートのメロディからスタートしているらしく理論的に考えたものではないためその理由は永遠の謎

別に和楽器風の音を使っているわけでもないし*4

 

この曲がいわゆる代表曲となっており、アルバム内で最もインパクトのある曲なので

新月には冬の夜中のイメージがあるが割とそれ以外のテーマの曲も多い。

冬の曲も入っているのに「君は天然色」のせいでロンバケが夏のイメージなのと同じである。

 

新月はこの曲の入った名盤「新月」のみを出して解散。

しかし邦楽上のブレイクスルーとなり、当時つるんでいたバンド群はアングラシーンの先兵となった。

その中にはインターネット上で有名な平沢進マンドレイクなんかもある。

 

あと、上のPVでボーカルが丑の刻参りでもするのかという格好であるようにライブの見せ方にもかなり重きを置いていたらしく、こういう点で後のビジュアル系に影響を与えることになるらしい。

 

 

[魂の願い]新月のソウルメイキング

[魂の願い]新月のソウルメイキング

 

 

 

*1:そしてお腹壊したり

*2:クラシック以前のヨーロッパ音楽。ギリシャらへんの影響が濃いみたい。

*3:そう考えるとフランスのご当地名産はエイリアンなのか。

*4:和楽器の音はあえて避けたそうです。

アバ・ハイジ/浅井直樹【1988】

シュルレアリスムギターポップ

アバ・ハイジ

アバ・ハイジ

 

 日本でネオアコギターポップと言えば誰だろうか。

火を見るより明らかだが、一番多い回答はフリッパーズギターだろうネ。

 

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

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そうでなくても渋谷系関連のアーティストだと思われる。

実はスピッツギターポップと主張する人もいるが、誰も気にしない。 

まあでもスピッツも登場時は渋谷系扱いだったらしいしネ。

 

何故日本のネオアコフリッパーズというイメージがあるかと言えばネオアコというのは渋谷系以前には日本で軽視されていたことになっているからだ。

 

しかし実際のところはそうでもなかったらしい。調べてみると何やら

東京ネオアコシーンだの、ラフトレード友の会だの

わりとインディーズシーンでは80年代の中ごろから活発だったようだ。

しかしながら、あまりそのころの音源や情報というのは出回っていなく、

我々後追い世代としては当時の空気が分からないので

せいぜいb-flowerを聴くくらいしかどんな音楽だったか知るすべがない。

 

四月の恋

四月の恋

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・・・というのも、もう過去の話だ!

なんと当時のネオアコを知る上で貴重な資料が発掘されたのだ。

それが今回ご紹介する浅井直樹さんアバ・ハイジ

 例のごとく自主制作盤でございます。

 

そもそもどういう経緯で発掘されたかと言うと

Diego Olivasという海外のレコードオタクが偶然見つけたもので

彼のサイトで紹介後、爆発的に人気になったそう。

今や一枚数万は下らないとか。

www.fondsound.com

 

このサイトをのぞいてみると、ヒカシューの元キーボーディストがやっているアンビエントユニット・イノヤマランド

空域

空域

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写真家でギタリストのティーブ・ハイエットの日本限定発売された唯一作などが紹介されている。

渚にて(期間生産限定盤)

渚にて(期間生産限定盤)

 

渚にて」はAORアンビエントの折衷みたいな僕も好きなアルバム。今度紹介したいな。 

 

こんな感じで日本の曲やアンビエントがお好きなようだ。

そんな日本のレコードに日本人以上に詳しい人だからこそ見つけてこれたアルバムなのかもしれない。

 

 

そしてこの浅井直樹さんもまたオタッキーな人である。

まず、下のインタビューで自分の生年月日を「ブラーのデーモン・アルバーンと同じ生年月日」と紹介しているのが流石。

p-vine.jp

学生時代影響を受けた人はシド・バレット*1と言うから、そのオタク度がうかがい知れる。

大学は多摩美らしい。ライナーによると、坂本慎太郎がいたころにいたみたいである。

さらにライナー曰く、音楽仲間にはマリア観音の松井氏がいたとのこと。色々凄い。

 

しかしながらレーベル等にはコネがなかったようで、このレコードは自力で作ったらしい。およそ0.25オンド*2

レコード会社に送ったりフランスの某有名歌手に手渡ししたり、様々なことをしたようだが話題にならずじまいだったそうだ。

しかし時代が変われば聴衆の耳も変わる。前述のとおり今はカルト的に大人気である。

 

さて、では内容を見ていきましょう。

アルバム一曲目はタイトル曲からスタート。

アバ・ハイジ

アバ・ハイジ

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バーブマシマシのギターアルペジオからの「ひーとつ、ふーたつ」という独特な歌詞&歌声。

めっちゃくちゃにサイケですね。 

ギターポップと言うと現在だとどうしてもフリッパーズのファーストやセカンド的な

アコギやクリーントーンっぽいギターを想像してしまうけれど

それ以前には結構エフェクター入りギターポップは普通だったのかもしれないネ。

ギターポップの代表格・スミスなんかもクリーントーンと言うよりはリバーブとかコーラスエフェクターとか使っている感じだものね。

むしろフリッパーズによって我々の視野が歪められたのかもしれない。

 

あと、アバ・ハイジとは何ぞやと言うと妖精の一種らしく、

浅井さんが子供のころに親から

「早く寝ないとアバハイジが来るわよ」

と言われてたそうだ。ノーム的な何かなのかな。

 

試聴では「ひーとつふーたつ」しか聞けないがその他の歌詞もなかなかにサイケデリック

なんでも不思議の国のアリスに影響を受けたそうだ。なるほどシュール。

 

浅井さん自身が一番気に入っているのは「くぐつ師の夢」らしい。

くぐつ師の夢

くぐつ師の夢

  • 浅井直樹
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さっき言ったスミスを彷彿とさせる疾走感あふれた曲です。 

アルバムで一番現在の「ギターポップ」のイメージに合っている曲かもしれない。

ただ、疾走感があってもBPM的にはそこまで速くないんですよね。

テンポが速くなくても疾走感を出すというのは60-70年代の洋楽でよくやってたやり方らしい。

なんで知っているかって?アクモンがそれをコンセプトに一枚作ってたから。

浅井さんはシド・バレットはじめ、60’sサイケに詳しかったのでできたのだろう。 さすがである。

 

 

僕の印象に残ったのはキャロルな詞が最も楽しめる「魔法の少女」。

魔法の少女

魔法の少女

  • 浅井直樹
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 この曲、語りの部分があるのだがそこの詩が凄い。一番だけ聴き取って引用させていただくと次のような感じ。

 

1862年7月4日 親愛なる時計さんへ

ボートの上の奇跡ですね

紅茶の中の気持ちのよさ

黒猫になるための努力と

レンガの上の思いつき

幸せな負け犬だ

月の素肌が甘すぎて

ほっぺたが落ちて

植物と恋に落ちた

怒りっぽい朝のにおい

くたびれた爆発(不明瞭?)がすごく良くて

いつも復讐に知らんふりしているのが

魔法の少女です。

 

浅井直樹ー魔法の少女より

 

とてもディズニーランドに来た気分になる。

基本的に何言っているかわからないが、なんか多幸感を感じる。

正確に言えば「多幸感」の手触りを感じる。だめだ、僕もやられてきた。

なるほど概念を言葉で表そうとすると意味わかんなくなるんだネ。

ちなみに1862/7/4とは、不思議の国のアリスの原型をキャロルが友人の娘に語った日だそうだ。

インターネットのない時代にここまで調べていたのだから、さすが美大生と言う感じである。

 

 

さて浅井さん自体は今何をされているかと言うと、ボカロPとのことだ。

ニコ動でフォローしたらすぐにフォローバックが来た。優しい。

さらに、Twitterもされている。

mobile.twitter.com

こちらもすぐにフォローバックが来た。優しい。

@Aber_Heidschiなのが乙ですネ。

そして浅井さんはどうやらいいねを付けることは少ないみたいなのだが、

このブログの「ダサ帯探し」の記事にいいねを付けてくださっている。

f:id:EPOCALC:20191026010322p:plain

証拠写真

 もしご覧になっていればこの場を借りて感謝いたします。ありがとうございます。

 

さて、先ほどのニコ動の曲には「ボカロ渋谷系のタグが付いていた。

しかしながら浅井さんは渋谷系以前の人物であるので、

ネオシブ系ならぬ「プレシブ系」なるものに分類できれば妥当だろう。

すなわち、渋谷系と同じ感覚を持ちながらもフリッパーズ以前に登場していた人たちである。

このジャンルには初期のピチカートファイブなんかが入れられるのかもしれないが、僕はあんまり知らない。

もしかすると、今も日の目を見ていないどこかでプレシブ系のレコードがうずもれているかもしれない。

さあ皆さん、書を捨て、街へ出て、レコードを漁ろう。


浅井直樹『アバ・ハイジ』ティーザー(Naoki Asai / Aber Heidschi Teaser)

 

*1:極めてどうでもよいけど、僕誕生日が同じです。

*2:1オンド=800枚。大滝詠一伝説のアルバムLet's Ondo Againの売上枚数を基準とする本ブログの独自単位。ただしLet's Ondo Againはメジャーの全国流通盤であることを忘れてはならない。

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