EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

アバ・ハイジ/浅井直樹【1988】

シュルレアリスムギターポップ

アバ・ハイジ

アバ・ハイジ

 

 日本でネオアコギターポップと言えば誰だろうか。

火を見るより明らかだが、一番多い回答はフリッパーズギターだろうネ。

 

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

  • FLIPPER'S GUITAR
  • J-Pop
  • ¥150
  • provided courtesy of iTunes

そうでなくても渋谷系関連のアーティストだと思われる。

実はスピッツギターポップと主張する人もいるが、誰も気にしない。 

まあでもスピッツも登場時は渋谷系扱いだったらしいしネ。

 

何故日本のネオアコフリッパーズというイメージがあるかと言えばネオアコというのは渋谷系以前には日本で軽視されていたことになっているからだ。

 

しかし実際のところはそうでもなかったらしい。調べてみると何やら

東京ネオアコシーンだの、ラフトレード友の会だの

わりとインディーズシーンでは80年代の中ごろから活発だったようだ。

しかしながら、あまりそのころの音源や情報というのは出回っていなく、

我々後追い世代としては当時の空気が分からないので

せいぜいb-flowerを聴くくらいしかどんな音楽だったか知るすべがない。

 

四月の恋

四月の恋

  • provided courtesy of iTunes

 

 

・・・というのも、もう過去の話だ!

なんと当時のネオアコを知る上で貴重な資料が発掘されたのだ。

それが今回ご紹介する浅井直樹さんアバ・ハイジ

 例のごとく自主制作盤でございます。

 

そもそもどういう経緯で発掘されたかと言うと

Diego Olivasという海外のレコードオタクが偶然見つけたもので

彼のサイトで紹介後、爆発的に人気になったそう。

今や一枚数万は下らないとか。

www.fondsound.com

 

このサイトをのぞいてみると、ヒカシューの元キーボーディストがやっているアンビエントユニット・イノヤマランド

空域

空域

  • INOYAMALAND
  • エレクトロニック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

写真家でギタリストのティーブ・ハイエットの日本限定発売された唯一作などが紹介されている。

渚にて(期間生産限定盤)

渚にて(期間生産限定盤)

 

渚にて」はAORアンビエントの折衷みたいな僕も好きなアルバム。今度紹介したいな。 

 

こんな感じで日本の曲やアンビエントがお好きなようだ。

そんな日本のレコードに日本人以上に詳しい人だからこそ見つけてこれたアルバムなのかもしれない。

 

 

そしてこの浅井直樹さんもまたオタッキーな人である。

まず、下のインタビューで自分の生年月日を「ブラーのデーモン・アルバーンと同じ生年月日」と紹介しているのが流石。

p-vine.jp

学生時代影響を受けた人はシド・バレット*1と言うから、そのオタク度がうかがい知れる。

大学は多摩美らしい。ライナーによると、坂本慎太郎がいたころにいたみたいである。

さらにライナー曰く、音楽仲間にはマリア観音の松井氏がいたとのこと。色々凄い。

 

しかしながらレーベル等にはコネがなかったようで、このレコードは自力で作ったらしい。およそ0.25オンド*2

レコード会社に送ったりフランスの某有名歌手に手渡ししたり、様々なことをしたようだが話題にならずじまいだったそうだ。

しかし時代が変われば聴衆の耳も変わる。前述のとおり今はカルト的に大人気である。

 

さて、では内容を見ていきましょう。

アルバム一曲目はタイトル曲からスタート。

アバ・ハイジ

アバ・ハイジ

  • 浅井直樹
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

バーブマシマシのギターアルペジオからの「ひーとつ、ふーたつ」という独特な歌詞&歌声。

めっちゃくちゃにサイケですね。 

ギターポップと言うと現在だとどうしてもフリッパーズのファーストやセカンド的な

アコギやクリーントーンっぽいギターを想像してしまうけれど

それ以前には結構エフェクター入りギターポップは普通だったのかもしれないネ。

ギターポップの代表格・スミスなんかもクリーントーンと言うよりはリバーブとかコーラスエフェクターとか使っている感じだものね。

むしろフリッパーズによって我々の視野が歪められたのかもしれない。

 

あと、アバ・ハイジとは何ぞやと言うと妖精の一種らしく、

浅井さんが子供のころに親から

「早く寝ないとアバハイジが来るわよ」

と言われてたそうだ。ノーム的な何かなのかな。

 

試聴では「ひーとつふーたつ」しか聞けないがその他の歌詞もなかなかにサイケデリック

なんでも不思議の国のアリスに影響を受けたそうだ。なるほどシュール。

 

浅井さん自身が一番気に入っているのは「くぐつ師の夢」らしい。

くぐつ師の夢

くぐつ師の夢

  • 浅井直樹
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

さっき言ったスミスを彷彿とさせる疾走感あふれた曲です。 

アルバムで一番現在の「ギターポップ」のイメージに合っている曲かもしれない。

ただ、疾走感があってもBPM的にはそこまで速くないんですよね。

テンポが速くなくても疾走感を出すというのは60-70年代の洋楽でよくやってたやり方らしい。

なんで知っているかって?アクモンがそれをコンセプトに一枚作ってたから。

浅井さんはシド・バレットはじめ、60’sサイケに詳しかったのでできたのだろう。 さすがである。

 

 

僕の印象に残ったのはキャロルな詞が最も楽しめる「魔法の少女」。

魔法の少女

魔法の少女

  • 浅井直樹
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 この曲、語りの部分があるのだがそこの詩が凄い。一番だけ聴き取って引用させていただくと次のような感じ。

 

1862年7月4日 親愛なる時計さんへ

ボートの上の奇跡ですね

紅茶の中の気持ちのよさ

黒猫になるための努力と

レンガの上の思いつき

幸せな負け犬だ

月の素肌が甘すぎて

ほっぺたが落ちて

植物と恋に落ちた

怒りっぽい朝のにおい

くたびれた爆発(不明瞭?)がすごく良くて

いつも復讐に知らんふりしているのが

魔法の少女です。

 

浅井直樹ー魔法の少女より

 

とてもディズニーランドに来た気分になる。

基本的に何言っているかわからないが、なんか多幸感を感じる。

正確に言えば「多幸感」の手触りを感じる。だめだ、僕もやられてきた。

なるほど概念を言葉で表そうとすると意味わかんなくなるんだネ。

ちなみに1862/7/4とは、不思議の国のアリスの原型をキャロルが友人の娘に語った日だそうだ。

インターネットのない時代にここまで調べていたのだから、さすが美大生と言う感じである。

 

 

さて浅井さん自体は今何をされているかと言うと、ボカロPとのことだ。

ニコ動でフォローしたらすぐにフォローバックが来た。優しい。

さらに、Twitterもされている。

mobile.twitter.com

こちらもすぐにフォローバックが来た。優しい。

@Aber_Heidschiなのが乙ですネ。

そして浅井さんはどうやらいいねを付けることは少ないみたいなのだが、

このブログの「ダサ帯探し」の記事にいいねを付けてくださっている。

f:id:EPOCALC:20191026010322p:plain

証拠写真

 もしご覧になっていればこの場を借りて感謝いたします。ありがとうございます。

 

さて、先ほどのニコ動の曲には「ボカロ渋谷系のタグが付いていた。

しかしながら浅井さんは渋谷系以前の人物であるので、

ネオシブ系ならぬ「プレシブ系」なるものに分類できれば妥当だろう。

すなわち、渋谷系と同じ感覚を持ちながらもフリッパーズ以前に登場していた人たちである。

このジャンルには初期のピチカートファイブなんかが入れられるのかもしれないが、僕はあんまり知らない。

もしかすると、今も日の目を見ていないどこかでプレシブ系のレコードがうずもれているかもしれない。

さあ皆さん、書を捨て、街へ出て、レコードを漁ろう。


浅井直樹『アバ・ハイジ』ティーザー(Naoki Asai / Aber Heidschi Teaser)

 

*1:極めてどうでもよいけど、僕誕生日が同じです。

*2:1オンド=800枚。大滝詠一伝説のアルバムLet's Ondo Againの売上枚数を基準とする本ブログの独自単位。ただしLet's Ondo Againはメジャーの全国流通盤であることを忘れてはならない。

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