コミック・ソング最終形態。
- アーティスト: Niagara Fallin' Stars
- 出版社/メーカー: Sony Music Records Inc.
- 発売日: 2014/03/19
- メディア: MP3 ダウンロード
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よくこのブログでネタにしているのに全く触れないのはかわいそうなので今回はこれを紹介いたします。
大滝詠一、と言えばどんなイメージだろうか。
山下達郎の路線でもっと邦楽じみた曲を作るメロディメーカー
みたいなイメージじゃないだろうか。
そしてジャケットを彩る永井博や鈴木英人の絵。夏の音楽という感じだと思う。
しかし!それはあくまで大滝詠一のほんの一面を見ているだけに過ぎない。
こういうイメージと言うのは主に80年代以降、すなわちロンバケ以降についたイメージであって
本格的に売れる前の70年代は凄いことになっている。
では少しだけ大滝詠一の70年代の歩みをみてみませう。
まず、大滝詠一ははっぴいえんどという、ちょっと探れば耳にたこができるほど聴かされるグループにいたのは有名。
ビートルズ由来ではなく、アメリカのロックを継承して日本風にしたので
日本のビートルズとも呼ばれていたそうだね。
「はっぴいえんどでは細野がレノンで大滝がポール」
なんて言われることもあるが、正直はっぴいえんどにはポール不在な気がする。
だって、はっぴいえんど時代の大滝曲って細野曲以上にめちゃくちゃ実験的ですから。
ちょっとプログレっぽい。
むしろこの時は細野晴臣のほうが素直な曲を作っていた気がする。
だって風をあつめてだぜ?平和だろう?
まあ細野さんはそのあとお薬で沖縄までとんじゃったみたいだからね。
はっぴいえんどの解散原因については諸説あるが、そのうちの一つに「大滝ソロのせい」というものがある。
そもそも全員ソロアルバムをやる予定で、大滝さんが先駆けとして出したのだが
はっぴいえんどのライブでそのアルバムの曲をやるのをせがまれるという
なかなか気まずい事態になったそうだ。
せがまれたといわれる空飛ぶくじら。はっぴいえんどでは禁じ手にしていたビートルズの下記の曲からの引用を使ってある。
The Beatles (Paul McCartney) - Your Mother Should Know (Music Video)
クリソツですね。本当にありがとうございました。
ビートルズをあえて避けるというバンドのコンセプト的にも良くなかったのかもしれない。まあcome togetherの引用曲あるけど
解散後、大滝詠一はシティポップの総本山として有名なレーベル「ナイアガラ」と言うものを立ち上げる。
レーベル買いしても損がない日本のレーベルのうちの一つであるネ。*1
ナイアガラは今では椎名林檎とかも普通にやっているプライベートレーベルのはしりで
大滝さんはかなり好き勝手なことをしている。
例えば当時は珍しいCMソングだけのアルバムを作ってみたり自分のラジオをパロディしたレコードを出したり
さらには他の人の作品であっても必ずどこかに大滝詠一の声が入っているともいわれるふざけっぷり*2。
とはいうものの、割とちゃんと売れることも気にしていた大滝さんだったが、
渾身の作品「Niagara Calendar」が時間不足のため思うような出来にならず、プロモも不十分だったため不発に終わると
もうレーベルは次でおしまいという雰囲気になり、吹っ切れてしまう。
そして出来上がったが今回ご紹介するLet's Ondo Againでございます。
初回プレス1500枚、売り上げ800枚というメジャーであることを疑う流通枚数でありつつも
レーベル史上もっとも費用が掛かったという立つ鳥後を濁しまくりな作品である。
では聴いていみましょう。
最初は「峠の早駕籠」からスタート。
これは、童謡「お猿の籠屋」を「峠の幌馬車」のパロディで演奏するというなんとも奇怪なもの。
ただ今の耳で聞くとサンプリングがガンガン使われていて、小品だが割と面白い。
次の曲は337秒間世界一周。
その名の通り337秒間にわたって世界中の音楽のあるあるフレーズをひたすら弾き続けるというもの。
沖縄に行ったりロシアに行ったり中国へ飛んだりと忙しい。
100万円なんか払わなくても世界一周できるお手軽旅行曲。
ピースボートなんかよりこっちのほうが良いね!
大滝詠一の引用の手際の良さが光る。
さらにお次は自分の過去作のリメイク「空飛ぶカナヅチ君」。
YMOもびっくりのシンセの使い方。
一応元曲とメロディが同じなのだが、シンセのせいで別物と化している。
こんな感じでいわゆる「大滝詠一」を期待している人は大やけどするコミックソング集である。
A面はこの調子でパロディソングが続く。ここまでで結構お腹いっぱいだろう。
しかし、このアルバムの白眉はB面である。
まず、ピンクレディ「渚のシンドバッド」の替え歌「河原の石川五右衛門」
無駄に定位にこだわっているのがむかつく。
しかもただの替え歌ではなくSOSやらカルメンやら色々ぶち込んで異形と化している。
ちなみにこれは阿久悠から直々に怒られてオリジナル版には未収録。怒られろ。
さらに禁煙音頭はかの鈴木雅之をボーカルに取っている。
これはダウン・タウン・ブギウギ・バンドのスモーキン・ブギのアレンジ。
この曲にはほかにも山下達郎やらBUZZやらがコーラスにおり、豪華な人選でうならせる。
そして間奏部では山下達郎が「煙が目に染みる」を歌っている。無駄遣いすぎる。
もちろん洋楽にもけんかを売ることもわすれていない。
レイ・チャールズのWhat'd I Sayの音頭カバー、
その名も呆阿津怒哀声音頭。
正直ほぼカバー。
この曲の面白いところは実は歌詞カードで、
なんと英語を漢字で当て字して書いてある。
パソコンやワープロのない時代にやったのだから大滝詠一のしつこさが見て取れる。
そして最後は表題曲Let's Ondo Againでおしまい。
そもそも「ナイアガラ音頭」を作った後、
ツイストをもう一回流行らせようとした曲、Let's Twist Againに引っ掛けて
この曲を作るという企画からスタートしたのでこの曲が発端みたいなところがある。
これの81年版リミックスがなかなか良く、
音頭だと意識せずに聴けるなかなかの良曲に仕上がっていておススメです。
さて、このアルバムは「パロディとコミックソングの連続」と一口に説明されてしまうが、
よく聞いてみるとサンプラー登場以前にサンプリング的なことを実践していたり
全く毛色の違う曲を露骨に引用しつつ一つの曲にしてみたり
同じ音・フレーズが複数曲にまたがってでていたり
かなりヒップホップ的なサンプリングのアルバムだと考えることができる気がする。
特に一番最後の点に関しては同じフレーズを複数曲に入れようとしたビーチボーイズのSmileのパロディとも捉えられる。
世界初のサンプリングアルバムの誉れ高いのはYMOのTechnodelicだが、
それは単に「世界初・サンプラーを全面使用したアルバム」であって
実は世界で初めてサンプリングという行為をアルバムのコンセプトとしたのはLet's Ondo Againじゃないかと思っている。
だから、このアルバムはふざけているようで何か恐ろしいものを秘めている気がしてならないのです。