EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

大滝詠一はいかにして『電波化』したか

元祖電波シンガー、大滝詠一さんです!

 

「電波と光」のことが一冊でまるごとわかる
 

 

先日、君は天然色の記事を書いた。

 

epocalcgarage.hatenablog.com

 

これはアニメ「かくしごと」で使われると聞いた際、

アニメファン向けに布教しようと思って書いた記事で、

僕の貧弱なアニメ知識を最大限に生かして書いたものだ。

 

目論見通りアニメファン間でそこそこ拡散されており、

こう想像通りに事が運ぶとニヤニヤしてしまう。

 

その中でも、ちょっとびっくりしたのがかの電波ソングbot氏が取り上げてくださったことである。

ブログ記事にもまとめてくれている。

 

前から大好きな海月ねう氏などと一緒に僕が紹介されていて笑ってしまう。

ありがたいかぎりである。

あと、個人的に電波通信ときくと某コンピアルバムを思い出す。

diskunion.net

 

 

ということで、君は天然色の記事では軽く触れたくらいだったが、今回は

いかにして大滝詠一的価値観が電波ソングに入り込んでいるか

を詳しく見ていきたいと思う。

こんなタイトルだけれど、僕の現時点での日本サブカルポピュラー音楽史観のまとめ記事でもあるよん。

例の如く音楽特に知らない人も読めるくらいの記事になってます。

 

ノヴェルティソング

 

さて、大滝詠一は一般に広く知られている曲として、

君は天然色幸せな結末、提供曲だと風立ちぬ夢で逢えたらなどが挙げられよう。


大滝詠一 夢で逢えたら

 

これらの曲は自身が「メロディタイプ」と呼んでいた楽曲群である。

すなわち歌に比重を置いた作品であり、

この手の音楽は山下達郎なんかに同時代的影響を与えることになる。


Sugar Babe - Down Town

というかナイアガラレーベルを設立したときに、

山下達郎にメロディタイプを発表してもらい

自分はもう一つのタイプ、「ノヴェルティタイプ」の曲を作る予定だったらしい。

 

 

このノヴェルティタイプこそ今回のキーワードである。

ノヴェルティタイプとは、歌よりもアレンジ面に重きを置いたもの

所謂コミックソングの類である。

大滝はアレンジ重視のコミックソングを好んで作曲しており、

 特に70年代のほとんどの曲がそれに該当する。

ハンド・クラッピング・ルンバ

ハンド・クラッピング・ルンバ

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 さてさてここで電波ソングの定義を調べると、Wiki先生曰く

「過度に誇張された声色」

「意味不明、支離滅裂だが印象的な歌詞」

「一般常識からの乖離」

「奇異ではあるが耳に残る効果音や合いの手、掛け声」

「一度聞いたらなかなか頭から離れない」

 

ここでもう一度上の曲を聴いてほしい。

無理して絞り出したような歌声、言葉遊びによるシュールな歌詞、アフロビートを取り入れた妙なリズムなど、

このほとんどの要素が既にノヴェルティソングに見て取れるのだ。

別にこの曲ではなくても、Niagara MoonやLet's Ondo Againから引っ張ってくれば

いくらでもこのような曲が発掘できる。

 

 

このようなノヴェルティのルーツはオールディーズソングに求められる。


MR. BASS MAN ~ Johnny Cymbal (1963)

上に挙げたMr.Bass Man大滝詠一所有のジュークボックスに収められていたと言われる曲。

ジョニー・シンバルというロック歌手の曲だが、

彼が若者役になり、また"Mr.Bass Man"という役を演じるロニー・ブライトと会話するように進む歌は

現在のキャラソンに通じる部分もあるかもしれないね。

 

 

 

さて、電波ソングを語る上で外せないのがYMOの「君に、胸キュン。である。


君に胸キュン

 

これはニコニコ大百科でも電波ソングの祖のように記述されており、

度々現在のアニメシーンでも取り上げられる曲である。

 


【ED】 まりあ†ほりっく エンディング 君に、胸キュン。

 

先日も、先述した海月ねう氏(現・をとは氏)が参加したカバーが作られていて

個人的にオオッとなったばかりである。

 


【 cover 】君に、胸キュン。- YMO / をとは × somunia × ヨシナ

 

さてさてこの曲はYMOテクノ歌謡曲期を代表する曲だが

大滝詠一に近い人物*1コミックソングに近しいことを一線でしたという点において

ナイアガラ―的に非常に重要である。

なぜならば彼らの中には共通理解として

大滝はコミックソング好き」というのはよく知られており、

一線でコミックソングを作るときに彼を意識しないわけないからである。

 

事実この曲の作詞は大滝とのペアで活躍していた松本隆であったり

大滝詠一のよく作った音頭のごとく、祭囃子のリズムが全体に取り入れられたりと

丁寧にひも解くと大滝詠一を意識したと思わしき箇所が数多く存在する。

また、そもそもこの曲で取り上げられているリゾート志向というのも

山下達郎大滝詠一をはじめとした大滝人脈から始まっていったものである。

 

 

逆に大滝詠一はどうなのよ、というとメロディタイプ曲に紛れてニューウェーブめいたノヴェルティも残す。

ROCK'N' ROLL 退屈男

ROCK'N' ROLL 退屈男

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 無意味さや不思議な合いの手などの電波的な要素がさらに洗練され、

女性歌手に歌わせれば完全に電波ソングになる曲である。

 

また名盤A LONG VACATIONもメロディ一辺倒ではなく、

特にA面においてメロディタイプでありつつもノヴェルティの技法を使うという試みをしており、

そこらへんは後述する渋谷系への影響も強いだろう。

 


TVアニメ『かくしごと』ノンテロップED映像

例えば「君は天然色」であればポリリズムを大々的に用いていたり、

当時としてはプログレニューウェーブなんかの専売特許であっただろう

楽器の定位の移動をシレっとやっている。

 

 

つまるところ、80年代はメロディタイプ楽曲が注目されたのはもちろんのこと、

ナイアガラ流ノヴェルティも無意識的に周知されていったことになる。

 

 

ポスト大滝;渋谷系のノヴェルティ化

 

次に、渋谷系を考えてみよう。

渋谷系はどのシーンから出てきたかを考えると、実は細野周辺だったりする。

惑星

惑星

  • provided courtesy of iTunes

 Pizzicato Five渋谷系の祖なんて言われるが、

細野晴臣Non Standardレーベル出身。

後々渋谷系扱いされるsalon musicなんかも

ポストYMOと称されるテクノ御三家と一緒に出てきた人だ。

しかし音楽性は細野晴臣よりも山下達郎大滝詠一に近い。

 

渋谷系の大きな特徴として挙げられるのが「引用」である。

要は古い曲を下敷きにして新しい曲を作るというわけ。

例えば上の「惑星」という曲は少し詳しい人ならマーヴィン・ゲイのWhat's Going Onが元ネタだというのにすぐに気づくだろう。

What's Going On

What's Going On

  • provided courtesy of iTunes

 細野晴臣等のYMO人脈はここまで徹底的に引用をやらないし、

P-MODEL等のテクノ御三家は初期こそ洋楽のパロディが多かれど、

基本的にオリジナルの世界観を構築するのがモットーだ。

そんな中Pizzicato Fiveは頻繁に引用したので

仏作って魂入れず」という揶揄をされた、なんて話もある。

しかしこれは同様に引用を頻繁にしたナイアガラに倣ったもの

大滝詠一の引用例を見てみよう。次の二曲を聴き比べてみてほしい。


大瀧 詠一 空飛ぶくじら


The Beatles (Paul McCartney) - Your Mother Should Know (Music Video)

 

この二曲もまた似ていると感じるはず。

これが渋谷系がナイアガラ的と評される所以である。

 

その後出てきたもう一つのパイオニアFlipper’s Guitarも同様の揶揄を受ける。

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

Young, Alive, in Love / 恋とマシンガン (Remastered 2006)

  • FLIPPER'S GUITAR
  • J-Pop
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 彼らもまたそのまま引用しまくるのである。

上の曲のイントロと下の曲の35秒くらいからと比べてほしい。

www.youtube.com

 

まんまである。やはりこれも揶揄の対象となった。

 

 

この「引用しまくる」という無個性な渋谷系がオリジナリティを獲得したのは

ヒップホップを取り入れサンプリングを大々的に用い始めてからだと言われる。

 

Groove Tube -グルーヴ・チューブ-

Groove Tube -グルーヴ・チューブ-

  • FLIPPER'S GUITAR
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 このように当時最先端の洋楽をサンプリングしまくり、もはや別物の異形へと昇華してしまったのだ。

ここに大滝のさらにその先が見えてきた。

 

 

Flipper’s Guitar小山田圭吾ことコーネリアスの主宰したtrattoriaレーベルを見るとその進化の過程が良く分かる。

初期から中期にかけては引用が見られる、明るい歌ものポップスと言った風の曲が多い。

 

最近復活している小沢健二もそういう感じである。

ラブリー

ラブリー

  • provided courtesy of iTunes

 

 

しかし、コーネリアスFantasmaを発表した後になると

渋谷系前衛的、先鋭的な性格が強くなり、

一般的な歌ものとは呼べない曲が多くなってくる。

また引用に関しても前衛音楽など、以前よりも増してマニアックなものが増えた。

NEW MUSIC MACHINE

NEW MUSIC MACHINE

  • provided courtesy of iTunes

また、ブレイクビーツ、Future Bass等々の技法も大々的に取り入れ始めた。

同時期の電子音楽技法を好んで用いるのは細野的であり、

ここに大滝細野の再融合の試みが見て取れる。

 

まあ、つまるところ主に歌メロ型ポップスであった渋谷系

アレンジ面に重きを置き、一見珍妙な曲を作りはじめたのだ。

これを大滝詠一流に言えば

メロディタイプからノヴェルティタイプへと移行した

と言い表せられるだろう。

再びトップミュージシャンがノヴェルティソングを作り始めた瞬間である。

そしてこれが昨今の電波ソングの雛形である。

 

実は渋谷系の影響は海外にも波及しており、

多くの海外のクラブで頻繁に紹介され、

また漫画やアニメと一緒に受容されたと言われる。

先ほど紹介させていただいた電波ソングbot氏の記事で

ネコミミモードって海外の制作者の曲だけど渋谷系?」

と指摘されていたが、

実は作曲者のディミトリ氏は非常に渋谷系との相互影響が強く、

いわゆるカーディガンズのように国内で渋谷系リスナーに受容され、

本人も渋谷系アーティストを意識している。

また、彼の影響によりフレンチテクノはその後も後期渋谷系の影響下にあるとも言われ、

Daft Punkにその類似性を指摘する声もある。

Digital Love

Digital Love

  • provided courtesy of iTunes

 

 

ちなみに現在流行中のシティポップだが、

あれはFuture FunkというVaporwaveとフレンチテクノの合いの子が頻繁にサンプリングしたことに端を発し、

さらにさらにVaporwaveも後期渋谷系の影響があると言われる。

すなわち、元を遡りまくれば大滝詠一がいなければ今のシティポップブームはまずない

 

 

そして後期渋谷系関連で象徴的なのが次の動画。


Different Colors - FPM×村上隆

 後期渋谷系の中心人物・FPMと現代美術家村上隆のコラボ動画である。

村上隆と言えばいわゆるアニメ絵を「スーパーフラット」という芸術に昇華したことで知られるが、

逆に小難しい前衛音楽が後期渋谷系を通じてアニメに利用されるという

真逆の流れがちょうど重なっている時の作品、という感じだ。

 

 

渋谷系からアキシブ系へ、その電波ソング

さて秋葉系と結びついた渋谷系、いわゆる「アキシブ系」だが、

これを語る上で外せないと思うのがみんな大好き塊魂である。

みんな大好き塊魂

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  • 発売日: 2005/07/07
  • メディア: Video Game
 

 このゲームサントラ、実は渋谷系ネオ渋谷系のメンツで統一されており、

カヒミカリィや野宮真紀、キリンジなんかがいる。

非常にオタク的な「ゲーム」という存在に全く別角度のサブカル渋谷系」で殴り込んだ良作だ。

 

この前後から渋谷系やそれに影響を受けたアーティストがアイドルやアニメに提供を始めた。

やはりその先駆けはネコミミモードらしい。


Neko Mimi Mode Full Version

さて、電波ソングの定義を見返そう。

「過度に誇張された声色」

「意味不明、支離滅裂だが印象的な歌詞」

「一般常識からの乖離」

「奇異ではあるが耳に残る効果音や合いの手、掛け声」

「一度聞いたらなかなか頭から離れない」

ノヴェルティソングは元がコミックソングなので、

これらの要素が多分に含まれていることはすでにみた通り。

ただいままで「歌声」の部分は大滝詠一のだみ声だったり嶺川貴子のウィスパーボイスであったりしたのだが

それが「アニメ声」になったアキシブ系では萌えソングの要素が加わり

その電波化にさらに拍車がかかったようだ。

 

こうして電波ソング的アニソンが完成したように思う。

もちろん、この前にも宍戸留美などの電波ソング的な歌手はいたのだが

「技法」として再現性が高いレベルまで持ってくるには

渋谷系と秋葉系の融合が不可欠だったように感じる。

 

この手の音楽は同様の性格を持つボカロ楽曲にももちろん転用される。 

ボカロにままある引用の手法は確実に渋谷系由来であろう。

また、前衛的な手法を用いているボカロ楽曲は

リスナーに取っつきやすくするためかノヴェルティの性格を持っていることが多い。

逃避ケア (feat. 灯油)

逃避ケア (feat. 灯油)

  • lumo
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 

ちなみにアキシブ系の方も元は大滝詠一であることをよく理解しているらしく

例えばAKB48の「11月のアンクレット」は幸せな結末とほとんど同じイントロだったりする。

www.youtube.com

 

 

 

 

ノヴェルティソングは彼の音楽人生中でもイロモノとして捉えられることが多いが、

電波ソング」として今でもエッセンスが受け継がれているのである。

 

 

 

 

 

 

Neko Mimi Mode

Neko Mimi Mode

  • 発売日: 2017/01/16
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

追記

この記事に関して、電波ソングbot氏から反応をいただきました!

sakana38.hatenablog.com

あー・・・

色々至らない点がいくつもありましたね・・・

さすが電波ソングbot様です・・・

 この記事を読んで僕なりに考え直してみました。

是非お読みください。

 

note.com

 

 

 

 

 

 

参考文献

ケルトvol.17「大滝詠一が大好き!」

大瀧詠一Writing & Talking 

Cornelius's Fantasma (33 1/3 Japan)

Wikipedia渋谷系」「アキシブ系」「萌えソング」

YouTube 下動画

www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

*1:細野と坂本が初めてまともに対面したのは大滝詠一のアルバムセッションである

ⒸEPOCALC