鬼/新●月【1979】
日本の冬。新●月の冬。
皆さん、もう11月ですよ。一年って案外あっという間ですね。
去年の紅白で「ティンパンアレー-細野が出た!」「桑田佳祐がユーミンと歌ってる!」
なんて盛り上がったのがまるで昨日のようだというのに、もう今年も残り二か月を切ってしまいました。光陰矢のごとし。
10月の終わりから、東京も冬じみてきた。
・・・と思ったら全然寒くないね。
むしろ晴れの日はちょっと暑いくらいである。
温暖化時代の冬は遠い。
しかし、僕の地元は付近の地域に比べれば大したことはないが、
東京と比べれば1.42段階くらい寒いのでもう冬らしくなっているかもしれない。
もしかすると雪が降っちゃってたりするかもしれない。
地元では12月あたりになるとキチンと雪が積もりはじめ、小学生たちはそれを投げたり食べたり *1する。
また、東京と比べて古い家々が街中にも点々とあるので東京よりもずっと「日本の冬」らしい風景が見られる。
そんなトンネルを抜けなくても雪国な皆様におかれましてはこの冬はでっかいストーブ、雪かきスコップ、スタッドレスタイヤ、そして新月のレコードを手元に置かれますことを推奨いたします。
新月とは日本のプログレッシブ・ロックバンド。正式には新●月だが、ここでは●は割愛させていただきます。他の真面目なサイトでも書いてないしね!
新月は四人囃子とともに日本のプログレの草分け的存在らしく、サークルの先輩に聞けば十人に八人は好きと答え、残り二人は大好きと答えるようなバンドである。所謂「カリスマ・バンド」と言うやつ。
70年代後半、日本で本格的にプログレが始動する前に欧米での動きが陰りを見せはじめ国内のプログレシーンも下火になりそうだった時に現れた彗星だったらしい。新月だけど。
さて、日本のプログレと言うとどうしてもフュージョンっぽくなりがちな印象がある。
飲み会で「日本のプログレあるある」なんてやったらそれがまず最初に出て終わるだろうが、
そんな状況はこの世界線には存在できないので安心しよう。
なんでこんなことになっているかを考えてみると日本でプログレが隆盛だったのは80年代でちょうどフュージョンの時期と重なるうえ、次のフュージョンの定義式、プログレッシブロックの定義式
F={(ジャズ∩ロック)\ジャズロック}
P={(クラシック∪ジャズ)∩ロック}
を見れば両者意外と似ていることが分かるだろう。わかってくれ。
しかし、新月はちょっと違う。インストフュージョン風ではなく日本らしい歌心を持ったプログレなのである。
何言っているかわかりにくいと思うので、実際に聴いていきましょう。
唯一作のアルバム「新月」より「鬼」。
Shingetsu 新月 (New Moon) - Oni 鬼 (Demon)
シンセとアコギの絡み合いからスタート。非常にプログレらしい始まり方。
この時点でもう雰囲気が完成している。日本の雪景が目の裏に。
そしてプログレにしてはすぐに歌が来るのが良心的。
歌詞もまた素晴らしい。
いつものところで夢から醒めて
編みかけの糸玉また拾うと
夜もふけてる
山羊は小屋の隅でなぜ震える
燃え盛る囲炉裏のその炎の
上にふるのは雪
雪は消えた すぐに消えた
大正の終わりくらいの東北の民家、ないしは白川郷風である。
囲炉裏に雪が降る、と言うから
吹雪いて家に雪が入ってくるような豪雪地帯と分かるね。
もともとの歌詞では囲炉裏ではなく暖炉だったらしいが変更したそう。曲調的には囲炉裏がよい。
この曲を聴くたびに子供のころに行った秋田を思いだす。
なまはげが闊歩し、きりたんぽを主食とし、全てを漬物にする秋田。
秋田では雪が多くて我が家の墓が完全に雪の下へと埋まります。
そんな雪国の山奥の村に伝わっている歌です、と言われたら信じてしまいそう。
プログレはクラシックや土着音楽をルーツにしていることが多いので本来は各国の色が出やすいジャンル。
例えばイタリアンプログレはバロック調のものが多かったり、ギリシャはエスタンピー*2っぽかったりオランダではヨーデルしてたりと、ご当地ソング的な楽しみ方ができる*3。
そんなご当地プログレ日本代表と言って差し支えない一曲でしょう。
でもなんでこんなに日本的なのかが本当にわからない。
解説を読んでみると「日本人の心には陽旋法も陰旋法も関係ないことに気を使った」とのこと。だが、そもそもこのフレーズ自体、何気なく思いついた間奏部のフルートのメロディからスタートしているらしく理論的に考えたものではないためその理由は永遠の謎。
この曲がいわゆる代表曲となっており、アルバム内で最もインパクトのある曲なので
新月には冬の夜中のイメージがあるが割とそれ以外のテーマの曲も多い。
冬の曲も入っているのに「君は天然色」のせいでロンバケが夏のイメージなのと同じである。
しかし邦楽上のブレイクスルーとなり、当時つるんでいたバンド群はアングラシーンの先兵となった。
その中にはインターネット上で有名な平沢進のマンドレイクなんかもある。
あと、上のPVでボーカルが丑の刻参りでもするのかという格好であるようにライブの見せ方にもかなり重きを置いていたらしく、こういう点で後のビジュアル系に影響を与えることになるらしい。
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