Acabou Chorare/Os Novos Baianos【1972】
サイケ+ボサノヴァ=?
多くの日本人音楽リスナーは音楽を洋楽と邦楽に大別し、
やれなんとかが邦楽の名盤だ、かんとかが洋楽の名盤だ
等とアン・プロダクティボーな議論を日夜行っているものと思われる。
しかし、僕は問いたい。「洋楽」という分け方は大雑把すぎませんかと。
「洋楽とは邦楽の対義語で、日本国内以外の外国で生産される音楽全てのことをさす。」
これはWikipedia先生のお言葉です。
そうすると洋楽というのは196-1か国それぞれの「邦楽」を寄せ集めたものであり、
たった日本一国の邦楽と対比させるのはちょっと乱暴なのではないかと。
そして、Wikipedia先生のありがたいお言葉があるのにもかかわらず、
実質洋楽とは英米音楽、どんなに広くても米+西欧を指しませんかと。
そう言いたいわけです。はい。
つまり洋楽名盤ランキングなるものは大抵英米名盤選であり、
その国の人しか聴いていない世界各国の「邦楽」名盤を見逃しているのである。
各国には各国の「風街ろまん」があるに違いないのだ。多分。
さて、手垢まみれの反欧米論を述べたところで
実際そのような名盤が存在するのか、というと割とあるらしい。
例えばお隣韓国であると、K-POPの始祖的存在「ソテジワアイドゥル」の1stが幅を利かせる。
なんだか声の感じとかが某漫才グループを思い出すが
この通り当時としては珍しいラップのアルバム。そしてバカ売れしたらしい。
日本においてのラップアルバムといえば佐野元春だとかいとうせいこうとかが思い浮かぶが、
彼らは決して当時の評判が高くなかったことを考えると対照的。
それらしいヒットは「今夜はブギーバック」まで待たねばならないことを考えると
日本の場合、少し早すぎたのかもしれないね。
インドだと、ジョージ・ハリスンにも影響を与えたシタールのアルバムが名盤と謳われる。
特にどこでも取り上げられているのがコレ。
シタールの三巨匠の一人Nikhil BanerjeeのAfternoon Raga。
なっている楽器は終始タブラとシタールだけなのだが、
なんだかそれだけでお腹いっぱいになる超絶技巧サウンドが展開される。
で、ブラジル。ブラジルと言えばまあ多分ボサノヴァのなんかでしょ~と
色々名盤選を見てみるとそうでもないらしい。
なんでもボサノヴァ後のMPBなるジャンル*1が幅を利かせており、
その中でもOs Novos BaianosのAcabou Chorareが高位によくいる。
彼らは所謂トロピカリアの一つ後の世代の人。
トロピカリアとは何ぞや、と言えばこれまたブラジルの名盤で
「南米のサージェントペパーズ」と呼ばれるシロモノ。
で、このアルバムに参加したジルベルト・ジル*2、カエターノ・ヴェローゾ等の面子もトロピカリアと呼ぶ。
トロピカリアはこの後世界中に影響を与え、BECKの曲にもその名を冠したものがあるほど。
しかしながら、音楽的に革新的な彼らは政治的にも革新的で、
多くのメンバーが時の軍事政権に追われる身となってしまい、バラバラになってしまう。
そんな中、次世代ブラジルを担うバンドとして出てきたのがNovos Baianos。
元々名無しバンドだったらしいが、プロデューサーから「新しいバイーア*3人」を意味するこの名前をもらったらしい。
1stは割と普通のサイケポップでブラジル感は特にない。
だが、かのボサノヴァの父ことジョアン・ジルベルトに会うと一変、
2ndでアコースティックサウンドへと転向する。
名盤は一曲目からやってくる(今週の標語)
バチーダするアコギと男女の歌い分け、というボサノヴァ的な調子で始まるが、
すぐにサイケなギターが登場。そのままサンバと化す。
ボサノヴァとサンバというのはそれぞれ子と親の関係だけれど、
それをこうして一曲につないでまえ!というのはかなりサイケ的で
ブラジルだからこそ出てきうるサイケ音楽であるネ。
そしてサンバやボサノヴァを下敷きにしているだけあって非常にメロディアスで日本人にも聴きやすいのも高得点。
別に完全にボサノヴァやサンバに寄っているわけでなく、
割とサイケ寄りの曲もあるのだが、なんかブラジルである。
もしかしなくてもリズム隊のおかげなのだが。
この曲ではボサノヴァでもよくある言葉遊びの歌詞が中心にされていて
ナンセンス歌詞好きのナイアガラー的にも満足。
こういう元気な曲ばかりではなく、センチメンタルな曲もある。
アコギ一本で弾き語っているうえ、歌詞の感じがとたけけっぽい。
この緩急がこのバンドの素晴らしいところ。
ブラジル人がみんなただ一直線に元気なわけではないのだ。
この名ポップソングの詰まった内容、その革新性などから
日本においては「ブラジルのシュガー・ベイブ」なんて呼ばれ方もする。
実際その二つ名に恥じず、各々のソロ活動もある程度成功しているようで
度々再結成ライブなんかもやっている模様。
絵に描いたようなヒッピー。
この通り、ブラジルではかなりの人数を動員する相当なレジェンドグループらしいが、
日本においてこの人達を知っている人は数少ない。
是非非西欧圏の音楽を聴いてみよう。
(CD COMPLETO) Novos Baianos - Acabou Chorare [Áudio Oficial]