クリスマスへの必需品。
Christmas Gift for You From Phil Spector
- アーティスト: Phil Spector
- 出版社/メーカー: Sony Legacy
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: CD
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もう師走。和尚さんが100m9.58sec.で走る季節。
いよいよ今年も終わりと言う感じが漂ってきており
僕の周りも皆とても忙しそうにしている。
しかし12月には大事な日があるのを忘れてはならない。
大晦日?確かにそれもあるが、君、現実から目を背けてはいけないよ。
そう、クリスマスである。
家族OR恋人とで過ごす人が多いだろうが、
僕はこのところ毎年一人きりで過ごしている。
今年もご多分に漏れずそうなりそうだ。寂し。
そんな僕はクリスマス期間中何をしているかと言うと、一人ぽっちで街をうろついたり書き物をしながら
このフィルスペクターのクリスマスアルバムを聴いている。
フィルスペクターとはどんな人物か。
ビートルズやラモーンズのファンには後述する逸話のせいであまり良いイメージがないかもしれないが、
非常~~~~~に偉大な音楽プロデューサーである。
フィルスペクターはまず「テディベア―ズ」という何ともファンシーな名のバンドにいた。
そこで作った「会ったとたんに一目ぼれ」という曲がヒット。このとき16歳。
あまあまのバラードである。
テディベア―ズだと僕はOh Whyが好み。大滝詠一もカバーしてたしね。
しかしスペクターは編曲の方に興味がわき、
バンドを解散させてプロデューサーになった。
スペクターを語る上で絶対に外せないのが「ウォール・オブ・サウンド」という技法で
どういうものかと言うと、同じ楽器を一気に数台使って録音する
今であれば多重録音に相当するレコーディング法。というか多重録音のはしり。
それが結実したのがロネッツのBe My Baby。
こんな感じでリヴァーヴがかかったような独特の音像で、
もう半世紀以上たった今でもちゃんとリマスタリングすれば迫力あるように聞こえる。
当時の人にとってももちろん物凄いものだったらしく、
まるで壁のようだ!とのことでウォール・オブ・サウンド。
ちなみにビーチボーイズのDon't Worry Babyはこの曲へのアンサーソングらしい。
そしてその技法を極限まで高めようと思って作ったのがクリスマスアルバム。
アメリカでは有名なポップスミュージシャンは
必ずクリスマスアルバムを作るという謎のお約束があるが、
これもそのうちの一つ。聴いてみましょう。
一曲目はWhite Christmasからスタート。
ビング・クロスビーのバージョンが有名なこの曲もフィルスペクターの手にかかればこの通り。
バックの演奏がこの通り非常に豪華でちょっとしたオケのレベルである。
そしてそれにかかった当時の録音機材だからこそのリヴァーブ。
そんなもこもこしたウォール・オブ・サウンドがクリスマスの優しい雰囲気を醸し出す。
なんだか遠い昔に家族一緒に過ごしたクリスマスの日が思い出され
なんだか、所謂ところのエモい感情になる出だしの一曲目である。
そしてエモい雰囲気がずっと続くアルバムである。
二曲目のFrosty The Snowmanは個人的にオッとなる出だし。
アレンジとかが凄く大滝詠一臭い。
というか、たぶんフィヨルドの少女の元ネタじゃないか?
EACH TIME / EIICHI OHTAKI アナログ音源自宅より 11.フィヨルドの少女
大滝詠一はスペクターに強い影響を受けており、
80年代の諸楽曲のアレンジは「ステレオ版ウォール・オブ・サウンド」と言われるほどなので
この曲のアレンジを意識したのかもしれないネ。
ところでこの曲は結構パーカッションが忙しそうな感じがする。
というかドラムが滅茶苦茶バタバタやっていて実際大変だろう。
技巧が必要なクリスマスソングってあるんだ。
このアルバムの中で一番好きなのはWinter Wonderland。
Phil Spector Winter Wonderland
特に理由はない。ただただ純粋に元曲と編曲が好き。
でもクリスマスソングなんてそんなもんよ。
そして最後の曲でなんとフィルスペクターご本人登場。
Phil Spector - Silent Night.wmv
"Hello,this is Phil Spector"じゃないよ!
なにこのアルバムの裏話語ってるんだよ!
なんかイイ感じに話まとめてんじゃないよ!
などなど、突っ込みが追い付かない。
スペクターが変人と言われる理由の一端がここにある。
さて、このアルバムでポップスの未来形を提示したスペクターだったが
人気が一気に急降下してしまう。
そう、ビートルズがやってきたのだ。ヤアヤアヤア。
ビートルズをはじめとしたロックはライブ向きのバンドサウンドであった一方、
スペクターはライブなんかでできっこない、スタジオ向きの曲だったので
ロックとともにしばらく忘れられることになってしまう。
・・・が、すぐに復帰。
Revolverに始まるビートルズ・ビーチボーイズ戦争*1の中、ロックがスタジオ志向になっていき
ビーチボーイズがウォール・オブ・サウンド風味のアルバム"Pet Sounds"を出し、
それに触発されたビートルズが多重録音の"Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band"を出し、
「あれ?やっぱりウォール・オブ・サウンドってすごいんじゃね?」的な感じになっていったからだ。
さらにLet It Beのプロデュースを任される大役も依頼されるようになる。
しかしながら、このアルバムではポールは「初期への回帰」を目指していた*2けど
ハリスンとレノンが全くそんなこと思っていなかったので華美なアレンジをするスペクターを呼び
解散ムードに拍車をかけたというのは有名な逸話。
ポールは後にスペクターのアレンジを外したバージョンも出すほど嫌だったらしい。
その後スペクターはレノンのImgineやハリスンのAll Thing Must Passを手掛ける。
どっちも名盤として有名だが、今でもアレンジについて賛否両論である。
ロックバンドを隠すような豪華絢爛なアレンジのせいで
「フィル・スペクターは時代遅れだ」という評価が徐々にいわれるようになってしまう。
そしてその評価が決定的になったのはラモーンズのEnd Of The Century。
誰でもこの曲は聴いたことあるでしょう。
パンクでありつつ、オールディーズ調ななかなか不思議な曲。
しかし、この曲でも起こってしまっているが
アルバム全体で音の分離が悪い、各楽器が埋もれてしまっているなどと
ロックファンから猛烈に批判されてしまう。
これはウォール・オブ・サウンドの特徴でもあるのだが
それはもう時代に合わないと悟ったスペクターはこれを最後に引退する。
そんなスペクターだが、このアルバムのように明るいポップスについては
靄にかかったようなこのアレンジがメロディと対比になりとてもよく似合う。
どこか懐かしいような、哀しいような気分にしてくれる。
Various Artists - A Christmas Gift for you from... - Full Album