EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

Music From Temple/Music From Temple【1983】

発掘された遺跡テンプル

Music From Temple

Music From Temple

 

 この世の中には結構な数のインディーズ盤なるものが出回っている。

これの購買数は下北沢駅での乗降客数に比例*1するが、

新人アーティストにとってはメジャーデビューないしは次なる一手のためにとても大事なものである。

だが、インディーズ盤にはアーティストが売れてしまうとやや高額になるという特徴がある。

この前渋谷でサニーデイ・サービスインディーズ盤を見かけたがシングルEPのくせに4000円近くした。あほか。

ただ、高額ゆえにこれを持っているとそのファンから一目置かれる存在になることができるぞ!

 

しかしながら、この世の中にはインディーズ盤を一枚しか出さなかったものの、音楽的に評価されるバンドが結構ある。

そしてその場合、レコードの価格はメジャーデビューしてる人気バンドのインディーズ盤より遥かに高くなる。

一番有名なのが山下達郎とゆかいななかまたち(具体的なバンド名がないのでこう呼びます)の

Add Some Music To Your Day


Tatsuro Yamashita - Add Some Music To Your Day (Japan, 1972) (Surf, Rock & Roll)

ちなみにこのころのタツローはドラムスです。

プレス枚数は100枚。つまりわずか0.125オンド*2という戦闘力。

この前Twitter上でとあるDisk Unionにおいてこのアルバムの当時のものが見つかったと報告があったが、

驚きの65万円であった。中古の軽自動車買えるじゃん。

このように、値の上り幅はそこらのインディーズ盤とは段違いである。

 

シティポップなら、フォークソングコンテストで優勝し、

その記念に作った銀河鉄道So niceが高額なレコードで有名だ。どちらもはっぴいえんどやナイアガラのフォロワー。

www.youtube.com

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 どっちもオリジナルのレコードは200枚=0.25オンドという少なさ。

ただSo niceのCDは安く出回っていますヨ。

二組とも早すぎた渋谷系という趣でお勧め。

 

今回ご紹介するMusic From Templeのセルフタイトルもそんな自主制作盤の一つ。

これは今まで紹介した自主制作アルバムよりもさらに無名で

やっと最近CDが出たという代物。というか最近発掘されたという表現が正しい。

プレス枚数も300枚=0.375オンドと、自主制作盤にしてはちょっと多めだが

それでも普通の盤よりかなり少ない。0.5オンド切ってるからね。

 

さてこのバンドだが、どうやら福岡県久留米市永福寺というお寺のプログレオタクの息子がやっていたもので

そのお寺の片隅で練習していたからこのバンド名らしい。

goo.gl

さらにそのお寺の片隅で友だちから貸してもらったレコーダーで曲を録音するという狂気。

そしてこれを自主制作で発売したコジマ録音という会社は

ほぼクラシック系のアルバムしか出しておらず、

その中ではかなり異質ロック系の録音である。

やはり自主制作なだけ話題に尽きないネ。

 

さて内容を見ていきますか・・・と言いたいけれど

記事執筆時点でYoutubeiTunesに音源を見つけることができなかったので

気になった方は下のページから試聴してみてください。ドンダケマイナーナンダヨ

昨今では「サブスクにもYoutubeにもない音源はないものと同じ」と言う話を聞くので

もしかすると僕は今、をレビューしているのかもしれない。

 

さてここからはこれを初めて聴いたときの僕の気持ちになって読んでほしい。

 

ジャケは有名なねじ式の一コマ目のパロディであり、この時点でそこはかとない不穏感が漂う。

帯文句には「福岡の寺からアクサク・マブールへの回答」とある。

アクサク・マブールは、名前しか聞いたことがないものの、

チェンバーロックという室内管弦楽みたいな感じなプログレ

プログレ斜陽のころにプログレ復権につとめていたらしいと聞く。

アクサク・マブールってどんな感じなのかな。

CD聴く前に、どれどれ聴いてみるか・・・


Aksak Maboul - Modern Lesson (1979)

 

・・・ってこいつらぶっ壊れてやがる。

大丈夫なのか、このCD・・・と思いつつ聴いてみる。

 

 

一曲目”Intoroduce”からアルバムはスタート。

ギターのアルペジオふ、ふつくしい・・・・

全然ぶっ壊れてない、というか何この綺麗な音楽。

ロディアスでめっちゃ聴きやすいぞ!

そう思っているうちに二曲目・三曲目に突入。

チェンバーロックに例えられるのできっと管弦楽器とかバリバリに来ると思って身構えていたが

どうやらギター・ベース・ドラム・キーボードの普通のバンドのようだ。

それが奏でる、イギリスのトラッド・フォーク*3の楽曲。

この田舎っぽさは田舎出身の僕にとってなかなか良い。

ボーカルも力が抜けた感じでいかにもアマチュアだが、

それが逆に田舎っぽいメロに合っていてとても良い。

さらにマスターテープ行方不明のためLPから音を取っているが

そのせいであんまり音が良くないのも田舎臭さに拍車をかける。

その後プログレ臭漂う実験や、意外と激しい演奏を挟むいくつかの小品が畳み掛ける。

 

そしてプログレにありがちな大曲を一曲もやらずにおしまい。最長でも6分程度でした。

83年時点では長い曲は流行らなかったのだろうネ。

 

全体の印象としては

あんまり70年代のTHE プログレではあんまり聴かないような
比較的単純なフレーズが多い印象。

また先ほど紹介したように、

プログレの対極にあるパンクにもまけない激しい演奏もあり
プログレの要素があるプログレではない何かという趣だヨ。

多分「アクサク・マーブルへの回答」というのは彼らのように

Music From Templeはプログレ復権を目指した、ということなんでしょうな。

何度も繰り返した通り、田舎臭いメロが特徴なので

トラッドフォークやカンタベリーが好きな人にお勧めかも。是非聴いてね。

 

ちなみにこのバンドの中心人物であるお寺の息子さん、

今は住職さんになっているのだそうだ。是非参拝してみたいネ!

 

*1:諸説あります。

*2:大滝詠一の1979年のアルバム"Let's Ondo Againの初回売り上げ800枚を1とした、本ブログ発の単位。今回はめっちゃ登場します。

*3:イギリスの伝承歌に根差したフォークソングのこと。とても田舎臭い。

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