コンピ盤のコンピ記事
良曲集合体
コンピレーションアルバム。特定のテーマや一定のコンセプトに基づいて集められた楽曲によって構成された音楽アルバムのこと*1。
もともとはレコード会社のベスト盤から始まった文化らしいが、DJ、音楽家、ディガー、評論家などが己の趣味を全開にしてセレクトした通なアルバムもある。それを紹介しようと言うのがこの記事の目的です。
ただこう思う人もいるかもしれない。Spotifyで気軽にプレイリストを作って公開できる昨今意味あるの?、と。
実は最近でも環境音楽とかのLight in the Atticが作っているような辺境音楽コンピが大人気。コンピ自体の人気はまだまだ衰えてない。*2
とはいえ、色々雑多な曲を集めている都合上音楽家の一つの確固たる信念が貫かれたオリジナルアルバムよりチョイ下くらいでみられがち。
が、先述した音楽通たちが身の粉にして作ったであろう名盤も数多存在する。特に邦楽。
そういうわけで今回は有名無名問わず個人的におススメしたいコンピ盤を紹介する記事です。例によって邦楽多めでお送りします。
Nuggets
ああ、またこれかと思ったアナタは音楽好き。コンピを語るときにまず出てくるのがこのアルバム。山下達郎がサンソンで流したことでも有名。
Patti Smith Groupのメンバー、Lenny Kayeが編集したアメリカのガレージサイケを有名無名問わずひたすら集めたアルバム。発売された72年時点では既に忘れられた存在になっていたガレージロックだったが、このアルバムでの選曲のハイセンスさは再度光を当てる決起になった。
このアルバムの影響力はすさまじく、パンクムーブメントにはもちろんBlack Sabbathにまで影響したと言われる。そしてこのアルバムに収録された当時マニアックとされた曲たちはガレージロックの入門曲になってしまった。
また60年代のガレージをまとめるコンセプトもコンピ界のスタンダードになることに。New England Teen SceneやBack From The GraveといったコンピはNuggetsフォロワーの代表格。どちらも非常に完成度が高いのでNuggets好きにはおススメです。
こうして音楽家にもコンピにも影響を与えたNuggetsはコンピレーションアルバムの代名詞的存在となり、Nuggetsの名を冠したアルバムはLenny Kaye本人によるものは勿論パロディとしても数多存在する。最近だとシンガポール・ナゲッツとかあったっけ。そういうのを集めてみるのも楽しいかもしれない。
Nuggets収録曲では個人的には13th Floor ElevatorsやCount Fiveが好きかな。60年代アメリカにしか存在しえないガレージロックを楽しもう。
Pillows&Prayers
あとコンピの名盤ということでこれも取り上げておきたいところ。コンピといえばNuggetsとPillows&Prayersである。異論は認める。*3
こちらはCherry Redという80年前後のネオアコ系レーベルのコンピ。爽やかながらもどこか不穏な雰囲気が漂う、ニューウェーブ期の不安定インディーポップが収録されている。メンバーもBen WattやTracy Thornなど、この後非常に名の知れることになる人々ばかり。Nuggetsは音楽評論家などがコンピを作る際の指標になったのだが、こっちはレーベルがコンピを作る基本形になった。
この通り海外産のアルバムなのだが日本での人気が異様に高かったらしく、続編は日本限定で発売されている。そっちも必聴。ちなみにその続編には怖いCMでお馴染みのクリネックスティッシュCMのBGMが収録されている。
都市通信
80年代の日本にも東京ロッカーズや関西ノーウェーブ近辺をまとめた名コンピがいくつも存在する。その中でも内容は勿論のこと、その逸話でもよく知られているのがコレ。
逸話というのは、こういうことである。
野本氏(引用者註:都市通信の責任者)の家業が不渡りを出してしまい、その資金繰りにあてるために、少数ながら流通したアルバムの収益や通信販売分として届いた代金を着服してしまい、注文した人々の多くに作品が届かなかったという事件です。
それから40年、野本氏は還暦を迎え、そうした人々に作品を無償で届けるとともに、売り上げを参加バンドにすべて返すためにこのプロジェクトを実現しました。
そういうわけで40年間幻と言われわ高値で取引され続けた都市通信だったのだが、近年奇跡的な再発がかかり我々は気軽に聴くことができるようになった。
内容も非常に優れている。特にこの後一般的にも知名度を上げていくNon BandのHomeは東京ロッカーズでも指折りの名曲。一緒についてくる冊子も80年代サブカル臭がして素晴らしくよい。
Soft Selection 84'
非東京ロッカーズのコンピで80年代ものというとこれをオススメしたい。何せレーベル名がソフトレコードである。柔らかふわふわニューウェーブなのだ。
なにやら中華風味&チープなテクノポップがめじろ押し。ノンスタンダードがさらに地下にもぐったような都市通信とはまた違ったアングラ感を楽しめる。後々ナゴムに入ることになるPICKY PICNICがいるのでプレナゴムレコードと捉えるのもアリかも。ポップと地下精神のバランスが絶妙な点からもナゴム的な空気を感じるね。
個人的にはLa Sellrose Can Canがおススメ。YMO的な歌ものを目指そうとチープな機材でやれることをやった結果、YMOと別軸でさらに先まで行っている感がある。
Sixties Japanese Garage-Psych Sampler
海外産GSのコンピ盤。どうやら海外で初めてGSを取り上げたものらしく、GSコンピのパイオニア的存在。*4
GSでしょーと思って聴くと中々に衝撃を受ける。海外産ガレージと遜色のない曲ばかりが揃っているのだ。
またモップスやダイナマイツのようなマニアックなモノばかりではなく、ゴールデンカップスやスパイダースなどの売れた人々もちゃんと入れているところが好印象。
それでいて前述のとおり海外ガレージのように聞こえるのであるから、相当ディグったものと思われる。GSの新たな魅力に気づけること間違いなし!
ちなみに海外だとFlower Travellin' Band、Les Rallizes DenudesやFoodbrainのメンバー参加!!と言って売り出しているらしい。物は言いよう
RSDで再発がかかっているため、サブスクでも聴ける。是非聴いてみよう。
Back To The Lab
昔「コンピ 名盤」で検索して見つけたもの。さっき検索したときも上の方に出てきた。実際名盤なミドルスクール・ヒップホップのコンピレーション。DJ KOCOにも同名アルバムがあるが、それの元ネタである。
これを知って以降このDef Rhythm Productionsが何者なのか、収録されている人たちが何者なのか調べているのだが現時点では分かりませんでした!という最早最近見なくなったタイプのアフィリエイトサイトのような結論にしか達しなかった。詳しい人教えてください。
ただ内容は本当によく、特にI'm Groovinのカッティングギターの上でべらべらラップしていくさまはあまりラップに詳しくない人でも楽しめるのじゃないだろうか。ミドルスクールのヒップホップの良さに気づくことになった一枚。
Prego!'99
大分時代が飛ぶ。この間にもいくつか良いコンピはあるのだが、Pillows&Prayers風のレーベル編纂ものが沢山ありすぎて省略した。
かく言うこのアルバムも渋谷系レーベル・トラットリアのレーベル紹介アルバムなのだが、一風変わっている。コンピなのに曲ごとが繋がっているのである。
また内容も最早皆が想像するところの「渋谷系」ではない。テクノがあったと思ったらクラウトロックがやってきて、その後現代シャンソンが流れ...というようなFANTASMAを彷彿とさせるごった煮感。音作りも00年代的なプラスチックな音像。何もかもが新しいチャレンジで構成されている。
このコンピ以降明らかに日本の先鋭的なコンピ盤の質感が変わっており、コンピの概念を変えた名盤と言ってしてまってよい。
Contemode
Prego'99の作風をポスト渋谷系にまで高めたのが中田ヤスタカのcontemode。
イントロ曲から始まり時にキュート、時に凶暴な00年代的佳曲が並べられていくのは見事。可愛さと先鋭的な音楽とを違和感なく混在させる手法は、この後発生するアキシブ系への直接的な影響を感じさせるものになっている。
そしてやはりプラスチックな空気感。00年代以降のポップスを定義するあの音像が既に2003年時点で完成されて切っているのは中田ヤスタカの手腕に依るところに大きい。
ちなみにアキシブ系にはAKSBというコンピもある。これも併せてに聴いておきたいところ。*5
ContemodeでのオススメはHazel Nuts Chocolate。かわいらしさと不穏さが一緒くたになっている。こういうの好き。
O Brother, Where Art Thou? O.S.T.
こちらは一見映画のサントラのように見える。が、ほとんどブルーグラスのコンピと友人から教えてもらった。
どれどれと調べてみるとこのアルバム、全米にブルーグラス旋風を巻き起こしU2やDylan差し置いてグラミー最優秀アルバム賞をかっさらったそうである。
そういうわけでこれは誰が言おうが何を言おうがブルーグラスのコンピなのだ。これの素晴らしい点は音源が新録である点。
優しげな演奏も素晴らしく(ネット上のカントリー知識人たち曰く)選曲も大変良いため入門盤にうってつけ。これを聴いているとどこか遠くに旅をしたくなるね。
カントリーって古臭いんでしょ?というイメージを払拭してくれること請け合い。サブスクではアルバムのうち数曲聴けないので、中古で買うのが◎。同様に日本の戦前歌謡曲に対して新録をやっている大土蔵録音2020もおススメ。
Ethiopiques
辺境コンピの元祖というべき存在がEthiopiquesでしょう!かのBob Dylanも感銘を受けたとか。
その名の通りエチオピアの多種多様な音楽を収めたコンピシリーズ。未発表音源も惜しげもなく使い、レアグルーヴありSSWありで現在Vol.30まで出ているそうだ。よくエチオピアだけでそこまで続いたな...
元祖なだけあって選盤の腕も確か。レーベルやアーティストなど各Volごとでテーマも違うのだが、どれも高水準にまとまっているのは凄まじいの一言。
個人的に好きなのはVol.10のエチオピアブルース集。確か件のBob Dylanが感銘を受けたやつもこれだったはず。
人気作だからかサブスクにあるのも嬉しい。是非聴こう。
Amiga A Go Go
以前共産圏オススメガイドでも紹介した、東独のコンピ。国営レーベルAmigaに残された膨大な音源の内、今の耳でレアグルーヴとして聴けるものを集めたコンピになっている。
聞くところによれば東独をはじめとした共産圏はどうやらロックを禁止しおり、ロックバンド群は教会で「ミサ」という名目でライブをやっていたらしい。
一方でジャズやファンクはOKだったらしく、政府も力を入れていたのか共産圏のそれらは異様にレベルが高い。
内容も共産音楽入門にうってつけ。今でもドイツで国民的に人気のあるManfred KrugやUschi Burning、ベルリンの壁崩壊前から国際的に評価されていたModern Soul Bandなど。ドライブで流したら爽快なこと間違いなし。
この中のいくつかはサンプリングもされているらしく、そのネタとしてもおススメ。Red Grooveの波が来ている昨今、これを聴いて勉強するしかない!!
Childish Music
その名の通り、子供が遊びで作ったような無垢な印象を与える曲を集めたもの。日本やヨーロッパのフォークトロニカを中心に組まれている。
子供の無垢さには時にして恐ろしさがあるもの。ポップゆえの怖さが内包されている作品が揃っている。例としてはOren Ambarchi、World Standardや竹村延和など。もうちょっと後の時代に発売されていたらトクマルシューゴとかも入ってきそうな人選。
音楽的な技術力を備えた人たちが辿り着いたのが最終的に子供っぽい音楽だった、というのはキュビズムの絵に似ている。そしてこの着眼点でこのアルバムをまとめようと思ったキュレーターに賛辞を贈りたい。
脱構築ポップスが好きならきっと好きなはず。Pitchfolkが下げめのレビューをしているが気にするな!
東京ボサノヴァ・ラウンジ
2000年代初頭、ボサノヴァがちょっとしたブームになっていた。
それ故現代ではボサノヴァの印象はすこぶる悪いのだが、ブラジルのそれと引けを取らないほど高度なことを志向した音楽家も沢山日本にいた。それを集めたのがこのアルバム。
日本のボサノヴァ=ジャパノヴァの指標として今でも参考にされているこのコンピ盤。現在でもBook Offディガーを中心に歌謡曲ボッサを探す人がいるがその発端がここである。
内容も浅丘ルリ子の「シャムネコを抱いて」のような有名曲は勿論、音楽ファンに人気の笠井紀美子や寺尾聡、そしてハプニングス・フォーやかまやつひろしといったGS人脈、さらに大橋巨泉まで、あらゆる昭和ボッサを一つにコンパイルしている。そしてどれも大変高度。今の耳で聞いても古臭くないどころか新しいまであるほどである。
ジャパノヴァの名盤としてはもちろんのこと、昭和歌謡曲入門にも役立つのではなかろうか。歌謡曲を時代遅れと切り捨てるのは早計であると感じさせてくれる。
パリの地下鉄
大丈夫。走行音ではない。パリの地下鉄で演奏する音楽家たちの演奏をまとめたもの。無印良品が出していたらしい。
それ故ある人はピアノ、ある人はギター、ある人はバンドネオンと最小限の楽器と各々のスタイルがバラバラ。しかしながらアルバム全体としては何かの統一感があるが不思議。
パリの地下鉄で演奏するのは実は限られた人物だけ。地下鉄会社のオーディションがあり、それに受からないといけない。この不思議な統一感はこのオーディションによるものなのかもしれない。
個人的によく聴くのはEdith Piafのカバーで有名なPadam Padam。古いシャンソンをアコーディオンと歌だけで魅せるカバーはこのアルバムの魅力の一つ。
[音源等無し]
塊魂トリビュートOST
こちらもゲームサントラながらコンピとして乗せたいもの。何せ使っている音楽家が凄い。
キリンジやスキマスイッチ*6のような00年代のソフィスケイトポップとして今でも著名な人物から、GUIROやBuffalo Daughterのようなゲームサントラにはあまり召集されないコアなメンツまでがそろい踏み。彼らが塊魂の曲を思い思いカバーしており、ゲーム名通り一種のトリビュートアルバムとしての性質が強いのである。
やはり白眉はGUIRO。よくこの人たちをゲームのサントラに呼び出したなあと思ってしまうが、彼らもノリノリだったのかGUIRO節全開の浮遊感たっぷりなカバーをしている。
8bit Music Power
これは非常に有名ですね。FCカセットの新作として幾度となく大きな話題になった代物。その中身はコンピになっているのです。ちゃんと聴いたことあります?
参加しているのはサカモト教授やSaiotneなどといったチップチューンでお馴染みの音楽家たちと往年のゲーム音楽家たち。ゲームのサントラやアルバムだと機械そのものの音ではないが、カセットにすれば実機で鳴らせるという寸法である。
彼らの曲は普通にインストポップスとして楽しく聴けるものばかりで非常に高度。演奏するのはもちろんよく聴くファミコンのピコピコ音なのだが、それでこんなことできるの!?みたいな音も頻出する。
人気作品であり続編もいくつも出ている。サブスクでも聴けるが、続編含め安いものだとまだ3000円程度で買えるので実機で楽しんでみるのも一興。
Eiichi Ohtaki's Jukebox
大滝詠一の持っていたジュークボックスの中身が聴けるという、なんともありがたいコンピ盤。レコード会社別で三枚出ている。
よく知られているオールディーズからの選曲も多いが、ここは大滝詠一の選盤、なかなか他ではお目に掛かれない隠れ名曲も入っている。この三枚はオールディーズ入門にもうってつけ。
他にも大滝詠一関連のコンピは沢山ある。元ネタを集めまくったナイアガラの奥の細道は言わずと知れた定番になりつつあるし、GO! GO! NIAGARAで流れた音源をまとめたGO! GO! RADIO DAYSも頻繁にタワレコで見かける。よく売っているので余裕あるときに買ってみよう。
Thai Shoegaze Compilation
シューゲイザー関連には不思議なコンピレーションが沢山あるが、最近のもので面白く話題になっていたのはこちら。タイ産シューゲイザーである。
実はタイではDesktop Errorという偉大なるバンドのおかげでシューゲイザーが人気。それ故現在のタイのシーンでは下手なイギリスのシューゲイザーバンドより質の高いバンドを拝むことができるのだ。その中で良いバンドをえりすぐった今作は折り紙付き。
ともすればマイブラの二番煎じの印象が出てしまうシューゲイザーだが、ここに収録されている音楽家たちはそんなことを思わせず己の靴見道を突き進んでいる。面白かったのはKrtkkkh.*7。まるでドゥームメタルのようなリフや空気感の曲を紛れもないシューゲイザーで見せている。これは非常に新しい!
ちなみにVol.2も出ている模様。こちらは加えてシューゲイザー関連の別ジャンルも入れてあるのでさらに彩り豊かになっている。
シューゲイザー関連のコンピだと日本から出ていたYellow Lovelessも面白い。少年ナイフやBoris、Coaltar of the Deepersなど日本人音楽家がLovelessの各曲をカバーしたもの。また韓国人音楽家によるBlue Lovelessもある。こちらも併せてどうぞ。
Heisei No Oto
この記事最後に紹介するのは昨今人気のディグレーベルMusic From Memoryのコンピ。
この手のコンピはLP時代の音楽をコンパイルしてることが多かったのだが、今作では平成の音ということでCDフォーマットで日本で発売されたものに限定しコンパイルしているのが大きな特徴。日本だとそうでもないが、海外のディガーはあまりCDに注目してこなかったようでその点で大きな意義がある。
収録されている人もDream DolphineやPOiSON GiRL FRiEND*8といった(このアルバム発売前までは)よくBook Offでたたき売りされていたような人たち。またこのアルバム発売直後、収録されている井上陽水のPi Po Paが音楽ファン界隈で流行するという謎の現象を生み出したのも記憶に新しい。
こういうコンピはこれ以降増え始め、音の和というものもあった。そちらもCD時代に寄せている。
現代のみならず当時から俗物として敬遠されていた音楽が復古し始めている。これからの音楽、次なる指標はこのアルバムになることは間違いない。
その他にもクリスマスアルバムには良いコンピがいくつも存在するね。シーズンになったらぜひ買っておきたいところです。
良いコンピの旅を。