発掘された遺跡
この世の中には結構な数の「インディーズ盤」なるものが出回っている。
新人アーティストにとってはメジャーデビューないしは次なる一手のためにとても大事なものである。
だが、インディーズ盤にはアーティストが売れてしまうとやや高額になるという特徴がある。
この前渋谷でサニーデイ・サービスのインディーズ盤を見かけたがシングルEPのくせに4000円近くした。あほか。
ただ、高額ゆえにこれを持っているとそのファンから一目置かれる存在になることができるぞ!
しかしながら、この世の中にはインディーズ盤を一枚しか出さなかったものの、音楽的に評価されるバンドが結構ある。
そしてその場合、レコードの価格はメジャーデビューしてる人気バンドのインディーズ盤より遥かに高くなる。
一番有名なのが山下達郎とゆかいななかまたち(具体的なバンド名がないのでこう呼びます)の
Add Some Music To Your Day。
Tatsuro Yamashita - Add Some Music To Your Day (Japan, 1972) (Surf, Rock & Roll)
ちなみにこのころのタツローはドラムスです。
プレス枚数は100枚。つまりわずか0.125オンド*2という戦闘力。
この前Twitter上でとあるDisk Unionにおいてこのアルバムの当時のものが見つかったと報告があったが、
驚きの65万円であった。中古の軽自動車買えるじゃん。
このように、値の上り幅はそこらのインディーズ盤とは段違いである。
シティポップなら、フォークソングコンテストで優勝し、
その記念に作った銀河鉄道やSo niceが高額なレコードで有名だ。どちらもはっぴいえんどやナイアガラのフォロワー。
どっちもオリジナルのレコードは200枚=0.25オンドという少なさ。
ただSo niceのCDは安く出回っていますヨ。
二組とも早すぎた渋谷系という趣でお勧め。
今回ご紹介するMusic From Templeのセルフタイトルもそんな自主制作盤の一つ。
これは今まで紹介した自主制作アルバムよりもさらに無名で
やっと最近CDが出たという代物。というか最近発掘されたという表現が正しい。
プレス枚数も300枚=0.375オンドと、自主制作盤にしてはちょっと多めだが
それでも普通の盤よりかなり少ない。0.5オンド切ってるからね。
さてこのバンドだが、どうやら福岡県久留米市の永福寺というお寺のプログレオタクの息子がやっていたもので
そのお寺の片隅で練習していたからこのバンド名らしい。
さらにそのお寺の片隅で友だちから貸してもらったレコーダーで曲を録音するという狂気。
そしてこれを自主制作で発売したコジマ録音という会社は
ほぼクラシック系のアルバムしか出しておらず、
その中ではかなり異質なロック系の録音である。
やはり自主制作なだけ話題に尽きないネ。
さて内容を見ていきますか・・・と言いたいけれど
記事執筆時点でYoutubeやiTunesに音源を見つけることができなかったので
気になった方は下のページから試聴してみてください。ドンダケマイナーナンダヨ
昨今では「サブスクにもYoutubeにもない音源はないものと同じ」と言う話を聞くので
もしかすると僕は今、無をレビューしているのかもしれない。
さてここからはこれを初めて聴いたときの僕の気持ちになって読んでほしい。
ジャケは有名なねじ式の一コマ目のパロディであり、この時点でそこはかとない不穏感が漂う。
帯文句には「福岡の寺からアクサク・マブールへの回答」とある。
アクサク・マブールは、名前しか聞いたことがないものの、
プログレ斜陽のころにプログレ復権につとめていたらしいと聞く。
アクサク・マブールってどんな感じなのかな。
CD聴く前に、どれどれ聴いてみるか・・・
Aksak Maboul - Modern Lesson (1979)
・・・ってこいつらぶっ壊れてやがる。
大丈夫なのか、このCD・・・と思いつつ聴いてみる。
一曲目”Intoroduce”からアルバムはスタート。
全然ぶっ壊れてない、というか何この綺麗な音楽。
メロディアスでめっちゃ聴きやすいぞ!
そう思っているうちに二曲目・三曲目に突入。
チェンバーロックに例えられるのできっと管弦楽器とかバリバリに来ると思って身構えていたが
どうやらギター・ベース・ドラム・キーボードの普通のバンドのようだ。
それが奏でる、イギリスのトラッド・フォーク*3風の楽曲。
この田舎っぽさは田舎出身の僕にとってなかなか良い。
ボーカルも力が抜けた感じでいかにもアマチュアだが、
それが逆に田舎っぽいメロに合っていてとても良い。
さらにマスターテープ行方不明のためLPから音を取っているが
そのせいであんまり音が良くないのも田舎臭さに拍車をかける。
その後プログレ臭漂う実験や、意外と激しい演奏を挟むいくつかの小品が畳み掛ける。
そしてプログレにありがちな大曲を一曲もやらずにおしまい。最長でも6分程度でした。
83年時点では長い曲は流行らなかったのだろうネ。
全体の印象としては
あんまり70年代のTHE プログレではあんまり聴かないような
比較的単純なフレーズが多い印象。
また先ほど紹介したように、
プログレの対極にあるパンクにもまけない激しい演奏もあり
プログレの要素があるプログレではない何かという趣だヨ。
多分「アクサク・マーブルへの回答」というのは彼らのように
Music From Templeはプログレ復権を目指した、ということなんでしょうな。
何度も繰り返した通り、田舎臭いメロが特徴なので
トラッドフォークやカンタベリー系が好きな人にお勧めかも。是非聴いてね。
ちなみにこのバンドの中心人物であるお寺の息子さん、
今は住職さんになっているのだそうだ。是非参拝してみたいネ!
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