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本州一下らない音楽レビューブログ

渋谷系から見るシャンソン的作詞術(先日学校に出したレポートより)

課題さえも趣味に利用してやるぜ。

ベスト・オブ・シャンソン 101 ( CD4枚組 ) CHS-130

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※この記事は先日実際に学校へ提出したレポート内容をブログ記事用に砕けた文体に再編集し、適宜解説を加えたものです。なのでレポートと内容はほとんど一緒。マジでだよ!

 

 

日本においてシャンソンという語が広まったのはいつからだろうか。

・・・と言っても多くの人は「新春シャンソンショー」という早口言葉くらいしかシャンソンに親しんでいないだろうので

そもそもシャンソンとは何か解説しておくと、

フランスのポピュラー曲のこと。日本のポピュラー曲をJ-POPというのと同じだね。

日本においては60年代に大衆へ広まったらしく、現在でも主にその年代のフランス音楽について言及されることが多いようである。*1

 

しかしながら、ニューロック以降のミュージシャンからは歌謡曲と同様に「時代遅れな曲」と評価され

若者から一時期軽視されていた歴史があった。

そんなシャンソンに再びスポットライトを当てたのは90年代初頭のラウンジミュージックブームであり、それに共鳴するように出てきた渋谷系であるネ。

渋谷系ボサノヴァやイタリアンポップスなど、ワールドミュージックの引用が多いことで知られるが

その中の一つとしてシャンソンももちろんオマージュされた。

特にフランス・ギャルについては頻繁に引用の標的にされており

例えば小山田圭吾カヒミカリィがファンであることを公言していたり、

カジヒデキのバンド・Bridgeがカバーしてたりする。

夢見るシャンソン人形

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フランス・ギャルを中心に現在でも広く聴かれているシャンソンだが、

聴き続けられる背景には渋谷系があったと言って過言ではない。

 

では、作曲ではなく、作詞の面での影響はどのようにみられるのだろうか。

実際どうであるか見てみよう。

 

まずはnegiccoの次の曲に注目。

www.youtube.com

この曲はPizzicato Fiveで知られる小西康陽の作詞曲。

実はこの曲、音楽に詳しい方ならすぐに分かるであろうが、元ネタがある。

それがこの曲。フランス・ギャル「アイドルばかり聞かないで」。

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この通り題名が全く一緒なうえ、曲調も似ているし

内容も「アイドルばかり聴いてないで 私に振り向いて」

言っていることまでほとんど同じである。negiccoの方は21世紀日本向け歌詞になっているけどね。

渋谷系はよく音楽面ばかり引用がとりあげられるけれど

この通り歌詞の面においても引用が多分にあるヨ。

 

実はフランスギャルにはこの曲に限らず自己言及・暗喩・メタ的な視点の歌詞が多い。

例えば有名な夢見るシャンソン人形も

下の動画を見ればわかるようにアイドルの悲哀の歌

www.youtube.com

フランスギャルの曲の作詞をしていたのはセルジュ・ゲンスブールという人で

皮肉や嫌味が大好きな人であり、こんな作詞を頻繁にするが、

それが渋谷系の歌詞に影響を強く与えている例がいくつかある。

 

夢見るシャンソン人形的な歌詞の小西氏流の解答の例としては「悲しい歌」

www.youtube.com

こっちは「作曲家の悲哀」という趣の詩。

フランスギャルでゲンスブールがやろうとしていたことを

まさに自分たちに置き換えようとしたもの。

そういう試みの曲は他にもいくつかあるが、その中でもとてもよくできた詞の一つだと思う。

 

小西氏以外の作詞だと、フリッパーズのGroove Tubeの詞もフランスギャルの詞に似たようなテーマのものがある。

www.youtube.com

全く曲調はシャンソンではないけどネ。これをシャンソンと言い張るにはよほどの勇気と権威が必要だし、あっても袋叩きに遭うに違いない。

 

この曲の歌詞にはアレな意味の暗喩が多いのは渋谷系を少し知っている人なら皆知っていると思う。*2

実は、こういう暗喩は「アニーとボンボン」というフランスギャルの曲にも使われているのだ。

www.youtube.com

これについてはここに書くにはなかなか酷すぎる要素が満載であるので

各自下のWikiで確認してほしい。

ja.wikipedia.org

この歌詞は「めっちゃ売れてるアイドルのかわいい女の子にこういう曲を歌わせたら面白い」というゲンスブール倫理観におさらばし発想によるものだが、

当時アイドル扱いされたフリッパーズのイメージに対する悪ふざけとして

オザケンはこの曲をオマージュした歌詞を書いたのだろう。

 

 

こんな感じで渋谷系は音楽的な見地以外にも

作詞術的な側面でかなりゲンスブールに影響されているという例が多々ある。

これも、よく言及されるように、多くの渋谷系アーティストが裕福な出自で

比較的若いころからフランスギャルに親しんでいたからであろう。

 

今現在でもメジャー・インディーズ問わず多くのアーティストたちが渋谷系からの影響を受けており

歌詞的な側面においてもそれは無視できないだろう。

シャンソンの作詞術は、21世紀の日本でも渋谷系フィルターを通った形で受け継がれているのだ。

 

 

 

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*1:日本においては越路吹雪美輪明宏なんかが代表的シャンソン歌手らしい。

*2:例えば「僕の特別なバナナ」

ⒸEPOCALC