EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

Nova Musichaシリーズ 全アルバム小レビュー

ようこそ狂気の国へ。

狂気について―渡辺一夫評論選 (岩波文庫)

狂気について―渡辺一夫評論選 (岩波文庫)

 

 

Nova Musichaというレコードシリーズがある。

Crampsというイタリアの名門レーベルが出していたものだ。

 

このCrampsとは何ぞやというと、70年代を代表する名レーベル

ここに所属していたのは一部で有名なAreaArti&Mestieriなどイタリアンプログレの人である。

 

L'elefante bianco

L'elefante bianco

  • Area
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes
Gravita' 9,81

Gravita' 9,81

  • Arti & Mestieri
  • ジャズ
  • ¥250

ジャズの風味が強いが、あくまでメロディアスな曲ばかり。

普通にここら辺はピンフロで挫折したプログレ嫌いにも聴いてもらいたい。

 

そんな優良ロックレーベルが何を思ったか出したのが問題のNova Musichaシリーズ。

一応用語集に載せておいているのだが、ここでも説明すると
現代音楽・前衛音楽専門のシリーズものレコードである。

全部で18種あるが、ほとんど全てクラシック畑出身の本物の前衛音楽家の作品

生半可な覚悟で挑むと大けがをすることで知られる。

一応再発もの・ベスト的なものも多いがジャケットがカッコイイので、オリジナル盤より高値。

そして難しいものの内容も普通に良いため、今でもコアな音楽ファンから大人気で

かのコーネリアスもパロディの標的とした。

f:id:EPOCALC:20191202161636j:plain

ちなみにコレクターズアイテム。

たまに中古屋で見かけるが、モノによっては新品以上の値がすることがままある。

そんなNova Musichaだが、内容も内容だからかあまりレビューが転がっていない。

そうすると新参ノヴァ・ミュージカー*1にとって困るだろう。

実際僕は困った。どんな音楽かわからないんだもの。この手の音楽は身構える必要があるし。

というわけでこれからの人のため、今回様々な手段を用いて全部聴いたので

一つ一つ簡素なレビューをしたいと思います。

 

 Nova Musicha N.1JOHN CAGE 

John Cage

John Cage

 

Nova Musichaで一番入手が簡単。

普通に地方のタワレコでも買える、有名なケージの作品集。

内容はジョン・ケージのベスト盤と言って差し支えない。

これの二曲目"MUSIC FOR AMPLIFIED TOY PIANOS"はお勧め。

おもちゃのピアノと様々なサンプリングが面白い。

ある意味悪名高い4'33"もここに入っているヨ。

 

 

Nova Musicha N.2 Tamaran

TAMARAN(紙ジャケット仕様)

TAMARAN(紙ジャケット仕様)

 

 筋肉質の男のジャケットが印象的。2chウケよさそう。

内容はピアノの内部奏法と呼ばれる、ピアノの中に手を入れて演奏する手法を使って

12台のピアノを打ち鳴らし、定位を割り振ったもの。

まあ、現代音楽。完全に作業用BGM。

 

Nova Musicha N.3 In Sara Menchen, Christ and Beethoven there were men and women

IN SARA MENCKEN,CHRIST AND BEETHOVEN THERE WERE MEN AND WOMEN(紙ジャケット仕様)

IN SARA MENCKEN,CHRIST AND BEETHOVEN THERE WERE MEN AND WOMEN(紙ジャケット仕様)

 

これは同じ文を主語を変えてひたすら繰り返して音読するだけ。

バックの演奏も簡素で正直飽きるやつの一つである。 

ただ、ASMR的な効果がある効果音が使われているので

サンプリングの音ネタとしては優秀かも。

 

Nova Musicha N.4 La Caccia

La Caccia by Walter Marchetti (2007-11-28)

La Caccia by Walter Marchetti (2007-11-28)

 

鳥の声を機械的に変えたもので遊びまくる内容。

山奥に入っちゃった、もう帰れないよ感がする。

飽きてきたころになんだか妙な効果を入れてくるので意外と飽きない。

突如として森に行きたくなった人なんかは聴くと良いかもしれない。 

 

Nova Musicha N.5 Finale

FINALE(紙ジャケット仕様)

FINALE(紙ジャケット仕様)

 

ピアノによる(多分)即興演奏。それがアルバム一枚分。

正直前衛的にも感じず、かといってメロディアスでもなく

あんまり僕の好みではない。

アヴァンギャルドなジャズが好きな人はこれも好きかも。

 

Nova Musicha N.6 Four principles on Ireland and other pieces

FOUR PRINCIPLES ON IRELAND AND OTHER PIECES(紙ジャケット仕様)

FOUR PRINCIPLES ON IRELAND AND OTHER PIECES(紙ジャケット仕様)

 

Nova Musichaシリーズでも特に入手困難。

コーネリアスによるパロディはたぶんこれのせい。名前一緒だし。 

内容は図形譜によるピアノの演奏。

かなり聞きやすく、おしゃれな喫茶店でかかってそう

一番最初に聴くのはこれが良いと思う。

シリーズの中でも僕が大好きなアルバム。

 

Nova Musicha N.7 Luna Cinese

Luna Cinese (Jpn) by Costin Miereanu (2007-11-28)

Luna Cinese (Jpn) by Costin Miereanu (2007-11-28)

 

ジャケがとにかく綺麗。邦題「中国の月」も素敵。

しかし内容は女性の話し声と謎の効果音・サンプリングの嵐。

それがひたすら41分。ええ、このシリーズそういうのばっかりです。

でも結構好きなアルバム。

周囲との空気をシャットアウトできるので

受験生の頃BGMに使っていた。

 

Nova Musicha N.8 Tempo Furioso

TEMPO FURIOSO(紙ジャケット仕様)

TEMPO FURIOSO(紙ジャケット仕様)

 

 「前衛音楽」なのに聴きやすいのはこれかな。

断続的に流される電子音の上にピアノやシンセの効果音、声などを盛り込んでいく内容。

静謐ながら結構面白く聴き入れる。名作。

アンビエントなので睡眠導入に使うのも大いにありだと思う。

 

Nova Musicha N.9 Musica su schemi

Musica Su Schemi by Gruppo Di Improvvisazione (2007-11-28)

Musica Su Schemi by Gruppo Di Improvvisazione (2007-11-28)

 

ジョン・ケージの次によく見かけるのはコレ。何故かは知らん。

内容は色んな楽器を駆使した少人数前衛セッション。

なんだかんだでシリーズで一番いわゆる「現代音楽」のイメージに沿う作品。

 

追記

久々にCD取って出してライナーを読んでいたら

メンバーにかの有名な映画音楽作曲家エン二オ・モリコーネの名前があった。

あなた、私の知らないところでこんなことしてたのね!

 

Nova Musicha N.10 En rouge et noir

EN ROUGE ET NOIR(紙ジャケット仕様)

EN ROUGE ET NOIR(紙ジャケット仕様)

 これは是非SpotifyApple Musicなんかで落として

シャッフル聞きしてもらいたいアルバム。

内容はプリペアドピアノの演奏なのだが、

前半が19分連続1トラック、後半が前半部の音ネタトラックに分かれており、

シャッフル再生させることで全く同じ音ネタなのに違う曲に変貌する様がみられる。しかも毎回違う曲になるのだ。

この時代、CDはなかったので意図せずの結果だがなかなか面白い。

 

Nova Musicha N.11 Bird and person dyning

BIRD AND PERSON DYNING(紙ジャケット仕様)

BIRD AND PERSON DYNING(紙ジャケット仕様)

 

 ここら辺からNova Musicha名盤ラッシュの始まり。

これはA面はおしゃべりや歌、B面は鳥の鳴き声が出るおもちゃを定位を変えながら

段々と変調していくというもの。

どんどん変化していくさまが万華鏡のようで面白く、アルバム一枚一気に聴ける。

A面は途中で歌う歌自体が割と良い曲であり

B面の表題曲も現代音楽の名曲と言われ知名度が高く、アルバムの情報も比較的多い。

 

Nova Musicha N.13 Rrose Sélavy

RROSE SELAVY(紙ジャケット仕様)

RROSE SELAVY(紙ジャケット仕様)

 

何故かは知らないが、N.12は欠番なので次はコレ。

これも名盤。N.2と同じ作曲家の作品。

内容はピアノの小品にどんどん意味不明なトラックを重ねていって

全く別の曲に仕立て上げる、というもの。

最初の曲がエリック・サティのような簡素なラウンジミュージック風なのだが

無秩序なトラックによって最終的にはすごく凶暴な曲になる。

ちなみにこの前レコードで再発された。もちろん買った。

 

Nova Musicha N.14 First Records

FIRST RECORD(紙ジャケット仕様)

FIRST RECORD(紙ジャケット仕様)

 

 これはフルート奏者による演奏。

A面が多重録音でB面が独奏を回転数を落とす、今風に言えばスクリューしたもの。

実際に聴いてみると案外フルートの良盤で楽しめる逸品。

普通にCDほしい。

 

Nova Musicha N.15 In terram utopicam

In Terram Utopicam

In Terram Utopicam

 

これだけNova Musichaのジャケのアマゾン商品を見つけられなかった・・・

 N.4と同じ人のアルバム。

ピアノの鍵盤に石をくくり付け、ピアノを引っ張って石の反動で音を出すというのがA面で

いきなり不協和音からスタートするのでビックリする。

実際にピアノを引きずる様子を見てみたいね。その行為も含めてこの曲なんじゃないかな。

B面は前衛電子音楽二曲。ただのノイズである。

 

Nova Musicha N.16 Microphone

Microphone

Microphone

 

 N.15のB面は正直ただのノイズだが、こっちはノイズミュージック。

マイクで増幅したようなノイズが立体的に迫る。

これは大阪万博の時に頼まれて作ったものの再録だそうで 

これを生で聴いた万博来訪者の様子を見てみたかった。

 

 Nova Musicha N.17 Cheap Imitation

Cheap Imitation by JOHN CAGE

Cheap Imitation by JOHN CAGE

 

 ジョン・ケージ再登場。

なにやらピアノの単音orオクターブ弾きで何か演奏している。なんだこれ。 

説によると、サティのより簡素な再解釈(=チープなイミテーション)じゃないかとのことだ。

(追記:先日先輩にうかがったところ、サティのある曲のリズムをそのままに音価を変えたものだそう)

 

N.5も前衛的なピアノの独奏だったが

あちらより装飾が少ない分疲れず、リラックスして聴ける。

でも子供のピアノ遊びみたい。

Nova Musicha N.18 La maquina de cantar

LA MAQUINA DE CANTAR(紙ジャケット仕様)

LA MAQUINA DE CANTAR(紙ジャケット仕様)

 

これは普通にテクノファンにおススメのもの。 

内容はコンピュータ制御の電子音でつまるところプレYMO

ポリリズムのように音が配置されているのも面白いし

モノになったりステレオになったりの変化も楽しい。

特にB面は冨田勲の曲に出てきそうな感じ。

楽器独奏系をのぞいたらNova Musichaで多分一番取っつきやすい。

 

Nova Musicha N.19 Cantare la voce

CANTARE LA VOCE(紙ジャケット仕様)

CANTARE LA VOCE(紙ジャケット仕様)

 

Areaのボーカルによる声のお遊び

全編にわたりホーミー的なことをやっており

ジャケットの絵のような、のどから声を出しているような歌が楽しめる。

楽器を弾かないボーカルは馬鹿にされがちだが、

極めるとヤバいことになるのを示した一作。

 

 

 

 

以上、全18作品であった。

今回レビューするにあたってフィジカルで持っていないものも聴いてみたが

なかなか疲れるシリーズですネ、こりゃ。

あと段々内容が洗練していくあたり、担当者の選盤の腕が上がっていく様子が見られて面白い。

全体的に今でも前衛性を失っていいないものが多く、

コレから作曲する人やDJの方はここからアイディアを拝借したり、音ネタに使うのも面白いかもしれない。

フィジカルではあまり手に入らないものの、

一部の作品はサブスクやYoutubeにあるのでぜひ一度聴いてみてほしい。

予想しない動きをする狂気的な音楽を一回体験してみよう。

 

 

サウンドアート ──音楽の向こう側、耳と目の間

サウンドアート ──音楽の向こう側、耳と目の間

 

 

*1:Nova Musichaを聴く人

ⒸEPOCALC