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本州一下らない音楽レビューブログ

My Lost City/cero【2012】

一枚限りのネオ・シティポップ

My Lost City

My Lost City

  • アーティスト:cero
  • 発売日: 2012/10/24
  • メディア: CD
 

この前、電波ソングbot氏とやり取りした際、

世界のシティポップブームと国内のシティポップブームは出自が違うんじゃないか

という指摘を受けた。

 

というのも、こういうことである。

 

世界的にはそのブームの爆心地はVaporwaveとその派生Future Funkであり、その震源(↓)さえ特定されている。


SAINT PEPSI: SKYLAR SPENCE

VaporwaveもFuture Funkもちょっとクラブっぽく、また前衛的な音楽なのであくまでディスコとか電子音楽的な受容をされている。

トラックメイカー系もこういう感じだよね。

あと最近はシティポップとネット文化とが頻繁に絡んでいる印象。特に海外ではアニメやゲームとの連関でシティポップが語られることが多いが、昔はアニメなにそれおいしいの程度の関係だったように思う。

 

 

対して日本の場合、大きくそこらへんが立ちあがる前にシティポップと称された人がいた。具体的にはサチモスが比較的表舞台に立ち、それに追従してネバヤンヨギーが流行ったような気がする。

 



 

そしてそのブームをリードしていたのは紛れもなくceroであろう。


cero / Orphans【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ちょっと前衛的、そしてフォークのような、後のサチモスとネバヤンの中点のような音楽性

このOrphansが日本の音楽会にとんでもない影響を与えOrphans以前/以後なるワードを見かけることもある。

 

しかし、僕はこういった類の音楽はシティポップとは思っていない。

渋谷系はシティポップから強く影響を受けているが、渋谷系はシティポップではないではないのと同じ理屈でこれも別物ではないか?というのが僕の持論だ。

彼らはあくまでもアシッド・ジャズネオアコと言った方が適切であり、AOR加山雄三といったシティポップ的な音楽から影響を受けている音楽であるものの、シティポップそのものではない。

意外にもそういう意見の人も周りにも多く存在し、ceroを中心としたシティポップブームはシティポップに非ずというのは案外支持されているらしい。

 

 

だが、とここで二回目の逆説*1

ceroのあるアルバムについては完全にシティポップだと思う。

それがこのMy Lost City

このアルバムは「ceroはシティポップ」という声に対してメンバーたちが「シティポップって何だろう?」と考え、吉田美奈子大滝詠一を参考にその上にフライングロータス等現代的要素を加味したもの。

 こういうと謎のミクスチャーみたいに聞こえるが、純然たるシティポップと言い切って良い。多分。

 

一曲目から「おっ」となる出だし。

水平線のバラード

水平線のバラード

  • provided courtesy of iTunes

 

一曲目がこのアカペラ曲、

これは完全に大滝詠一の「おもい」である。 

 


www.youtube.com

 

じゃなければBeach BoysのOur Prayer

どちらにせよかなりシティポップな始まり。 

Our Prayer

Our Prayer

  • provided courtesy of iTunes

 

 

二曲目も思いっきりシティポップ。


cero / マウンテンマウンテン

小気味よいカッティングギターに乗るフォークっぽい歌もの。そして民謡っぽい所謂エキゾチカ的な要素。

かなり忠実な70'sのシティポップ的な感覚満載の曲である。

よく考えると、フォークっぽいシティポップも、細野晴臣泰安洋行的なシティポップも今あんまりないよね。

ceroは元々シティポップと思って曲を作っておらず、前作がシティポップと言われたときリスナーとの感覚の差異に苦しんだそう。そのためシティポップについて相当悩んだらしく、それがよく分かる一曲。

 

そして、そんなシティポップを前衛的にもして見せる技は流石cero


「cero」Contemporary Tokyo Cruise

基本的には平和なポップスだが、ずっと同じメロディを繰り返すピアノの上にのる目まぐるしく変わる歌、逆再生でもちゃんと元のコードに乗るようにしてあるメロディ等、ちょっと聞いただけでもかなり計算されたポップスになっていることが分かるはず。

 

このアルバムは先の震災の後に作られた初めてのceroのアルバムだったのでMy Lost Cityという名前を深読みされたそうな。

そしてこのアルバムのコンセプトも洪水という、震災を想起させられるもの。

こう聞くと狙ったのかなと思ってしまうが、このアルバム中の曲たちはほぼ震災前に出来上がっていたので全くの偶然だったらしい。ジョビンの三月の水のような話である。


A.C.ジョビン『三月の水』菊地成孔による解説付き 2011.10.2

 

本人が意図しなかったかもしれないが、この震災が裏に感じられるという点もこのアルバムの偉大なところ。

震災は日本においてバブル崩壊並みに歴史的な事象で、資生堂によればその前後で女性の化粧の仕方が変わったほどらしい。

hma.shiseido.com

 

渋谷系バブル崩壊後のシティポップの再解釈なら、現在の「シティポップブーム」は震災後のシティポップ再解釈なのだろう。絶対的なものはこの世にないと悟ったような、そういう音楽である。

 


cero-3/11「cero×田我流〜東日本大震災チャリティライブ〜」

 

 

 

*1:

二重否定は漢文とこの記事では強調の意味だぞ~!!

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