僕らのバラード、聴かせよう
noteにかまけていたら、「90日間更新されてないブログに付くあの広告」がついてしまった。自分のブログで見ることになるとは思わなかった。これは良くない。更新します。
謎の音楽家、という文句はその雰囲気とは裏腹にまあまあの頻度で耳にする。
好例がボカロ系・宅録系の音楽家。が、その手の音楽家をロックバンドより耳にする昨今においては謎の大安売り状態。謎の敷居が低すぎ。
そして最初謎な人でも、音楽活動やインタビュー等を重ねるうちにだんだん人物像が判明していく。そうして謎のレッテルはどこへやら、みんな知ってる○○さんになっちゃっていたりするのである。海外音楽家でも同じことで、結構フランクにインタビューに応えてしまいイメージが崩壊する、なんてこともしばしば。
そんな中、人気と裏腹に20年以上謎のヴェールに包まれている正真正銘・謎の音楽家がいる。それが戸張大輔だ。
日本音楽史上最大の異端と言っていいかもしれない戸張大輔。実際、2022年11月現在、彼の名をGoogleで調べてもレコ屋の情報と「ネットに全然情報が転がってないね💛(大意)」とだけ書かれたブログ記事、2chのスレがヒットするくらい。
それらの情報を総合すると、下記のような人物らしい。
彼は元々難波Bearsを中心に関西スカム界隈で活動していたらしい。(恐らく大学在学時)
その頃のライブの様子はなんとYoutubeで聴くことができる。ネット凄すぎ。
シタール風にギター即興を繰り広げた後、突如として叫ぶ。それだけなのにどこか神々しさがあるね。
初期はこんな感じのスカムやノイズばかりやっていたそうだが、段々とドリーミーなポップスに移行していったらしい。
そんな中でカセットテープEPを幾つか制作。ライブハウスにおいてもらったところ、それをたまたま聞いた山塚EYEが仰天。その中の作品「ファンタジー」がなんとREMIX誌のベストアルバム企画に選出される。
豊田道倫など周囲の勧めもあり、カセットで出していた音源と新録を併せたアルバム「ギター」を1999年に発売。また偶然来日していたキャロライナ・レインボーが本国にカセットを持ち帰り、勝手に音源を販売。これによって世界的な評価も得た。
その後の活動は2009年に2ndアルバム「ドラム」、2019年に「ギター」LPとオマケの7インチを出すのみ。インタビューはもちろん、ライブも21世紀中は多く見積もって5回以下しかやっていない。
以上が恐らく今のところ一番詳しい戸張大輔のプロフのはずだ。
そう、これくらいしか分かっていない。しかし彼の音楽を聴くとそれで良い気もする。
「ギター」の音楽は摩訶不思議である。民族音楽っぽくもあるしアシッドフォークっぽくもある。
しかしそのどれでもない。形容を拒否する音楽とでも言うべきか。故に人に紹介する時一苦労する。
ただ一つ言えるのはノスタルジーに満ち満ちているところ。彼の曲には名前がついていないが、そのせいか名前を忘れた懐かしい歌のようにも思ってしまう。
上記、無題4が彼の代表作とも言うべき作品。アルバムの4曲目なのでこの呼び名になっている。
Lo-Fi音像から繰り広げられるバラード。単純明快で一度聴いたら忘れられない旋律と、朴訥ながら精神的葛藤と愛情を帯びた歌詞。
やっていることに複雑さはない。しかしながら、あらゆるものを超越した何かがあると感じてしまう。僕はこれを聴くたびに、故郷の古ぼけた街並みや幸せと不幸の狭間を思い出す。
「誰しも頭の中で鳴っている、しかし頭の外には持ち出せない鼻歌のような音楽」という評があったが、見事に的を射ている。音楽の終点にある歌なのかもしれない。
無題4はその後さまざまな人にカバーされているが、中でもEGO-WRAPPIN'中納良恵氏のものが特に有名。こちらも名カバー。
他にも彼には名曲がわんさかある。例えばインストの無題16はイルリメにサンプリングされていたらしい。
このようなインスト曲も多く収録されており、どれも自然と遊ぶ風景が目の裏に浮かぶよう。山登りをしているジャケットもとてもよく似合っている。
またスカム出身らしい音楽も幾つかあるが、それもどこでもない民俗舞踊のようで絶品。さらにそこからシームレスにドリーミーな歌に行くさまは圧巻。山本精一のいう「うたもの」の概念をここまで体現している人はそういまい。
個人的に好きなのは無題5。
名曲の後なのでかすみがちだが、こちらは楽し気でさながらギターポップ。
しかしながら彼独特の異様な空気感は保たれている。暗いものを背負っている人が快活に振る舞っているような、そんな感じ。とても悲しい雰囲気を漂わせた明るい歌だ。
そんな戸張大輔の人となりはライブレポからも伝わってくる。
このライブでは自信なさげに2ndアルバムの発表をし観客から歓声が上がったらしいが、その際「嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべて「有り難うございます。」とお辞儀をしながら言った」そうだ。
この反応を見るにどうやら自分に途轍もなく自信がない人のようである。それ故「別に誰も聴かないから、たまの活動で十分」と思って活動していないんじゃないだろうか。その昔雑誌に「天才です」と言ってテープを送ったそうだが、それもこの性格の裏返しのように思えてならない。
しかしながら近年になっても彼の評価が下がるどころか上がりっぱなし。
例えば海外の人が選ぶ日本のアルバムランキング100に2ndのドラムが入っていたりとか。
アメリカ最大手の音楽コミュニティ「Rate Your Music(RTM)」で、得点上位100位の日本のアルバムをピックアップしてみた。
— 𝑷𝒆𝒕𝒆𝒓 (@zippu21) 2021年9月29日
1. サントラやライブ盤は排除
2. 投票数が5票以上のものから選出
はっぴいえんど史観とは一線を画す、海外からの評価、視点が面白い。 pic.twitter.com/13u6K887WD
もちろん国内でも支持が篤く、崎山蒼志やウ山あまねなど宅録系の音楽家がライブでカバーしているなど彼に親しんでいる若い音楽ファンも大変多い。
どうか戸張氏には自身は最も必要とされている音楽家であると知ってほしいところである。せめてサブスク解禁してほしい。
ちなみに古の着メロサイトには無題4があったらしい。着メロ文化すげえ。