Thru Traffic/東北新幹線【1982】
いくら良くてもプロモしないと...
この世の中にはディガーと呼ばれる人が存在する。
それすなわち、「レコードを掘る(=漁る)人たち」である。
NAMCOのDIGDUGを極めし者たちもそう言うのかもしれないけど、今は除外する。
なんでこんな人がいるかと言えば、売れているものだけが良いとは限らないという事実があるからである。
かの甲本ヒロト氏の名言に
「売れているものが良いものなの?
だったら一番おいしいものはカップラーメンになっちゃうよ。」
というものがあるが、まさにその通り。
この世の中にはまだ知られていない名盤がどうぶつの森のハニワのごとく、たくさん"埋まって"いるのだ。
"埋まる"盤のパターンは2つある。
一つは時代が早すぎたこと。
この好例がマニュエルゲッチングのE2-E4。
E2-E4 - 2016 - 35TH ANNIVERSARY EDITION
- アーティスト:MANUEL GOTTSCHING
- 出版社/メーカー: MG.ART
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: CD
これは1アルバムにわたって延々と同じシンセの音が続き、
たまにギターとかが入るというトンデモな内容。
当時の人はコレを「タンジェリン・ドリーム的なアンビエント」と解釈し
「そういうのもうはやんないから!」と一蹴したそうな。
しかし、実は時代遅れだったのは聴衆の方で
後々「発掘」したクラブのDJたちがこぞってコレをサンプリングしはじめ
今やハウスの始祖的な盤として崇め奉られている。
もう一つはちゃんと聴衆に届かなかったこと。
日本のアルバムではこれが多く、
Niagara Calendarなんかはよくプロモ不足が原因で売れなかったと言われる。
今回ご紹介する東北新幹線もその一つ。
プロモをよくしていなかったのでイマイチパッとしなかった人たちである。
東北新幹線は思いっきりはっぴいえんど史観に乗っかるグループなのだが
セールスが振るわなくても10年くらいで再発見されることが多いはっぴいえんど史観アーティストには珍しく
21世紀まで未発掘という経歴のユニットである。
Light Mellowでおなじみ金澤寿和氏による2004年の発掘で
今やシティポップ名盤選には必ず上がる作品になっている。
そしてオリジナル盤は今や数万するらしい。そう、こういうのにありがちの奴だ!
このユニットはギタリストの鳴海寛さんとキーボーディスト山川恵津子さんの二人組のユニットで
二人は元々八神純子のバックバンド・メルティングポットに所属されていたらしい。
が、その他には当時一切無名の二人組だったようだ。
しかし、この二人、かなりこだわってアルバムを作ったらしく
東北新幹線という名前は遅々として進まないレコーディングを
当時中々完成しなかった東北新幹線になぞらえたものらしい。
そして東北新幹線開通とほぼ同時に完成したというナイスタイミングなアルバムが
このThru Traffic。
これの一曲目・Summer Touches Youは凄まじい。
Summer Touches You - Thru Traffic (1982)
マ ジ で こ れ が 売 れ な か っ た の ?
このホーンが印象的なイントロがかかった時点でこれは名盤確定ですわ。
こちらは鳴海さんの作。非常に爽やかで涼し気なシティ・ポップ。
「東北新幹線」の名のごとく、涼しい夏の日の昼下がりが思い浮かびますナ。
鳴海さんはボサノヴァ好きらしく、
途中で挟まるソロでのアコギの使い方がボサノヴァっぽい。
実は僕の地元は東北なのだが、
帰省するときは一曲目に必ずこれをかけ、東北新幹線in東北新幹線をします。
ところで前から気になっているのだが、この歌詞に出てくるミルクスタンドってなに?
ガソリンの代わりにミルクが封入された狂気の建物?
二曲目もなかなか良い。
Narumin & Etsu (東北新幹線) - Up And Down
こっちは山川さんの作品。
曲名通り、結構アップテンポ。うまい具合にすればFuture Funk Remixが作れそう。
こういうアップテンポなものでホーンが印象的に使われているものって少し珍しい気がする。
この曲当時のポップスとしてはかなり前衛的で、
最後の方で一瞬曲が止まり、語りが入る。
これ、知らなかったらレコード壊れたかと思うだろう・・・
と思ったらちゃんと歌詞カードに注意書きがあった。そりゃあるよねー
このアルバム、この最初の二曲に代表されるように、
80年代ポップスであることが明確に分かるのに
他のどんな作品とも似ていない強烈なオリジナリティを纏った曲が集合している。
同年の佐藤博のawakeningっぽくもあるが、あれよりも憂いがある作風。
まあでも、当時の最先端アーティスト並の感性によって作られた盤であることは確か。
実際、山下達郎がコレを聴いて衝撃を受け
鳴海さんにツアーライブでのギターの依頼をしたという逸話がある。
結局日程が合わず、ツアーに参加できなかったらしいが、
後々JOYに収録されている山下達郎のライブで蒼氓のギターを弾くことになる。
蒼氓 The song that is most intrigued to my heart
これほどの盤が売れなかったのは、プロモ不足だったということに尽きる。
これがある程度売れていれば日本の音楽史は若干変わったかもしれない。
音楽に携わってる皆さん、プロモはしましょう。