ピリカ・ウポポ!
トンコリという楽器をご存知だろうか。
アイヌに伝わっている弦楽器で、琴に似ている音が鳴る代物。ちなみに某異常言語学オタクによれば、トンコリの名は満州とかロシア方面とのつながりがあるらしい。*1
面白い持ち方で演奏しているが、実は現在分かっているトンコリの演奏法や制作方法は樺太アイヌのもの。北海道や千島でもトンコリが演奏されていたらしいが、伝承が途絶えてしまって現在はよく分からないらしい。
いきなりドマイナー民族楽器の紹介を初めてどうしたんだこのブログと思った方もいるかもしれないが、今回紹介するOKI氏は数少ないトンコリの奏者の一人。
OKI氏は北海道生まれ。Bandcampのアルバムページによれば高田みどり*2と同世代とのこと。
元々自身がアイヌであることを全く知らなかったらしいが、大学生のときひょんなこと*3から自分がアイヌであると判明。もっともそんなすぐには現実に向き合えず、しばらくアメリカでネイティブアメリカンと放浪する。*4
その後北海道に戻ってきた際にアイヌ記念館の館長をやっていたいとこからトンコリをもらう。その時にこれこそ自分の進む道だ!と直感的に思い、以降今まで演奏を続けて来たそうな。作ったアルバムは20枚以上に及ぶ。Tonkori in the Moonlightは一種のベスト盤であり、彼の活動に今一度スポットライトを当てようという試みなのだ。ちなみにレーベルはイギリスのMAIS UM DISCOSで、民謡クルセイダーズなんかもこのレーベル出身。*5
一曲目のDrum Songから痺れる。
上で歌われているのはアイヌの民謡、所謂ウポポなのだが、ドラムのリズムはジャマイカの音楽・ニャビンギを模したもの。
そう、OKI氏はレゲエに非常に精通した人物であり*6、単なるアイヌ民謡の再演ではなく現代の音楽に基づいた価値観でもって演奏してくれているのだ。
氏のトンコリ捌きはKai Kai As Toでよく聴ける。
この曲も伝統的なアイヌの民謡。カイカイアストというのは幌尻岳にある湖のことらしい。*7そこに古くからカムイが住むと言われており、それを信仰する歌がこれというわけ。
琴に似ていると記事冒頭で書いたが、トンコリはよりくぐもった音をしていて土着的。構造的にも大差ないはずなのに不思議。音楽の神秘を感じる。
個人的には不思議とハワイの民謡を思いだしてしまった。遠く離れておりさすがに交流があったとは考えにくいが、よく似た「自然への憧憬」がベースにあるからかもしれない。
いくつかの曲では安東ウメ子というアイヌ語民謡の名手とコラボしている。
コオロギによる食害をテーマにした曲らしいが、一聴して分かる通り歌とトンコリの調がズレズレ。それなのにこれ以上ないほどバックと歌が調和しているのは伝統音楽の妙。
これは細野晴臣をしてこんなの作れないと言わしめたもの。美しさの中に狂いが込められているさまが、我々日本人にも通じるアイヌの災害や疫病をも精霊として祀る精神性を感じる。ちなみにより古い演奏家の音源だともっと滅茶苦茶やっているらしい。さすが。
アイヌ民謡というとどうしても一般リスナーに向いていないニッチな音楽というイメージがあるが、OKI氏はアイヌの精神性を失わず、現代のリスナーにも積極的に勧められるような音楽に仕立て直したのが偉大である。民謡クルセイダーズと同じレーベルから出ているのにも、レーベルオーナーのそういった意図が見え隠れする。
ちなみにOKI氏はダブを取り入れたバンドを組みライブ活動を行っているなど、現在も精力的に活動されている。ライブ動画もいくつかあるので是非見てみよう。
確かこれは去年の11月ごろに発売が発表されたものだと記憶しているのだが、その際あまりにも衝撃的で2022年の年間ベスト候補と言ってしまった。
2022年ベスト候補が早くも...https://t.co/ZwicZ5Yg80
— PA⊬EPOCALC (@insomniaEPOCALC) November 30, 2021
多分世界一速い年間ベスト宣言だったんじゃないだろうか。もっと早く言っていた人いたら教えてください。
※ちなみに……
アイヌ文化をテーマにした漫画・ゴールデンカムイが4/27まで無料だそうです。これを聴きながら読むっきゃないね。