生きることも爽やかに見えてくる
へーい、れでぃーすえんじぇんとるめん、おとっつぁんえんおかっつぁん。
ロンバケ40周年おめでとうございます。
そして大滝詠一サブスク解禁ですぞ。
ロンバケの大きな節目とだけあって、今年のナイアガラ・デー*1は流石に太っ腹である。
40周年盤もVOXで買っちゃいました。
僕の元にもウィンズデイが届いた。 pic.twitter.com/ym8m3EAAvt
— EPOCALC (@insomniaEPOCALC) March 20, 2021
ちなみにウィンズデイだが、40周年盤のレーベル記載の曲名が雨のウィンズデイになっているとのこと。
担当者が某競馬ゲームにハマったのか。大丈夫かナイアガラ。
昨晩ロンバケのCD、LP、VOXが届いた
— ∩Ο∪Ο!(ノウォ!) (@NOU9bakufu) March 19, 2021
VOXのLPのside-3(c)「雨のウェンズデイ」が「雨のウィンズデイ」になってた笑 pic.twitter.com/VPsJ9sgwuW
この友人はVOXとCD、LP全部買ったらしい。そしてナイアガラに金が集まっていく。
さて、ロンバケの発売日1981/3/21というのはナイアガラーであれば誰もが記憶していると思うが、
この日は細野晴臣にとってもかなり象徴的な日である。
実はYMOのアルバム・BGMの発売日もまた1981/3/21であり、
細野晴臣が今知られるようなアンビエント・前衛方面に駆け出す契機になった日でもあるのだ。
はっぴいえんどの二人の立ち位置を考えると、これはなかなか面白い日だと思う。
はっぴいえんどでの大滝詠一は「はいからはくち」のような、前衛・ニューロック志向の作品が多く、
どちらかと言えば細野晴臣こそが「風をあつめて」的な普遍的良曲・フォーク志向の作品が多い。
(「十二月の雨の日」のようなメロ系大滝作品、「敵タナトスを想起せよ!」のような前衛細野作品もあるが、どちらかと言えば、の話である。)
70年代の二人の関係もそんな感じで、細野晴臣が売れ線に近く、大滝詠一がアングラの王みたいな雰囲気だったらしい。*2
それが80年代にきて多くの人にとっての印象がぐるりと引っくり返ってしまうのだから、旧来のファンは驚いたに違いない。
実際ロンバケは旧いファンからの受けは悪かったらしい。そんな気もする。
とまあこのようにロンバケは上質ポップアルバムと捉えられ、今までJ-POP界の金字塔としてあがめられ、
邦楽名盤選企画をやれば、常に高位にいる押しも押されぬ名盤として知られる。
なのだが、実はロンバケの海外での評判は芳しくないらしい。
なんでも「自分の国でもそういうのはある」ということ。
多分そういう人はLarry Lee的な捉え方をしているのだと思う。
あとは、この前サンソンで流れたThe Jodellesとか。
Larry Lee - Number One Girl (1982)
Jodelles - My Boy 1983 (ARO302)
またこの記事はみんなで同時ロンバケレビュー企画の一つなのだが、
恐らく他の記事はその美しいポップさやウォール・オブ・サウンド、豊富な引用
あとは当時はやっていたと言われるオールディーズリヴァイバル等について書くのではないだろうか。
ちょっと話題が被るのは避けたいところ。
そこで、今回僕はある一つの説を提唱したい。
海外向けにいかのこのアルバムが非凡かの説明にも使える、
しかも他人との被りも全くないと思われるが、反論が多そうで黙ってた論、
やめて、石を投げないで!このブログにDoS攻撃しないで!
僕が突拍子もないことを言ってやがると皆が思っているのは分かっている。
しかし、初めてFantasmaを聴いたときの僕の感想は「ロンバケじゃん!」であり、
僕にはどうもそうとしか思えないのである。
大滝詠一「君は天然色」Music Video (40th Anniversary Version)
PVではカットされてしまっているが、最初の深いエコーのかかったチューニングがアルバムにとっては非常に大事。
これによりステレオとリヴァーヴの組み合わせをアルバムで聴かせるぞ、という宣言がなされている。
つまり、このチューニングはこれから宅録とバイノーラル録音をアルバムで聴かせるぞという宣言をする
FantasmaにおけるMic Checkと全く同じ役割を担っていることが分かる。
その後に続く君は天然色そのものもなかなか変態的な曲である。
なにせ四拍子なのにバックが三連符によって三の倍数拍子を刻み続けるのだ。
そしてころころ調が変わっている。なのにそう思わせないテクニック。
また、かなり面白いのは♪別れの気配を♪のところの効果音。
ビブラスラップと一緒に野球中継の歓声が入っているだけでもなかなか前衛だが、
それの定位を右へ左へと目まぐるしく変化させている。
定位が左右にガンガン振れていく曲というのは当時としてはプログレかクイーンぐらいであったと思うのだが、
こういう爽やかソングと合わせることによって、その前衛性をうまく中和させている。
またイントロだけでもマニアによれば3,4曲の引用があると言われるほどの凝った趣味性。
変なリズム、動き回る定位、奇天烈なサンプリング、趣味性の強い引用、でも爽やかな歌もの、
これは全くFantasmaに入っている曲と同じに思えてしまうのは僕だけだろうか。
なにもこの特徴は君は天然色だけではない。
Velvet Motelではあの有名な男女歌い分けが入っている。
歌詞の一音節ずつ左右の定位に割るのは今でもあまりに斬新である。
それだけではなく、このチャッチャッチャッチャというラテン風リズムの扱いもすさまじく、
要所要所で途切れさせたり滑らかにさせたりと自由自在に扱ってしまう。
実はA面で一番普通な曲は、人気のカナリア諸島にてだったりする。
これはA面にあまりに前衛的な作品が多いため、箸休め的な意味合いがあるのだろう。
とは言えど、メロを聴かせる曲でも名曲であるので大滝詠一の単純なポテンシャルの高さがうかがえる。コーラスが対位法的でカッコイイ。
ちなみにFantasmaがロンバケと決定的に違うのはこういう箸休め曲であり、
箸休めにも実験を盛り込んでしまった点がエポックメイキングだったのだと思っている。
で次のPap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語でノヴェルティと称したこのアルバム最高の実験音楽が鳴る。
松武氏をシンセサイザーに使い、YMOでも鳴らさないような妙な効果音が飛び交う。
またギターがオクターブ上下をしながら短いフレーズを繰り返すが、
これもどう考えたのか謎すぎるものである。鈴木茂か誰かが作ったか引用かな。
なんて思っていたらハニカムズの引用で指定のフレーズらしい。
鈴木茂君が弾いてくれてるギター・フレーズはお任せじゃなくて僕が指定したものなのです。ハニカムズでおなじみの高音ギターってことで軽く口三味線したらすぐにあのイントロのフレーズを出してくれました。(2011)*64 https://t.co/QWZvytQqnu
— 大滝詠一B-O-T (@each_bot) March 14, 2021
特筆すべきはシンセサイザーで歌パートを作ってしまったところ。
曲名になっているPap-Pi-Doo-Bi-Doo-Baの箇所がそうである。歌詞カードにも載っている。
松武氏と一緒にかなり苦労して作った逸話が今でもよく語られる。
コンピュータで...とか歌声風に...とかならそれ以前にも(少数だが)あるのだが、
シンセサイザーに歌詞を歌わせたのはこれが史上初な気がする。
勿論、定位の奔放な使いかたはこの曲にも存分に使われており、
シンセが左右に飛び交い、両耳で大滝詠一が同時に歌う。
A面最後のわが心のピンボールは不思議な曲である。
王道ロック風であり、このアルバムに合わないかと思いきや奇跡的なバランスでマッチしている。
この曲には今まで紹介したようなギミックは仕込まれていないのだが、
このアルバムの中にこの曲を放りこむこと自体が実験として成立してしまっているのでそれで良いのかもしれない。
For Youの中でHey!Reporterが完全に浮いてしまっているのとは対照的である。
Tatsuro Yamashita - Hey Reporter!
さて、ここまでA面を見てきたがとんでもなく前衛だということが分かったと思う。
ポップさに隠れてしまっているのだが、YMO「BGM」並かそれ以上の前衛性が隠されている録音技法である。
よくこれを百万枚売りましたね…
さてB面である。こちらは歌謡的でサウンド面の前衛は抑え目であるサイド。
しかし、こちらではこういう説を唱えたい。
やめて、家に火をつけないで!このブログにウイルス仕掛けないで!
うん、こっちはやや強引かもしれない。
つまるところ歌詞や歌い方の斬新さ、そしてメロに注目するのがB面である。故に海外の人には分かりにくいかもしれない面。
アレンジャー大滝ではなくシンガー大滝、そしてもう一人の主要人物・松本隆の登場である。
B面頭はそんなB面を象徴するかのような雨のウェンズデイ。
水曜日に雨が降って喜んでいる奴は全員ナイアガラーである。*3
ここで大滝詠一十八番の意味を破綻させた歌い回しが楽しめる。
例えば、歌いだしは
壊れかけたワーゲンの
なのだが、一体どれほど多くの人が和弦だと思ってきたことだろうか。
また♪静かすぎるから♪の「ら」の音はほとんど発音していないに等しい。
さらにその直後の歌い方も変で
海が見たいわて言い
出したのはきみの方さ
という感じ。
わってがわてに変化、そして「言い出して」がぶつ切りされている。
どれもこれも一人カラオケで歌ってみれば分かると思う。
そう歌うとバックにピッタリと合い、松本隆の歌詞のリズム感が最大限発揮されるのだ。
はっぴいえんど時代からの交流がなす、みごとな連携プレーである。
スピーチバルーンは大滝詠一のラジオ番組の題にもなった。
こちらの節回しはわりと普通なのだが、歌詞が面白い。
細い影は人文字
海の背中に伸びている
君は春の客船
冬の港 見てるだけ
スピーチバルーン-大滝詠一
こうやってみるとえらくシュールな歌詞である。
それでも歌になってしまうとパッと情景が浮かんでしまうから凄い。
この意味が分かるか分からないかギリギリを攻めた詞は正しく歌わないと伝わらないと考えたのだろう。
松本隆、そしてシンガー大滝の本領発揮である。
そして大人気・世にも珍しい片思いフラれソングこと恋するカレン。
こっちはなかなか歌詞が変質者的なので壮大なアレンジで聴かせようとしたに違いない。
コーラス隊やストリングスで、「ちょっとした楽団」のような空気になっている。
このアルバムにおいての一番のウォール・オブ・サウンド曲。
そして、FUN×4でこのアルバムは実はおわり。
またA面っぽい前衛的作風に戻ってきた。
歌詞とリンクした効果音や女性のセリフは女性に歌わせる、そして様々な曲の露骨な引用など、遊び心満載。
歌詞も今までとうって変わって明るい内容。
ここまで失恋の歌ばっかりやってきたので幸せに「はっぴいえんど」で終わらせよう、という意味があるらしい。
曲中流れていた手拍子が最後でアンコールの拍手に変わるのも面白い演出。
そしてアンコールで呼び出されるのがさらばシベリア鉄道である。
この曲についてマイナスなイメージを持っている人もいるかもしれないが、
曲単体で楽しむのではなく、アルバムの構造上必要な曲。
こういうアルバムの構造を使ったギミックこそがこのアルバムの真骨頂である。
さてこのアルバムなのだが豊富に、そして分かりにくく隠されたギミック、
明るい曲調に似合わない鬱々とした歌詞など、
僕は日本版Pet Soundsのようにも感じている。
丁度Fantasmaが日本版Smileと言われているように。
そう、この二つをつなぐものは他でもないBeach Boysである。
それぞれのBeach Boysを目指して作成されたであろうこのアルバムたちは、根底において同質であるのだ。
海外に目を向けてやると、多くの国において、多かれ少なかれビートルズやそれに影響を受けたバンド群に強い影響を受けた名盤が多くみられる。
しかし日本の名盤はどれもこれも多くの根底にあるのがBeach Boysなのである。
このことが邦楽が他国の音楽とは一線を画す要因になっているのではないだろうか。
シティポップに代表される、爽やかなのに前衛的で意欲的な作品群。
まるでビートルズではなく、Beach Boysが軽音楽界を席巻した世界線の音楽のように海外では聴こえているのかもしれない。
我々は平行世界の音楽ファンなのである。