ようこそ、未来へ。
ついに登場。日本のヤバい名盤の一つがやってまいりました。
これは良い形容が思いつかないし、
後にも先にも似たようなものが存在しないので
なんと紹介すりゃ良いか困りもの。
海外ではBECKとかブライアン・ウィルソンとか言っているけど
系統的に似てるだけで全く別物。
極端に言えば、アリクイとセンザンコウを「形似てるし哺乳類だから一緒」と言っているレベル。
ジャンル分けも非常に厄介で
パンクかもしれないし、シティポップかもしれないし
メタルかもしれないし、ギターポップかもしれない。
なので大体のサイトはそれを内包しうるジャンル
に分けているヨ。
というわけで「渋谷系って何?」という方のために
渋谷系とともに歩んだ男・Corneliusこと小山田圭吾がいかにしてこの異形を作ったか見てみよう。
まず当時レコード屋でLPを漁りまくっていた音楽オタクの小山田圭吾は
後々J-POP界の王子様となる、当時LPを漁りまくっていた小沢健二やその他LPを漁りまくっていた友人とともに
「フリッパーズ・ギター」というネオアコバンドを結成する。
もっとも、2ndのころにはもう小山田圭吾と小沢健二しか残っていなかったけれど。
シャレオツ。
しかし、彼らにインタビューしてみるとシャレオツな曲とはまるで真逆の人を食ったような発言を連発。
発言例)
・(授賞式にて)
和田アキ子「この受賞の喜びを誰に伝えたいですか?」
小山田「田舎のお母さんです」
和田アキ子「田舎ってどこなんですか?」
小山田「東京です」
・小沢「よくいるでしょう?日本の若いミュージシャンの中に、自分たちの音楽は前例のない全くのオリジナルって言うやつが。ああいう発言って信じられない」
その他B'z、ユニコーン、たま、さらには当時まだ新人だったスピッツ等々に挑発するようなことを言って周囲をひやひやさせた。
そんな当時のフリッパーズギターがこちら。
イケメン無罪。
フリッパーズギターはその後3rdアルバムで解散する。
こちらがその先行シングル曲。
この通り露骨なサンプリングの嵐であり、
そのほとんどが無許可。そしてシャレオツは星の彼方へ消えた。
この曲名通りだネ。
3rdアルバム「ヘッド博士の世界塔」では全編にわたってこの作風の曲が連なっているためにサンプリング元の権利関係で再発やサブスクができず
ある意味失われた名盤的になっている。
まあ普通に中古屋に980円で転がっているけど。
また、小山田圭吾の本性が出始めたアルバムでもある。
この後、フリッパーズの二人は各々ソロをやり始めることになる。
このころに「渋谷系」の定義が固まってきた。
すなわち
「音楽オタクでサンプリングや引用めっちゃしまくる人たち」
である。ヘッド博士はそれを体現したアルバムであったとも言えるネ。
フリッパーズのソロ活動について。
小沢健二はご存じの通り、LIFEでバカ売れした。
お、べいび、らぶりらぶり、こんなすてきなでぇ~♪
一方そのころ小山田圭吾は
猿の惑星のキャラからとった
Corneliusという名前のソロプロジェクトを立ち上げたり、
後々「渋谷系の総本山」とも言われることになる
Trattoriaレーベルを設立していたりしていた。
そんな中Corneliusとして出したファーストアルバムがこちら。
ふ、普通~
ヘッド博士で見せたサンプリング芸はどこかに消え、
良くも悪くも普通のポップスを作っていた。
これについては小沢健二も不満だったらしく
「フリッパーズの歌詞とピチカートファイブの曲を合わせただけ」
と何とも辛辣なコメントを残している。
この発言に加えて、一足先にLIFEでオザケンが売れたのに触発されたか、
2ndで露骨なサンプリング芸が復帰。しかしやっぱり再発ができないからiTunes貼れない
「MOON WALK」でMステ出演時
— モリ ◆M0ri/Sh1🍦🌈 (@fusaji_low) December 1, 2018
番組司会者タモリさんの「タモリ3 」のレコードを掲げるCornelius(小山田圭吾)
(戦後の歌謡曲を大胆にタモさんがパロった発禁レコード。未CD化。)
自身のアルバム「69/96」のアナログ盤も。(LP盤のジャケはデビルマン)
GOODENOUGHの1stスタジャンかっけー。 pic.twitter.com/KMmnQsQc3J
そういうときに役立つTwitter。
内容はなぜかヘビメタ中心なのだが、そこまでギター音が歪んでいないので聴きやすい。
さらに、アルバムの中にギターポップあり、R&Bあり、クラシックありと
Fantasmaを予感させるごった煮感。
このあと色々Trattoriaで企画をした後、出した3rdアルバムこそ今回扱うFantasmaである。
ここまで前置きでした。
ではとっととアルバム紹介に行きましょう。
ちなみにこのアルバムの曲名は大体アーティスト名や既存の曲名からとられています。
色々調べてみよう!
まず最初は”Mic Check”からスタート。
最初はバイノーラルマイクを使ったASMR的なのから始まり
「あ、あ、まいくちぇーっく」という声が左右振れながらだんだんと曲へと変化していく。
ここで大体の人が思うはず。
「あ、これはヤバい音楽だ」
その予感大当たりでございます。
今ふと思ったけれど、もしかするとこれはYMOのファーストの冒頭を意識しているのかもしれませんネ。
Cornelius - "Mic Check" & "The Micro Disneycal World Tour"
このアルバムでは全曲シームレスにつながる。CD全盛期ならでは。
マイクチェックから間髪入れずに、いくつかの映画音楽のサントラをつなぎ合わせたような、不思議な手触りなこの曲へと移行する。
まあぶっちゃけこのアルバム全体的に不思議な手触りなんですが
この曲についてはまさにいろんなエリアに分かれているディズニーランド的な音楽ですネ。
ちなみに、もろに「ディズニーワールド」と曲名に使いたかったらしいけれど
ストップがかかったらしい。どこまで厳しいのか夢の国。
cornelius New Music Machine @ Live in Japan
そしてここで初めて激しい曲をぶち込む。これは名曲。
ただのパンキッシュな曲、というわけではなくサンプラーで妙な切り方をしたりビーチボーイズっぽいコーラスが入っていたり、普通にメロが良かったりetcetc...
こんなに良い点挙げるのが忙しい曲は他に知らないぜぇ!
音楽ファンの中には2001年に生まれたからNew Music Machineを自称する方々が結構いるが
彼らになら2010年にぶっ壊れてろよ、というのは禁句。
Corneliusの中でも人気曲の一つで、パスピエもカバーしていた。
そして今紹介したアルバム冒頭三曲の流れが白眉。
オレンジ味のファンタ片手にお台場あたりで聴きたい感じの近未来感がたまらない。
Cornelius - "Star Fruits Surf Rider"
その三曲の後から選ぶならこれが名曲でしょう。
このアルバムの中でシティポップ的な部分を代表する曲です。
個人的には、なぜか地元のテレビ局でイントロの口笛がお天気コーナーのジングルに使われていたので大変なじみ深い曲です。
シティポップも頑張ればドラムンベースになるんですね。
あと、これのシングルって”Star Fruits”と”Surf Rider”とで二枚一組になっていて同時に流して初めて一曲に成立するようになっているのだけれど
中古屋で見かけるのはほぼStar Fruitsだけなんだよね。なぜそこが偏る?
CORNELIUS - “Chapter 8: Seashore and Horizon” 3/17/18
Star Fruits Surf Riderの後のこの曲も良い曲。
Neutral Milk Hotelのレビューでも出てきたThe Apples In Stereoがこの曲で協力してくれています。なるほど、だから素敵なギターポップ・・・
・・・かと思うと突然謎の \カチ/ の音ともに別の曲に切り替わる。なんじゃこりゃ。
こんな感じでこのアルバム、普通の曲が一曲もありません。
全部異常です。SCP財団に送りたいくらいです。Object Class:Euclidです。
Cornelius PV Thank You For The Music
最後は総括し、リスナーに感謝。礼儀正しいですね。
しれっとスマイリースマイルと言っているのは高ポイント。
最後にビーチボーイズの未発表アルバムSmileの一曲目であるOur Prayerのパロディ曲をやるので、
現代版Smileと呼ばれることもございますな。
このアルバム、発表するや否や海外からの発売のお呼びがかかり、
Corneliusが世界に認められる足掛かりとなったそうな。
そしてそのCorneliusがはっぴいえんどを紹介し、細野晴臣が周知され・・・
という流れ。このアルバムがなかったら現在のように日本の音楽が海外である程度幅を利かせる時代は来なかったかもしれない。
その意味でも、このアルバムは大切な”邦楽”アルバムなのだ。
何より、これ全然古びてないですよね。何なら今週の新譜としても違和感ない、むしろ一歩先を行っている。
このアルバムに描かれた2001年や2010年はきっと絶対来ない未来のことですよね。
そんな永遠の夢の未来に行けるアルバムなのかもしれません。