Green/吉村弘【1986】
和アンビエント真打
シティポップ以降、色んな日本の音楽が国内外の人によってほじくり返されている。
たとえば和ジャズとかね。特に僕の地元・東北の陸前高田のジャズ喫茶、ジョニーが制作していたJohnny's Diskというレーベルの再評価はすさまじい。
ジャズファンからの支持は元々高かったらしいけれど、今やそれ以外の音楽ファンや海外の音楽通からもよく知られた存在になっているよう。あれもこれもシティポップのせい。
この前東北ジャズ回顧展みたいなものが仙台であったのだが、もちろんジョニーの展示も相当取り上げられていた。撮影禁止で写真が撮れなかったのが残念。
その和モノブームでもシティポップに次ぐ人気と言えるのがアンビエント。Light in the Atticから出ていた日本のアンビエントを集めたコンピがグラミー賞にノミネートされていたのも記憶に新しい。
つまり皆さん、留学や海外赴任等の事情で外国に暮らすことになった時、万一音楽好きが周りにいたらこう訊かれることを想定しないといけない。
Hey, you're Japanese, right? If so, you must know a lot about ambient music. Do you have any opinions about ambient music?
ねえ、君は日本人だよね。そうであるならアンビエントに相当詳しいと思うんだ。アンビエントについて何かしらの意見を持っていたりするかい?
これは英検準一級の面接問題の一例として、または某国立大学の入試問題の一つとして取り上げられるのではないかと、関係者の間ではまことしやかに囁かれる。その関係者とは僕です。
つまるところ、日本の音楽ファンにおいてアンビエントの履修が当然の時代。もはやパンク、オルタナに並び立つ存在にアンビエントはなっているのだ。*1
というわけでアンビエント入門編として吉村弘のGreen。件のアンビエントコンピで取り上げられた人たちの中でも特に評価の高い人物であり、そして彼の最高傑作と言われるアルバムでございます。
吉村弘は音大とかではなく、早稲田大の第二文学部出身。早大二文は夜間部なのだが、永六輔に大滝詠一、タモリなどの文化人を数多く輩出しており、夜間部なのに一番早稲田っぽい学部とまで言われた学部だそうだ。吉村弘はここで美術を専攻している。
その後かのタージマハル旅行団に在籍し、その頃はスピリチュアルジャズで知られる富樫雅彦とも共演したらしい。多分その場にいたら僕は失神していたどころか、命が危なかっただろう。
その後サウンドアーティストとして楽器を作ったりサウンドロゴを作ったりするなど環境音楽家として精力的に活動。
その中で一般的に最も知名度のあるものは恐らく東京メトロ南北線の発車サイン「音無川の流れ」(下動画10:39~)。1991年に採用されたそうだが、全然古びていないところに彼の手腕の高さが見て取れる。
吉村弘の面白いところは自然は勿論、都市も愛したところ。
アンビエントの人は自然派とかオーガニックに走りやすい傾向があり、実際自然派アンビエントと小ジャンルとして纏められるほど数がある模様。個人的には昨今アンビエントと一緒に紹介されることも多いニューエイジ音楽はこういう自然主義の極北としても考えられる気がする。
敬愛すべき音楽通、門脇氏のプレイリスト
勿論吉村弘も自然大好き人間なのであるが、それと同じように都市の中に潜む音も相当熱心だった様子。例えば都市の中で生まれる良い音を、使えない構造物を指す「トマソン」になぞらえてサウンドトマソンと命名し、蒐集したらしい。例としては図書館の通風孔から出てくる風の音。
こういった都会の雑音をディグするのはもう完全に向こう側に行っているが、それゆえ(?)自然主義に加え独特の未来感や都市の空気を受ける作風があるのが吉村弘の魅力。
今作Greenの幕開けCreekは日本のみならず、アンビエントの代名詞的存在になっている節もある。
後輩曰く、Ambientで調べたらこれが出てきたとのこと。もうブライアン・イーノも落とす勢いである。
アンビエントにしては割とポップな印象を受ける、ポコポコサウンド。このポコポコはお気に入りらしく、先ほど紹介した音無川の流れの音像にも似ているね。ポップと言えど無駄な音は極力排除し音の強弱で曲が展開されており、アンビエントとミニマルの美学のお手本のような、素晴らしい音楽。
そして空気感はなんだかル・コルビュジェの家とかを彷彿とさせるモダニズムな印象。
すごーく卑近に言えば無印良品チック。Greenの名の通り、観葉植物(アロエみたいなの)が置いてあるラーメンズがコントやってそうな真っ白い部屋で聴きたい感じだ。
曲名もCreekにFeelにSleepにTeeveeと、無印良品っぽいモダンな感触。
Sleepという曲を含んでいるがこのアルバム、その看板通り本当に睡眠導入BGMとして完璧ともいえる活躍をしてくれる。
いや退屈ということではなく、聴き入っているのに眠ってしまうという不可思議な、このアルバムでしか体験したことのない謎の現象が起きるのである。
実際ライナーノーツで本人がこれを聴きながら眠ってしまった旨を話しており、やはりそういう性質がある模様。
そして驚くべきことになんとこのアルバムはFM音源を使って製作されたそうだ。FM音源とは駅のチャイムみたいなデジタルシンセである。初音ミクの元ネタとしてもお馴染みのシンセ、DX7もFM音源。
実際ヤマハの音源らしいのでグレードの差はあれこのシンセとほぼ同じものを使っているんですよ。とてもそうとは思えない...
この驚きはレイ・ハラカミの機材が店内BGMに使われるハチプロのみという話を聞いた時と似ている。作風もどこか似てるしね。
同じく再評価されつつある吉村さんの仲間、廣瀬豊氏によると「お洒落で温和」という感じの人だったらしい。ハイセンスな人だからこそ当時の他のアンビエントとは一線を画す作品に仕上がったのかもしれない。
*1:いや、なってほしい。
海風/風【1977】
風の歌を聴け(直接話法)
カランカランカラン...
おお、よお兄弟、大分ご無沙汰だな。お前がこのレコードバーにやってくるのは久しぶりじゃないかい?
ああ、「仕事」があったのか。それならば仕方がない。ご苦労様だ。
「仕事」の成功を祝って、ちょっと乾杯しようじゃないか。
マスター!ソルティドッグとピーナッツをこいつに。大丈夫、おごりだよ。
Cheers!
お前のいなかった間にこの国もだいぶ変わってね。まあなんだい、ちょっとした事件があったってことよ。
悪いニュースと良いニュースがある。どっちから聴きたい?
...ああ、まずは悪いニュースか。風の大久保氏が亡くなったそうだ。
ああ、お前の大好きな風だ。オレたちが学生のころコピーもしたな。あの頃のオレたちは平和だった。
泣くな泣くな。そこまでショックを受けるとは思わなかった。ごめんよ。
なに、良いニュースもあったもんじゃないって。そんなことはないぞ。
何せ、その直後にサブスク解禁したんだ。もちろん風が、ね。
不思議だろう?大久保氏の死に合わせたようなタイミングだ。
もしかすると、天国の大久保さんから汚れちまった俺たちへの贈り物、かもしれないな。
おいおい早速スポティファイに落としまくってるのか。俺も全部入れてしまったよ。
こんな話をしていたら、久しぶりに風を聴きたくなってきた。おお、お前もか。
マスター!最高のバンド風、その最高のアルバム海風を流してくれ!
ズゾゾゾ....
やはり、風というバンドの素晴らしさを最も端的に表した曲は、俺たちもコピーしたこの一曲目、海風だと思わないかい?
なんせやっているのは伊勢正三、フォークバンドの代表格・かぐや姫のフロントマンだ。
伊勢正三といえば神田川、そして四畳半フォーク。70年代に勢力がどんどん広がっていたロック好きからしたら、時代遅れの印象が強かったんだろうな。
そこへ一発風というカウンターをかましたのが伊勢正三の天才たる所以、そう思わないかい?
俺は昔からフォークが好きだったが、風の出したあの1st、特にあそこに入っていたでいどりーむは衝撃的だったんだ。
もう殆どニューミュージックだったんだ。フォーク畑の伊勢正三が、ここまで完成度の高いニューミュージックを出すとは思っていなかった。
あとから知ったが、編曲が松任谷正隆、コーラスアレンジが山下達郎らしい。当時勃興していたロック勢力への対峙の側面があったんだろうな。
もっとも1stアルバムはフォークが多かったんだが、このニューミュージック、そしてソウルへと進化したのが海風というアルバムであり、曲だと思うんだ。
最近はシティポップブームとか言っているが、風を大きく見逃している時点で何もリバイバルしちゃいないんだよ...
おっとすまない、お前にはもう何度もこの話をしたんだったな。
こんなことを話しているうちにもう「酔いしれた男が一人」になっているじゃないか。
この点を置いていくようなリズム感、もはやフォークというよりはソウルだと思うんだ。
ああ、何々...なるほど、こういうソウル感が渋谷系後期の点を置いていくような音像に繋がるという説もあるな。さすが「仕事」、各国の音楽人へのインタビューをしているだけはあるな。
アンビエントとソウルはもしかするとその点において同相なのかもしれないな。
マスター!B面も頼むよ。
こういうバラードを聴くと、伊勢正三はフォーク畑の人だったと感じられるよな。
この泥臭い歌とロサンゼルス録音による垢抜けた音質が同居している空気感は、70年代の日本人の録音じゃないと楽しめないよな。
ああ、もう時間がないかい?せっかくだし、最後は大久保さんの曲を聴いて帰ったらどうだい?つぎはお前の好きなあの曲だろ。
大久保さんも、伊勢正三の陰に隠れがちだけれどハイレベルな曲を書く人だよな、本当に。
これなんかほとんどセンチメンタル・シティ・ロマンスじゃないか、ってお前が興奮していたのを覚えているよ。風の二人も、相当意識していたんだろうね。
そういや、センチメンタル・シティ・ロマンスの中野さんも亡くなってしまったな。
息の長くて優れたバンドだったから、とても悲しいよ。
今元気に活動している人たちも見られるうちに見ておいた方が良いのかもな。
なにせ俺たちが死神のお世話になってしまうかもしれないからな!ハッハッハ!
またこのバーで会おうじゃないか、兄弟。次来たときは、お前がおごってくれよ。
カランカランカラン...
ボサモドキ小ガイド
広げよう、ボサモドキの世界
以前、ブラジル以外の音楽家がやっているボサノヴァ(とかブラジル音楽的なもの)をボサモドキと命名し、紹介したところ割と反響があった。
この記事の後も色々調べたのだが、日本のものについては「J-ボッサ」と称して愛好する人がいるらしい。いやあ、偉大なる先人には頭が下がりっぱなしである。
しかし世界各地の、というと本格的にはまだいないらしい。
というわけで、今回はJ-ボッサを中心に、僕が探し出した(または調べ上げた)ボサモドキの名盤をご紹介いたします。
TOKYO BOSSA NOVA LOUNGE
日本のボサノヴァの話をするとき、このアルバムは避けては通れない。
主に歌謡曲畑の方の歌うボサノヴァが収録されているコンピなのだが、日本のミュージシャンだけで作られたと聞いて驚いてしまうほど完成度の高い曲が沢山詰まっている。
亜流ながらボサノヴァの名盤として世界的に評価が高く、Rate Your Musicの2002年ランキングに入っているというこの手のアルバムにしては異例の快挙をなしえている。
coco←musika/coco←musika
2000年代初頭は日本の音楽界でボサノヴァが流行っており、様々なボサノヴァテイストの音楽があふれかえっていた(らしい)。
それを牽引していたのがTokyo Bossa Novaというコンピシリーズ。GONTITIやSaigenjiなどよく知られたボサモドキアーティストが収録された名コンピだが、その中に一緒によく入っているのがこの人たち。
ボサノヴァ風の音楽をギターだけでなく三線も使ってやるというごった煮の異形。こういうのがボサモドキならでは。
Tokyo Bossa Novaにはその他naomi & goroや流線形、Lampといった界隈の有名人から「商業的」と無視されてしまった音楽家までぎっしりボサモドキが詰まっている。チェック必須!
Touch! Generations O.S.T.
おそらく任天堂の特典でもらえたのであろう、DSやWii関連の音楽を集めたサントラ。
ミナス派に影響を受けたことで知られる、とたけけこと戸高一生氏や、かの名曲「けけボッサ」を作った峰岸透といったラテン音楽に造詣の深いメンバーによる楽曲が揃っており、ボサモドキの名盤と言っても差支えがない。
けけボッサやキッチンボッサといったボッサはもちろんだが、Wiiショッピングチャンネルのテーマといった戸高一生によるブラジリアンもどきは一聴の価値あり。ゲーム以外ではここでしか聴けない。特にネットミームと化し、ジャズミュージシャンによってカバーされもしたMiiコンテストチャンネルは必聴。
あと、結構最近のアンビエントとしても聴ける曲も入っているのでお得。
夢の城/アコースティック・クラブ
日本の環境音楽家たちが集ったグループによるアルバム。
環境音楽と言ってもバンド名通り電子的なものではなく、軽井沢のペンションでウイスキー飲みながら聴いたらきっと恐らく最高な気分になれるであろうメロウなアルバム。もちろんボサモドキナンバーもたくさん含まれており、弦楽器隊が印象的な緩やかなアレンジで聴かせてくれる。
GONTITIを昭和に持ってきたらこういうことをやりそうな、不思議な魅力のあるアルバム。
Aria the Animation O.S.T./Choro Club
この前単独記事で紹介したが、こちらでも。
厳密にはボサノヴァではなくショーロというジャンルなのだが、ボサノヴァとして聴ける曲もたくさん入っているので聴きごたえ十分。おそらくショーロの中で一番日本人が聴かれている曲たちが詰まっているアルバムのはず。
リーダーの笹子重治氏は日本におけるブラジル音楽の第一人者であり、同氏の参加しているコーコーヤやそのメンバーのソロもボサモドキラバーとしては是非聴いておきたいところ。
Sambaiana/Candeias
ではJ-ボッサ以外を見ていこう、となった時にまずお勧めしたいのがAgustin Lucena。
ブラジルのお隣、アルゼンチン出身の音楽家で、隣国まで行って本物のボサノヴァのミュージシャンにあれこれ教わったそう。
彼の組んでいたグループによるこのアルバムはまごうことなき名盤。ブラジル的な派手さは少し控えめで、やはりアルゼンチン的内省が影響しているのかな。ボサモドキと呼称するのが申し訳なくなるほどボサノヴァに肉薄しており、その意味では今回紹介するアルバムの中で最も完成度の高いもの。
ソロにも名盤がいくつもあり、そのうち一つが今度再発かかるらしいので是非確認しておこう。
Stasera In Casa Seduti In Poltrona Con La Luce Diffusa/COMPLESSO DI SANTE PALUMBO
イタリアンジャズの入手困難な名盤。題名は「今宵は自宅で間接照明のもと君とソファーに寄りかかって」という意味らしい。The 1975臭。
基本的にラウンジジャズであり、難しくなくかなり気を抜きながら聴くことができる。
そしてボサモドキにしては珍しい本格的なアコースティックジャズを聴けるのがこのアルバムの大きな特徴。高い技術力を駆使した流麗なボサモドキを味わおう。
また、この広い世界にはやはり物好きがいるようでイタリアンボッサなるジャンルも存在する。是非抑えておこう。
Verao/Nacho Casado
最近のボサモドキならまずスペインのNacho Casadoの名前が挙がる。何しろプレスリリースに「似非ボサノヴァ」というワードを使っていた唯一の人物だからである。
このアルバムはギター弾き語りとアコースティックベースによる作品。所謂ボッサなものはもちろんのこと、ネオアコティックなものやアルペジオ主体のものなど似非ボサノヴァと自称する割には作風の幅は広い。
総じて、ボサノヴァ風ネオアコ弾き語り。こういうのはベン・ワットとかの系譜なのだろうか。
Sunset Monkeys/Adam Dunning
オーストラリア産ボサモドキ。
ここで紹介するほかの盤と一味違うのはちゃんとリオに行って録音してある点。確かに最近のブラジリアンジャズの音と同じ音の響きがする。
そのほかオリジナル曲もちゃんとポルトガル語で歌っていたりと、最近のボサモドキにしては本格志向。
しかし、どこかブラジルのボサノヴァに見られないような英米のロック/フォーク的な要素が見え隠れするのも魅力。サンプリングも入っているしね。
She Smiles/Swissy
フィリピンのSSWの作品。ただオーストラリア育ちらしい。オーストラリアは意外とブラジリアン大国なのかもしれない。
ボッサに限らず、ギターポップやらAORやらメロウであればあらゆるジャンルを取り入れており幅広い。ただどの曲にもボッサ的な要素が見え隠れし、その意味でボサモドキ名盤として扱っても良いハズ。
やはり日本で人気があるようで、調べると日本でのライブ映像がバカスカ出てくる。やはりみんなこういうの好きね。
Porto Sirena/Cabro Artico
Snail's Houseみたいなkawaii future bassにもボサモドキ要素が散見されるが、ならばボサノヴァで固めて作ってしまえとしたのがこのアルバム。kawaii感じとは裏腹に、ジャケにはコルトレーンとか福井良とかシコ・ブアルキとか描いてあって思想が強い。
基本的な文法はfuture bassだがリズムが一貫してブラジル音楽のそれであり、いつしかノリノリになれること間違いなし。各曲によってボサノヴァへの向き合い方が違うので、飽きずに最後まで突破できるのもアルバムとして◎。
学会では現代ボサモドキの一種の到達点とみる向きもある。
Sensitive Soul/Hope Tala
最後にこちら。めっちゃ有名なので今更感があるが一応。
昨今の英米の新人でボサノヴァと一番向き合っているのは多分この方。ディスコティックなものとボサノヴァを混ぜる発想は以前からあったが、*1その中でも一曲で変化していくのは面白いよね。
ボサモドキを探すときの指針としてこういうのも含めて良いよね~。
というわけでこれらを含め、普通のアルバムにしれっと入っているボサモドキや有名なあの曲を沢山入れたボサモドキプレイリストを貼っておきます。是非ご活用くださいませ。
あ、そういえばこの前出たビリー・アイリッシュの新譜もボサモドキ入ってましたね。ボサモドキがワールドスタンダードになる日も近い。
*1:テイトウワ的な
Percussion Exotique(Voodoo)/Robert Drasnin【1959】
エキゾチカ外伝
映画音楽家のソロアルバムには面白いものが多い。
例えば最近亡くなったけれど、「夕日のガンマン」「荒野の用心棒」で知られるエン二オ・モリコーネ。
そんな映画知らない!という人でも月曜から夜更かしの曲を作った人と言えばわかるはずだ。(下動画1:42~)
そんな万人が称賛する名曲たちを作り上げた巨匠も若い頃はなかなか尖っており、GRUPPO IMPROVVISAZION E NUOVA CONSONANZAという、当時まだ珍しかったミュージックコンクレートなどを駆使した超前衛音楽グループのメンバーとして活動していた*1。純粋なソロではないが、彼の前衛サイドを楽しめる。
聴く人を選ぶが内容は非常によく、前衛音楽レコードで有名なNova Musichaシリーズにも取り上げられている。
あとは最近海外でも評価されつつあるMKWAJU ENSEMBLEとかも良いよね。久石譲が若かりし頃プロデュースしたミニマル音楽のグループ。
MKWAJUに限らず、テリー・ライリーに影響を受けた初期久石譲の音楽は世界的に見ても高レベルなものが多く楽しい。
比較的最近にも過去に電子音楽で作曲したものをオケでやり直したりしたアルバムを出しているから、久石譲自身ミニマル音楽には相当こだわりがあるのだろう。
あとはこの前このブログでもちょっと触れたが、ハリウッド音楽で楽器を弾いている方々のソロを集めたArtful Balance Collectionも、前衛音楽ではないがなかなかのフュージョンもの。是非皆さんも聴いてみてほしい。
そしてもちろん今回のPercussion Exotiqueもハリウッドの音楽家Robert Darsinの作品。
Robert Darsinは映画の音楽を多数手がけているが、実は正直あまり有名な作品はない。
どちらかというとドラマの音楽を主体に作曲した人物のようで、トワイライトゾーンやミッションインポッシブルのドラマ版などでの音楽を手掛けてたそうだ。偉大なる裏方という感じの人物。
そんな中、勤め先のレーベルのオーナーからアルバム制作を持ちかけられる。当時アメリカで流行っていたマーティン・デニーのようなエキゾチカ音楽を作らないかと言われたのだ。
YMOファンの皆様が死ぬほど聴いたこの曲ですな。これをモチーフに一枚作れと言われたわけです。
そういう商業主義的な成り行きでできたのがこのアルバムなのだが中身は全くそんなことはなく、60年前後のものとは思えないほどかなり面白いもの。
マーティン・デニーやレス・バクスターのような他のエキゾチカにありがちなイケイケ感はなく、冷静沈着。またアジアや南米ではなく、アフリカンな感じである。その点エキゾチカにしては異端な内容。
そして後のサイケに通じるような浮遊感のある女性ボーカル。そんなに派手な曲ではないけれど、当時の曲としては相当革新的だったに違いない。
ちなみにピアノが入っているけれど、これ若かりし頃のジョン・ウィリアムスが弾いています。ジョン・ウィリアムスのピアノが聴けるのはここだけ!(多分)
エキゾチカでありつつもジャズっぽいエッセンスがあまりないのも不思議なズレとサイケ感を醸し出している要因かもね。
またこうしてみると、ジャケもハイセンス。渋谷系あたりがパロディしそうなポップアート然としたジャケも、このアルバムに漂う斜に構えた雰囲気を下支えしている気もする。
ただ、このジャケは2ndプレス以降のものらしく、1stは下のジャケ。
Music From Polynesiaって書いてあるけど、この写真はポリネシアというより中南米感があるね。
また内容が同じなのに名前もPercussion ExotiqueではなくVoodoo。2ndプレス以降はもうちょっとハイソな層にも売ろうとしたのだろうか。
一応このアルバムはVoodooの方が正式名称として流通しているようで、続編としてVoodoo iiが発売されている。
そしてこの曲ではジョン・ウィリアムスのピアノ捌きを楽しむこともできる。彼が弾くだけで一気に映画音楽のような空気に変貌するのは流石。のちの大音楽家の片鱗が見て取れる。
このアルバムは当時から好評を博したようで、DIscogsによれば59年から60年の間だけでLPが9バージョンもあるほど。ジャケが二種類あることからもそれが分かるはず。
また僕の持っているLPは鼈甲のような色をした透明レコであり、視覚的にも大変楽しい。是非LPを手に入れてみてほしい。
...と言いたいところだけれど、そしてDiscogs先生によると、CD含めて最後の再発は1996年、LPに至っては60年からほぼ再発していないらしい*2。
相当年数経っているためかLPの枚数は少ないようで、売れたわりにLPはあんまり安い値段で取引されていないし残っているものもそこまで状態は良くないらしい。
どっかのコレクティブが鼈甲仕様も含めて再発してくれるのを待つばかりである。
Loveless/My Bloody Valentine【1991】
とりあえず聴いとけ
おしらせ。Tagに歴史的名盤を追加しました。音楽初心者はここで取り上げられているものから聴いてみよう!
というわけでこの前LP買ったLovelessです。よろしくお願いします。
あとこれはたまたま売っていた、どうせみんな好きなやつ pic.twitter.com/7sz1VGguMk
— EPOCALC (@insomniaEPOCALC) August 3, 2021
シューゲイザー、なるジャンルがある。ギターのフィードバックノイズの上でサイケな美メロをへなへな歌っている音楽である。
オリジネーターはこの方。なんか適当にやったらできたらしい。
シューゲイザーはその取っ付きやすさと前衛性から今でも非常に人気で、各界に数多の現役靴見人(くつみんちゅ)が存在しているのは音楽ファンだったら有名だろう。
例えば初期スピッツはシューゲイザーであったし、今でも各方面に影響力のあるスーパーカーもシューゲイザーのバンド。インディーズでもFor Tracy Hydeが幅を利かせている。知り合い筋からの夏bot氏の評判悪いけど...
が、シューゲイザーというと陰の中の陽な人が好んでいるきらいがあり、60'sや70'sのプログレ好きが集う弊サークル内ではポストロックと併せて「チャラい」と言われ、軽蔑敬遠するイメージがある。君もかい?奇遇だね。
しかしながら、90年代の「60'sリヴァイヴァル」*1において60年代のサイケロックに対応するものがシューゲイザーとする説もあるらしい。つまるところ、プログレとは兄弟とは言わずともいとこくらいの関係ではあるようだ。仲良くしよう。*2
Lovelessはその中でも代表的な名盤と言われているシロモノで、これ以外シューゲイザーと認めないおじさんが存在するほど。
近所の前衛大好きStore15NovによるとPetsoundsやIn A silent way、Innervisionsと比肩する金字塔とのですよ。苦手な人も聴いてみよう。
良いアルバムは一曲目聴けば大体わかるんですよ。
ノイズと美メロ。正しいシューゲイザー。
これ初めて聴いたときなぜこのメロディにこの編曲にしたんだよとツッコみたくなったが、それがシューゲイザーの良いところ。
インディーロックにプログレでもあまり扱わない超前衛音楽を持ち込み、しかもノイズとアンビエント/イージーリスニングという一見相反するような2ジャンルを一緒くたしたという点でかなり大事なのである。
ブライアン・イーノがほめたのも彼の「ノイズはアンビエント説」を形にしたからであるだろうし、非常階段やBoredomsなどの所謂ノイジシャンの方々が渋谷系界隈から高い評価を受けたこともこのアルバムに理由を求めることができるね。
そしてノイズバンドにはかなり好き勝手やる人もいるのだが、My Bloody Valentineのは非常に上質なノイズ。
トップノートはイギリスの鉱山。工事現場。台風の中のトタン。荒野に響き渡るような地鳴りのような焦燥感。
少し楽しむと、森林に吹く風の清涼感。嫌味は全く感じず、そしてバランスの取れた重量感。余韻は長く続く。
彼らはこの音を作るために予算を使いすぎて会社一個つぶしているそうだが、それも頷けるね。
他の曲も大体こんな感じだが、ノイズのみならずソングライティングも良い~
元々ゴスとかサイケとかをやっていたバンドであり、*3色々あってこの作風に行きついたようだ。
それ故サイケポップスのような、甘いメロもできるというわけである。
このアルバムの偉大なところは音楽におけるプロダクションの重要性に気づかせたところ。なんでもエンジニアも一人を除いてほぼ意見を聞かず、フロントマンのケヴィンによるワンマンでレコーディングされたらしい。
しかしそれ故に完璧に制御された音楽が現出したというわけ。この前の時代だとフィル・スペクターとかが近いのかな。演奏するだけではなく、その後どのように処理するか等も制御してしまえ!というのが本質である(多分)。
ポストロックみたいな音響派やアンビエント一派が生まれるのもこのアルバムがなくては語れない。そういう意味でも金字塔である。
あ、このアルバムはその性質上CDよりも明らかにYoutubeやサブスクの音質が悪いので注意。・
その完璧性ゆえ、できる限り高音質で聴きたいアルバムである。