年の初めの試しとて
謹賀新年。2022年はこちらのアルバムのレビューからスタートさせていただきます。
Pizzicato FiveはFlipper's Guitarと双璧をなす渋谷系の名門バンドとして知られている。フレンチやモンドリアンを取り入れたファッションやデザインは今見ても十二分に新鮮。90年代以降の日本のデザインに多分に影響を与えているよね。
それため彼らには90年代のイメージが強いが、見直してみると彼らの諸作中で名盤と言われるものは意外と80年代のプレ渋谷系期のアルバムに集中している。のちのオリジナルラブこと田島さんがボーカルだった頃だね。bellissima!とか女王陛下とか。
90年代中はシングルでは名曲を連発するもののアルバムの方はレーベル名よろしく「レディーメイド」ということなのか過去のアルバムの再生産的なものが多く、ちゃんと今でも聴かれているのは女性上位時代くらいな気がする。出せばなんでも売れるという状況だったため、一種のおふざけとしてそういうことをしていたのかもしれない。
そして時は流れ20世紀末。椎名林檎やくるりなどのポスト渋谷系と評される音楽家たちが増え渋谷系の終焉が見えていた。渋谷系と呼ばれていた音楽家たちに変革が求められたのだ。
フリッパーズ側からの回答としては過剰なパロディ満載のFANTASMA、一転自然音や間をフィーチャリングしたアンビエントのPointや毎日の環境学。
これらによって単なるサブカルポップスに過ぎなかった渋谷系が、前衛音楽のよき理解者へと変容することになる。オルタナバンド主体だったポスト渋谷系へのさらなるアンチとして機能し、これは後の非バンド音楽に通じていく。
そしてPizzicato側からの返答だな、と思えるのがさ・え・ら ジャポン。渋谷系を外部から相対化させてみせたポスト渋谷系のように、海外から見た日本文化というテーマに基づき豪華客演を交えて繰り広げられる不可思議なコンセプトアルバム。
現代において伝統的な日本文化といえば正月ということなのだろうか、アルバム冒頭は一月一日から始まる。年の初めの試しとて♪というやつである。正月に聴きたくなる理由の七割はコレのせい。
そして二曲目にPizzicato Fiveらしさ全開のNonstop to Tokyo。アルバムだと松崎しげるとやっている。
東京出身の方には分からないかもしれないですが、東京旅行にはこういう感じの近未来感やワクワク感があるんですよ。地方出身の小西さんだからこそ分かる、非東京出身者の思う東京観が反映されている。
この後、カバーバージョンはこれと忌野清志郎くらいしか知らない君が代、戦前ジャズ歌謡のようなさくらさくら(童謡ではない)、「国民番号制度にはやっぱり大反対ですけど」のパンチラインで知られる現代人、奇怪な外国人が日本文化をむやみやたらと褒め称えるFashion Peopleなど、密度濃度ともにドロドロに濃い曲が目白押し。
特にこのアルバム中でにやけさせるのは、戦時中と労働環境が何ら変わっていないじゃないかと批判する1964年の音楽「アメリカでは」のカバー
からの「ポケモン言えるかな?」。このアルバム中最も感動した構成である。
戦争や直後の過酷さを忘れてしまった現代の気楽さのズレ、敗戦国ながらアメリカどころか世界に伝播した日本文化の奇妙さを際立たせている。曲の個性が非常に強いため「ポケモン言えるかな?」はアルバム内でどうしても浮いてしまうが、それを逆手に取った現代日本批判。
全くクリスマス関連のワードが出てこない日本流クリスマスソング12月24日、別に坂本九は関係ないスキヤキ・ソングと来てPV含めて名曲の東京の合唱、そしてはっぴいえんどの愛飢をのカバーをボッサバージョンでやり、幕を閉じる。
この最後の愛飢を。一種のネタバラシとして機能しているのではないだろうか。
愛飢をは大滝詠一作曲。そしてこのアルバムは一月一日で始まってさくらさくらを経由し、12月24日、東京の年末の象徴たるスキヤキに向かう。そう、大滝詠一のナイアガラカレンダーを意識している構成になっていると思いませんか?
以前、このブログでナイアガラカレンダー収録の「クリスマス音頭」は音頭という日本文化礼賛のように見えて、実は日本文化批判であるという話をした。
それをアルバム単位で実行したのがこのさ・え・ら ジャポンなのではないだろうか。本作を単に日本文化礼賛と受けとるのは「自衛隊に入ろう」をそのままの意味で受けたるようなものである。あらゆる角度の日本文化を切り取り*1、対象化し横一列に並べ日本の奇怪さ奇妙さを言い表したのだ。
ここら辺の手法をさらに発展させたのが東京事変、そして椎名林檎だと思う。椎名林檎は問題行動も含め一見右翼的に見えてしまうが、そうではない。日本文化*2を切り取って持ってくることによって日本の問題点や奇妙さを我々に投げかけているのだ。