狭間系ポップス。
先月末、期間限定で「9月の海はクラゲの海展」なるかなり限られた客層向けの催し物がやってたらしい。
生誕34周年って大分キリ悪いですね・・・
さて、この「9月の海はクラゲの海」とは何ぞやと言えば
日本のアングラバンドの代表格ムーンライダーズの代表曲であり、
アルバムDon't Trust Over Thirtyに収められている。
このムーンライダーズは日本の数あるバンドの中でもかなり異色で
前身であるバンドがはっぴいえんどと同時代のはちみつぱいであり、
二回ほど休止したもののすぐに復活し今でも一応存続しているという
大変息の長いバンドである。
このくらい長くやっているのはセンチメンタル・シティ・ロマンスくらいか。
ちなみにこのバンドのボーカルはナイアガラ・レーベルにいたそうだけれど、
大滝詠一の作ったラーメンをまずいと言って破門されたそうだ。
ごく初期はティンパンアレーのようなシティポップ調のバンドであったが
いち早くワールドミュージックを取り入れ
これまたいち早くテクノやニューウェーブに接近するという暴れっぷり。
70年代終わりくらいには所謂ところの「東京ロッカーズ」とも仲良くしていたらしい。
さらに同期的な立ち位置のはっぴいえんどの面々とも関係が深く
細野晴臣のラジオに出てきたり、大瀧詠一のアルバムの制作に関係していたりしている。
いわば、ムーンライダーズは
的な存在ということだネ。
また、そのようなアングラな音楽性にも関わらず
アグネスチャンやキャンディーズのバックバンドをやってたり
ゲームやCMの曲を作っていたりと割とメジャーな活躍も多い。
つまり、「アングラとメジャーの中間」でもあるネ。
そんな狭間に位置する特異なバンド・ムーンライダーズの数あるアルバムのうちの一つがこのDon't Trust Over Thirty。
アルバム名はヒッピームーブメントの合言葉「30以上のやつは信じるな」かららしい。
ムーンライダーズは度々アルバムにキテレツなコンセプトを掲げる。
例えば、「カメラ=万年筆」はヌーベルバーグ映画を見た感想を曲にするであるとか
ANIMAL INDEXは『動物』と『個人によるバンドの構築』(WIKIより)
そしてDon't Trust Over Thirtyではメンバーが得意なことを禁じたそうだ。
でもそれが名盤なのはどうなの。
じゃあ聴いていきましょう。
一曲目はインストからスタート。
サンプリングがガシガシ入った、とてもテクノな一曲。シンセサイザーの音に時代を感じますナ。
実はボーカルを入れる予定だったらしいのだけれど、諸事情で録れなかったらしい。
でもまずこういうイントロ然としたインストを挟んだほうがアルバム全体がまとまるね。
そんなテクノテクノした曲を聴いて、ああ、このバンドはアングラテクノバンドなんだなとか思っていると次の一撃でやられる。
ハイパー名曲。テクノ歌謡の金字塔です。
同じメロの繰り返しなのにしつこくなく、さらりと聴き流せます。
またあまり飾らない歌詞も素敵。こちらはアングラ系からかしぶち哲郎氏が書かれているそう。
80年代の皆様の作詞能力、めちゃくちゃに高いですネ・・・
この曲を聴いてうっとりしていると次の曲へ。
ハイパー迷曲。と言うかこれはなに。
ずっとなっているオルガンとぶちぶちに切ったボーカル、合間を縫うように謎の音。
C調*1とは何ぞや。Nova Musichaシリーズにありそうな前衛音楽です。すうぱあしい。
前の曲が普遍的なポップスだっただけに異様さが際立つ。
4曲目の「だるい人」で割と普通の曲が戻ってくるが、なぜかコミックソング。
「かねがほっしい~」というコーラス。
ここまで欲に正直なコーラスがあったでしょうか。
歌詞は蛭子能収。らしい歌詞っすね。
ここまで来て分かったと思いますが、ムーンライダーズは基本的に何でもありです。
アングラ系な音楽が欲しかったらムーンライダーズを聴けば何か当たりがありそうですネ。
その後も名曲ラッシュが続き、30年以上前にオタクの悲劇を歌った「マニアの受難」や、エヴァのタイトルにもなった「ボクハナク」もおススメでございます。
ちょっと真ん中から外れた名曲を作り出すのに長けたムーンライダーズですが、
アルバム自体はスルメ盤が多く、一枚だけ買って理解できずに放置、みたいなことも多いよう。
けれどこのアルバムは「9月の海」も入っていることもあってかなり取っつきやすくなっています。
ムーンライダーズをこれから聴きたい方、聴いたけどよくわかんなかった方は
コレをまずきいてみることをお勧めいたします。
moonriders - DON'T TRUST OVER THIRTY 【Full Album】+α
*1:一応解説しておくと、軽薄な様子。死語。