Since I Left You/The Avalanches【2000】
一枚で3500曲分の力
会話の中で
「何々ってアルバムいいよ!!」
という話をすると、人間はすぐにスマホでサブスクを開く。
これは21世紀以降の人類を判別する、時間旅行時のテクニックに使えそうだが、
最近の皆さんはサブスクに頼り切りの生活を送っているものと思われる。
しかしながら、僕はあまりサブスクを信用していないので
「え、これないのか!」となるシーンがままある。
例えばP-Modelの1stとか。
アーテイスト自身がサブスクを拒否しているのかもしれない。
よく考えればついこの間まではっぴいえんどもサザンもなかったので
やっとそれなりに揃ってきた感もあるよね。
あとは古くてニッチな盤も少ないかもしれない。
アシッドフォークの名盤溶けだしたガラス箱はなかったりする。
調べてみると、これの前身団体五つの赤い風船も全部揃っていない。
ちょっとマイナーになっただけでなくなってしまうのがサブスクの弱いところかもしれないね。
洋楽でも芸術本でも度々取り上げられるTrout Mask Replicaはなく、
有志が作っている、Apple Musicに辛うじてある曲*1だけを集めたプレイリストしかない。
さて、面倒なアーティストが嫌がっているものや妙にマイナーなものを除けば
残りの配信されていない重要な盤は大体サンプリング関係の問題があるのだろう。
例えば、フリッパーズ・ギター自体はサブスク解禁しているのだが、
ヘッド博士の世界塔は何サンプリングしたか忘れたとのことによりクリアランスが下りず、配信されていない。
The Quizmaster 奈落のクイズマスター / FLIPPER'S GUITAR【Official Music Video】
とはいってもこのアルバム自体サンプリングの基準が今と違ってゆるゆるだったからできたわけでもあるから
仕方がないと言えば仕方がない。
同様にCorneliusの2ndもない。
Cornelius - 69/96 (Full Album)
個人的にはバランスの良い名盤と思うので
Corneliusを初めて聴く人にはこれを勧めたいのだが、
サブスクにないので勧めづらくなっている節がある。
もちろん洋楽にも同じ理由で配信されないものがあり、それがThe AvalanchesのSince I Left You。
オーストラリアの6人組バンドなのだが、全員DJするという謎の集団。
前身バンドはノイズ系のパンクバンドだったらしいのだが
日本人のメンバーが不法滞在で強制送還されたようでそれが解散し、
かねてから買いだめていたレコードを使って曲作りをすることを思いついたそうだ。
それで作られたのがSince I Left You。
総サンプリング数は3500ともいわれる。
このアルバムの白眉はなんといっても一曲目のタイトル曲でしょう。
洒落たアコギからやってくる、古臭いコーラス、イージーリスニング的なストリングス、
早回して甲高くなったボーカル、サンバ風のオルガンなどなど
これでもかというほどのサンプリングの嵐。
というかこのアルバム全トラックサンプリングであり、
ただでさえ雑多になりがちなサンプリングのごちゃごちゃ感が最大限まで引き出されている。
もちろん、これの元ネタも一つ一つ同定することができ、
分かりやすいやつだけで下の曲が使われている。
最初のアコギ(0:15~)
コーラス
ストリングス
ボーカル
オルガン(0:25~)
これらにさらに映画からのサンプルやボコーダー、ドラムなどあらゆる音がサンプリングされている。
これで分かるように、全く出自の異なる曲を巧みにつなぎ合わせて曲を作っており
この手腕は流石としか言いようがない。
また、この手の曲はカットアップ気味なものになりやすいのに
全くそうではなくメロウな曲になっているのも注目ポイント。
アニメやコメデイなどのセリフネタが多めのFrontier Psychiatristも人気。
You are a crazy coconut!とかどこで見つけてきたねんみたいな声ネタまであり、
彼らのディグ力の凄まじさがよく分かる。
個人的にはこのシュールなPVも好きで
あらゆる立場のキャラクターがめくるめく出てくるこのPVは
かなりうまい具合にこのアルバムを表している気がする。
これらの曲のようなノリでアルバムの頭から終わりまで駆け抜けるという
かなり濃密なアルバムになっている。
サブスクにないのも納得。これだけあれば配信は許可してない人もいるだろう。
The Avalanchesはこのアルバムで華やかなデビューを飾り、
このアルバム自体もサンプリングアルバム最大の名盤と謳われることになるのだが、
許可を取るのに時間がかかることに加えて、昨今は許可しない人も増えたので
制作に時間がかかり、2ndはなんと1stの16年後に出た。
しかし1stの時点でレジェンドとなっていたようなので
アルバムたった一枚で頂点に駆け上がったという他に例のない人たちでもある。
ちなみにこんなメロウな盤を作っておきながら、ライブパフォーマンスは相当激しいらしく、
メンバーが脳震盪を起こした回があるそうだ。
それはそれで見たくもあるな。
The Avalanches - Since I Left You (1hr)
*1:ベストに入っていたりする