Hea Hoa/Feeling B【1989】
〈〈党認可済〉〉
旧共産圏のテクノ音楽が音楽通の間でここ数年流行っている。
Vaporwaveに引っ掛けているんだか分からないが、Sovietwaveと称され、その名で検索してみればいくつも引っかかるほどの人気っぷり。
共産圏では「科学の勝利」をテーマにしている節があるので、案外電子音楽と相性が良かったのかもしれない。
しかしながら、基本的に共産圏では急進的な音楽は固く禁止されており、一応(Sovietwaveのような)ロック的なものは演奏することはできた*1のだが欧米のロック、特にパンクを聴いたらしょっぴかれたらしい。
パンクは「民主主義の欠陥」であるとされたのだ。
それ故共産主義では自然発生しないとされ、パンクをやる人は民主主義世界から悪を持ち込んだ人物として秘密警察に目を付けられたらしい。恐ろしい話である。
といっても、どこにでも抜け穴はあるもの。実は東独では非合法ながらも教会でロックが鳴らされていたらしい。
ドイツでは教会の権力が強く、たとえソビエトでも宗教を一掃できなかったそう。そこで教会が「礼拝」と称し、エリック・クラプトンとかディランとかを演奏させていたそうな。どう考えても礼拝ですね。
そんな中、ファクトリーレーベル*2の連中が無謀にも東独で教会ライブを企画、なんと警察にしょっぴかれずに演奏しきったところから東独パンクが活性化していく。
そんな東独パンク勢中でも屈指の人気を誇っていたのがFeeling Bである。
設立は結構早く1983年。ただ、初期は古くから伝わっているフォークソングをやっていたらしい。それだったらイイヨと党の演奏許可ももちろん下りるわけだが、だんだんパンク化。
迫害されながらも基準ギリギリのところを綱渡りし、演奏許可を更新し続けた*3というから凄い。
そして段々と政府も対応を軟化していき、彼らに東独初めてのパンクアルバムを作ることを許可する。
それがこのHea Hoa。ちなみに正式名称はHea Hoa Hoa Hoa Hea Hoa Hea。長い。
一曲目の始まり方はパンクというよりちょっとプログレっぽい。
もともとフォークソングをやっていたというだけあって、メロがちょっと民謡っぽくて非常にポップ。
またこのアルバムに特徴的なのが途中でサイケな管楽器が挟まるところ。パンクなのに。
彼らは(違法で)様々な海外の音楽を聴いていたというから、パンクをベースに色々取り込んで政府をぎゃふんと言わせたかったのかもしれない。歌詞もやや含みを持たせていながらも政府批判が入っている。大丈夫なのか。
僕らは常に良い人でありたいんだ
それがあいつらが僕らを好きになる唯一の方法なんだから
誰もが一人で生きていて、
夜になると星が降る
Artig-Feeling B
このアルバムで一番人気なのはMix Mir Einen Drink。飲み物一つちょうだい!
Feeling B - Mix mir einen Drink
フォークソングっぽい始まり方だなーとか思っていると、一気にパンク化するので注意。 その後またサイケポップみたいになったり忙しい。
そして繰り返されるフレーズ。このMix Mir Einen Drink♪が滅茶滅茶耳にこびりつく。
今日これを歌いながら銭湯行ってラーメン食べて帰ってきたのだけれどまだ蝸牛に居座っている。よいメロは海を越えるね。
またこの手のバンドに珍しくキーボードがいるので、一部の曲はニューウェーブっぽい空気感も感じられて素敵。
Feeling B - Du wirst den Gipfel nie erreichen (Lyrics)
普通にSovietwaveと一緒に紹介しても全然遜色ないニューウェーブ風パンク。
8ビットゲーム機みたいな音のキーボードがかわいい。
他にろくな鍵盤がなかったので使っているに違いのだが、そのチープさがかえってこの曲の魅力をより際立たせている気がする。
さて、こんな曲を許可したということはそれだけ政府の力が弱くなっていたということ。翌年ベルリンの壁が崩壊、東西ドイツが統一するが、統一後西の人たちからも彼らは注目されドイツの音楽ファン間で有名な存在になる。
この後3rdまで出して解散してしまうが、メンバーも参加する後継プロジェクト・ラムシュタインにそのノリが受け継がれる。
Rammstein - Feuer Frei! (Official Video)
こっちは知っているよ!という方は多そう。彼らはメタルだが、実は東独のパンクバンドのメンバーによって作られたバンドなのである。
ちなみにベルリンの壁崩壊にも彼らをはじめとしたパンクバンドが一役買っていると言われる。ドイツでは歴史上音楽が「実利」として存在する瞬間が度々あったと僕は思っているが、その中でも最も功績のあるものは東独パンク...なのかもしれない。
01-Hea hoa hea hoa hea hoa hea - Feeling B (Full Album)
*1:ただし楽器の所持や演奏には党の許可が必要だったし、欧米のロックは聴けない
*2:ジョイ・ディヴィジョンのレーベル
*3:なんでも自分でコンサートが開催できるほど自由にやっていいという許可を得たらしい。