EPOCALC's GARAGE

本州一下らない音楽レビューブログ

Concerto Grosso N.1/New Trolls【1971】

クラシック?ロック?

Concerto Grosso

Concerto Grosso

  • アーティスト:New Trolls
  • 出版社/メーカー: Warner
  • 発売日: 1999/10/15
  • メディア: CD
 

明けましておめでとうございます。

 最近あんまりプログレ聴いていないので

自戒の意味を込めて今回はこれです。

 

 

「ロックとクラシックの融合」ほど聴き飽きた言葉はないと思う。

だってめっちゃありがちじゃないですか。いろんな人やってるし。

偏見かもしれないけどV系の人が連呼しているイメージがある。ゴシックロックってやつなのかな。

それ故、このコンセプトはかなり作り手の技量が試されると思う。

日本でちゃんと融合できているのはくるりとかなのかな。

ブレーメン

ブレーメン

  • provided courtesy of iTunes

 岸田さんはクラシックに造詣が深く、音楽理論も学んでいる方なので

ここまで違和感なく融合できているのだろう。

実際交響曲も作ってらしたもんね。

 

プログレッシブロックも結構クラシックの要素が含まれている…

とは言うものの、結構ロックロックしていて

「お~クラシック~いえ~」みたいな作品は少ない。

ELPの一部の作品にはクラシックっぽい…

というかまんまのものがあるけどね!

Promenade

Promenade

  • provided courtesy of iTunes

 展覧会の絵のカバー。もとい、発表会のオルガン。

 

しかし、中には思いっきりクラシックなものも存在する。

それがNew TrollsConcerto Grosso N.1。

 

New Trollsはイタリアのバンド。

最初はごくごく普通のロックバンドだったらしいが

だんだんプログレに移行したという経歴の持ち主。

ちなみにプログレブーム終了後はクイーンみたいになる。

 

そして、Conceto Grosso N.1プログレ期を代表するアルバム。

そもそもコンチェルト・グロッソとは

Wiki先生によるとバロック期の音楽形式の一つ

ヴァイオリン×2、チェロ×1のトリオと

オーケストラが互いに掛け合いながら演奏しあう形式らしい。

ja.wikipedia.org

このアルバムでもちょうどそれに似た音楽を楽しめます。

正月ですし、ニューイヤーコンサート的な趣で聴いてみましょ。

 

このアルバム、曲名もクラシック風。「第一楽章・アレグロからスタート。


New Trolls: Tempo: Allegro

音出しから始まる所がいかにもコンセプトアルバム。

そしておもむろにヴァイオリンがソロで弾き始めると

それに対抗するかのようにロックバンドが殴り込む。

そのあとコンチェルト・グロッソの形式通り交代交代で

オーケストラとロックが入り乱れ、バロック調のクラシックを紡ぐ。

この冷静沈着で大人びたオーケストラ隊

熱気あふれる若者のようなロックのバランスが素晴らしく

わずか二分程度の小品だが十分圧倒される曲になっている。

作曲とオーケストラの指揮はエンリケ・バカロフという人によるもの。

この人は荒野の用心棒など映画の劇伴で有名な方で

そのせいか、ちょっと映画のサントラの曲っぽくもあるね。

このアルバム自体も何かのサントラだ、という話も聞くのだけれど

具体的にどんな映画なのかは知らない。情報提供を頼みます。

 

第二楽章・アダージョでは歌が入ります。


New Trolls - (concerto grosso) Adagio

Adagio*1ということでゆっくり聴かせるバラードのようになっています。

イージーリスニング風でなんか放送終了後のテレビでBGMになってそうな感じ

歌詞はハムレットからの引用らしく、

死か眠りか、眠れば夢を見るだろう

という名台詞らしい。

シェイクスピアはちょうどバロック期と重なるので引用したのだろう。

当たり前だが、曲の雰囲気に合っていて◎。

曲の後半ではオーケストラとロックバンドがついに同時に演奏しはじめ

見事な絡み合いを見せてくれる。

ここにクラシックとロックの融合の一つの完成系が見て取れるね。

 

もちろん三曲目は第三楽章・カデンツァ。


New Trolls: Tempo: Cadenza - Andante con moto

前楽章のモチーフを再登場させているのが「らしい」

なんかこの曲位クラシック成分が強くなるともはやロックいらない気もしてくるが

それを言ったらおしまいなので黙っておこう。

なんだかポールモーリアっぽい感動的な盛り上がりをして終了。

 

・・・と思わせといて第四楽章がある。


New Trolls - Concerto Grosso - Shadows (per Jimi hendrix) (1971)

うって変わってロックバンド主体の楽曲。Per Jimi hendrixってあるしね。

ギターの音もジミヘンっぽい人間の声の様な音作り。

前の三曲と音楽性がだいぶ違うが、

通しで聴くと意外と前の曲と違和感なくつながり

第三・第四楽章間で「クラシックとロックをつなぐ」という意味で

融合させていることが分かる。

 

B面曲は20分余りの大曲

これもまあ良いのだが、

A面に比べると少し見劣りしてしまう。

タルカスみたいなもんである。

 

このアルバムはプログレの名作が多いイタリアにおいても傑作と呼ばれるが

そのせいで「New TrollsといえばConcerto Grosso」みたいなイメージがついている。

そのためNew Trollsは色々試行錯誤してそのイメージを覆そうとするものの

やっぱりこれが一番良いです。うん。

 

ちなみにこのアルバムはN.1だが

実はConcerto Grosso N.3*2まである。

でもN.1が一番良いのだが

機会があったら是非聴いてみてください。

N.2のキーボード使いとかは面白い。

 


Concerto Grosso Per i New Trolls - New Trolls(Full Album)(HD)

*1:ゆるやかに

*2:N.3はほんの数年前に出た

Niagara Calendar/大滝詠一【1977】

一年の総決算に、一年の始まりに。

ナイアガラ・カレンダー 30th Anniversary Edition

ナイアガラ・カレンダー 30th Anniversary Edition

 

 

もう年の瀬も近づいてきました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

部屋の掃除はしましたか?

鏡餅は買いましたか?

紅白をのぞいて、晦日や年始に何の音楽聴くか決めましたか?

え?まだ決まってないって?

そんなあ、スケジュール管理がなってないよ!

カントが呆れるよ!

カントは規則正しい生活習慣で知られた。

(中略)

あまりに時間が正確なので、散歩の通り道にある家では、カントの姿を見て時計の狂いを直したと言われる。

 

イマヌエル・カント - Wikipedia

 

 

f:id:EPOCALC:20191221164716j:plain

        /呼んだ?\

 

 

あ~あ。めんどくさい人来ちゃった。

ところでカント先生は何聴く予定なんですか?

f:id:EPOCALC:20191221164716j:plain

       /Niagara Calendar\

 

 

 

 

というわけで今日は大滝詠一Niagara Calendarを紹介しますネ。

前回がこれの最終曲「クリスマス音頭」だったので

ネタ被り感があるけど許してください...どうか命だけは...

epocalcgarage.hatenablog.com

 

あまり知られていないことだが、大滝詠一コンセプトアルバム大好きである。

あの有名なロンバケも「コンサート」というコンセプトが一応あり、

そのためチューニングで始まって、Fun×4の最後でアンコールの手拍子があり

それを受けてボーナストラック(のはずだった)のさらばシベリア鉄道へ続く、という仕掛けになっている。

さらばシベリア鉄道

さらばシベリア鉄道

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 だから↑この曲だけアルバムから浮いている感があるし

CDのリマスタリングの際、一回外された。

 

また、自分のラジオを題材に作ったGo!Go!Niagaraなんかは完璧にコンセプトアルバムである。

Go! Go! Niagara のテーマ ~Dr. Kaplan's Office

Go! Go! Niagara のテーマ ~Dr. Kaplan's Office

  • 大滝 詠一
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挨拶で始まり挨拶で終わる、典型的なコンセプトアルバム。 

ナイアガラーには有名なシンガーソングライター少年・KEEPON君のお気に入りアルバムでもあったね。

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この子凄いっすよ。70年代大滝詠一の生まれ変わりか。

 

 

そしてNiagara Calendarにももちろんコンセプトがあり、それが「一年12か月にそれぞれの曲をつける」というカレンダーアルバムと呼ばれるもの。

この時点で大滝詠一が良くやるパロディが満載で、

まずコンセプト的にはジュリー・ロンドンのカレンダーガールのパロディ。

9月の雨

9月の雨

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 さらにデザインはエルヴィスのシングルだと言われる。

f:id:EPOCALC:20191221171814p:plain

どっちにもクリソツ。こういうところ渋谷系の先駆と言われるだけありますナ。

 

カレンダーアルバムであるので、ナイアガラーは年末年始にこれを聴き 

「あの月はあんなことがあったなぁ」

「来年のこの月はコレをしよう」

とか活用している話をよく耳にする。

つまり、ナイアガラーにとってのゆく年くる年である。

 

さて、では一曲一曲見ていきましょう。

まずRock'n'Rollお年玉でスタート。

Rock'n' Roll お年玉 <オリジナル 78年版>

Rock'n' Roll お年玉 <オリジナル 78年版>

  • 大滝 詠一
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最初、カレンダーを破ってから

「「「明けましておめでとうございます」 」」

という始まり方。ここの多重録音の雰囲気が結構好き。

曲調としてはかなり王道なエルヴィス風ロックンロール。

「ロックの始祖はエルヴィスだから1月は・・・」とか思ったのかもしれない。

確かリヴァーブエフェクターがスタジオにないだったか何かで

歌はトイレで歌っているようです。太古の宅録

メロディにもオールディーズの丸ごと引用や

はっぴいえんど時代の曲「春らんまん」を引用したりしている。

というか、この人正月の歌ばっかり歌ってるな。 

 

2月の「Blue Valentine's Day」は70年代大滝の名曲。

Blue Valentine's Day

Blue Valentine's Day

  • 大滝 詠一
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 珍しい「男目線のヴァレンタインの歌」。

70年代は松本隆に手伝ってもらっていないので

大滝詠一がセルフで詞を書いている。

大滝詠一は基本的にふざけた詞を書くのだが

たまにこういう素朴で目の付け所が面白い詞を持ってくるのでビックリする。

 

同じような素朴な詞は6月の「青空のように」でも楽しめる。

青空のように

青空のように

  • 大滝 詠一
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 多分この曲が70年代大滝詠一の中で一番皆の思う大滝詠一」像に近い。

後々十八番になるウォール・オブ・サウンドを実践しており

凄く「らしい」音像に仕上がっている。

またコード進行が夢で逢えたらと同じ。

だから物凄く狙って作った曲であろう。良い曲なわけです。

夢で逢えたら同様、いろんな人にカバーされており

特にFishmansのカバーが良いのでぜひ聴いてくださいネ。

青空のように

青空のように

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ノヴェルティ的なので好きな曲は10月の「座読書」

座 読書

座 読書

  • 大滝 詠一
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 「すわって踊る」というNHKテレビ体操みたいな提案をする曲。

一応ダンスミュージック、かなりリズム感を大事にしただろうので

Bメロで韻を踏みまくってる。

やはり日本語で韻を踏もうとすると滑稽になるのだと痛感。

そういえば、最初の歌詞「さあさあ、ダンスのニューモード」は

明らかにロコモーションのパロディだね。

 

こんな感じで大滝詠一のアルバムの中でも特にパロディが多いのが特徴。

このアルバムは当時かなり力を入れて取り組んだようで

「これが売れなかったら音楽やめる」といったほどだったらしい。

しかし、あんまり質が良いミックスができず*1プロモ不足でもあったため全く売れなかったそうだ。

そしてこれが売れなかったせいで一期ナイアガラレーベルは店じまい、ということになる。

この後出した数作の後の79年から、ナイアガラが復活する81年まで沈黙期に入る。

この時、大滝さんは腑抜け状態であり、奥さんから何か言われても「あぁ…」と言うだけだったそうな。あの飄々とした大滝詠一でさえ鬱になる時がある…

それの反動か、次作のロンバケでとんでもないことになって戻ってくるけどネ。

 

 

 

このアルバムの30周年盤やオリジナル版はジャケットがカレンダーになっている。

実際、77年末に出してカレンダーとしても使えるようにしたらしい。

このカレンダーだが、ライナーによれば

なんとこの先2023、2034、2045、2051、2062、2073、2079年…にも使える*2ということだ。

次の2023年を楽しみに待ちましょう。

 

 


坂崎幸之助が語る、“俺の大瀧詠一”その3 (Audio 2019/11/15) NIAGARA CALENDAR 1977年12月発売 ナイアガラ・カレンダー 大滝詠一 4枚目

*1:30周年のオリジナルミックスを聴けばほぼ宅録デモ並と分かるはず。加えて、なんと左右の定位が構想と逆だったそうな

*2:前回は2017年

クリスマス音頭/大滝詠一【1977】

冬の祭りに音頭をどうぞ

www.youtube.com

今月はクリスマス・ソング特集ということで誰にも期待されずぼちぼちやったが 

最後はもちろんこれでしょう!

大滝詠一のクリスマス音頭!

前、友人に「クリスマス音頭はいつやるの?」と言われていたが

そりゃクリスマスイブに決まってまっせ、旦那。

 

さて、大滝詠一の素晴らしいところは異質な材料二つの共通点を見抜き、

マッシュアップするところであると思う。

例えばCobra Twistという曲では

洋邦のツイストソングを何十曲も引用し、一つの曲にしてしまっている。

Cobra Twist

Cobra Twist

  • 大滝 詠一
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

それの最たる例と言えるのが実は音頭シリーズだと思う。

大滝詠一は音頭にハマって迷走していました」みたいな記述をたまに目にするが

割と音頭を作ったのは自然な流れであるように思う。

 

何故ならば、第一にロックはもともとアメリカのダンスミュージックで

意外と日本びいきな大滝詠一日本のダンスミュージックの音頭をロックと同程度まで拡張しようとしたのは容易に想像がつくうえ、

大滝詠一には洋の東西への一種の構造主義的な考え方、しかしそれが不可能であることへのニヒリズムが根底にあるからである。*1

実際、大滝詠一の音頭には「和」が前面に押し出されているものは無く、

むしろ「」をテーマとして前面に押し出している。

それを踏まえて、何故音頭を作ったか考えてみると

西洋等の異国の文化や価値観を完璧に理解したと思っている日本人を

音頭というツールで面白おかしく茶化し、

ロックをそのまま取り入れようとする(当時の)日本のミュージシャン、

それを有難がっている日本人たちに

「僕たちはこれくらいの偏見を持っているんだよ。

日本人が西洋の文化なんて分かりっこないの!」

という風刺的なメッセージを発しているように感じるのだ。

 

で、今回紹介するクリスマス音頭にもその傾向が顕著に表れている。

これも例に漏れず、ごらんのとおり西洋を題材にとった音頭。

クリスマスは冬の西洋のお祭りだが、それに夏の東洋のお祭りの曲を混ぜたわけだ。

この時点でもう大きな矛盾が出てしまっていて、この曲が珍妙になる未来は約束されている。

しかし、それを分かり切ったうえで書かれただろう次の歌詞。

   今日は楽しいクリスマス
  年に一度の   〃
  晩から朝迄   〃
  灰から火迄   〃  (ソレ)
  遠路はるばるクリスマス
  南蛮渡来    〃  (キタサット)
  奇妙きてれつ  〃  (アサナット)
  何故かしらねど 〃  (ウミヨット)
  七面鳥食って飲んで騒ごう
  七面鳥食って飲んで騒ごう
  ジングルベル ジングルベル ジングルベルよ

 そう、クリスマスというものは「年に一度だぞ!」「晩から朝まで騒げ!」などと

我々は楽しんで過ごしているわけだけれども、

それは実際には「南蛮渡来」であって「奇妙奇天烈」であって

その由来さえよく知らないわけである。

そのあとにくる七面鳥食って飲んで騒ごう」のなんと空虚で浅はかなことか。

そこにあるのは本来は恐らく謝肉祭的な側面があって神聖な心持で食べられるだろう七面鳥

お酒のアテとして大量消費する日本人の姿である。

 

商店街がクリスマス
ケーキ屋さんが 〃
テレビラジオが 〃
夜のネオン街も 〃  (ソレ)
戦後変わったクリスマス
天下晴れの  〃
日本すみずみ 〃
何処にいるのか 〃

から揚げ食って飲んで騒ごう
カップうどん食って飲んで騒ごう

ジングルベル ジングルベル ジングルベル

街を歩けば、テレビを付ければ、お店に入ればクリスマスソングが流れだす。

一見すると西欧の様子と変わらないが

しかしそれはどうやら日本古来のお正月様のような扱いを受けている。

そして、我々が飲んで騒ぐにはもはや七面鳥でなくてもよい。

チープな唐揚げやうどんで十分。

日本には元のクリスマスの面影はなくなってしまっているからだ。

我々は、ちょうどこの曲のように、珍奇なクリスマスを楽しんでいるのだ。

 

この数年くらいでようやくこんな話題をTwitterで見かけるようになったが、

大滝詠一は70年代の時点からずっと日本を皮肉めいた目で見続けていたわけである。

それを受け止めながら、この国にあってどんな曲を作るべきかを突き詰めたのが

80年代の大滝詠一なのかもしれない。

 

おっと、このブログでは真面目なことは一切書かないつもりだったのに

めっちゃ熱弁をふるってしまいました。失敬失敬。

では皆様も日本流クリスマスをごゆるりとお楽しみください。

 

NIAGARA CALENDAR

NIAGARA CALENDAR

 

 

*1:余談だが、ナイアガラの後継者たる渋谷系は文脈をほぼ無視し全音楽を同等に扱おうとするポスト構造主義的ジャンルと分かる

Christmas of Love/サニーデイ・サービス【2018】

下北沢にクリスマスが。

 去年の今頃何聴いていたかこの前考えていた。

そう思ってTwitterを見返していたら

YMOのボックス買ってた。

あれからもう1年か。早いな。

実際のところよく聴いていたのは何だったかと思えば

たしかサニーデイ・サービスホフディランだったと思う。

サニーデイについては去年の春ごろ滅茶苦茶ハマっており

常に新品の「東京」を持ち歩き、趣味の合う友人に配りまくっていた

一応まだ一枚だけ新品の東京がある。ほしい方がいれば僕まで。

 

サニーデイ・サービスとは何ぞやといえば、一回解散した後

なんだか最近になって復活した下北系を代表するバンド。

というか下北系とかサブカルの下地はすべてこの人達が作り上げた。

プラス相対性理論でも聴いていればればサブカル好きの人との会話をスムースにできる。

 

サニーデイは基本的に昔懐かしい感じのするフォークロック的な音楽性のバンドで

解散前は日本語ロック最右翼と言われていたそうな。

はっぴいえんど渋谷系的フォロワーでもあるね。

いま最右翼といったら色んな意味で椎名林檎っぽいが。

 

再結成後は逆にサイケや前衛にひた走っており、

コーネリアス小沢健二の中間を単振動的に行ったり来たりしているような感じだ。

解散前のラストアルバムがそんな感じだったので

そのやり方を推し進めているのだろう。

比較用に二つどうぞ。

↑解散前最後のアルバムの曲

 

↑再結成後の良い曲

 

しかし、去年ドラマーが亡くなってしまったので

次のアルバムがどう出るかは分からない。今までのドラムをサンプリングするかもしれない。

 

そんな悲しい雰囲気の中、11月に出たのがこの曲だった。

この通りストレート140㎞/hのクリスマスソング。

打ち込みドラムがドラマーの不在を思い出させる。

 

正直初めて聞いた時の印象は良くなかった。

ちょっと落ち着きすぎているなあ、という感じ。

しかし何回か聴いているうちにこの静けさが冬の景色によく似合うのが分かってきた。

なんだかこのバンドの出自的にも、東京の西の地域の商店街でかかってそうな雰囲気だね。

聴くたびに平和な心になれる、サニーデイらしいとても優しい歌。

 

サニーデイ・サービスはメロやアレンジと同じかそれ以上に歌詞が大事なバンドなので

ちょっと一番だけ詞を見ていきましょう。

 

電話のベルが鳴って驚き目ざめる

めざましの音だと知ってまたまどろむ

いつからか僕は君のことを

何故だか懐かしく思ってしまう

ここだけ切り取っても十分下北系の文化系男子の話だと分かるのが凄いところ。

まあ、下北系文化男子の具現化のようなバンドだから当たり前。 

割と有名な日本のクリスマスソングはこういう感じの「クリスマス一人です」設定が多いが

そのシチュエーションだけだと文化系男子の要素だけしかつかない。

電話のベルに聴き間違えためざましのようなしょうもない日常で君のことを思い出してこそ下北系である。

 

 

窓の外には冷たい朝の息吹が

誰もまだ知ることのない予言を解く

氷のような街角を

もうそろそろ目覚めさせようと

 場面描写パート。普通の音楽は場面→心情が多い気がするけれど

サニーデイは心情が優先的だね。情緒のロックなのだろう。

 ここら辺の表現とかは凄く松本隆がしてナイアガラナイアガラ。

 

12の月が過ぎて君の歌を思い出す

もうすぐクリスマスが来るよ

争いごとが終わり

星の名前が決まり

愛をわかろうとする だれかが

 そしてサビで放たれる、このごった煮感。

ユーミンタツローと竹内まりやとジョンレノンを同じ鍋で煮込んだ感じになっている。

なんだか頭の中が忙しくなる。師走だからか。

 

 こうしてみるとサニーデイサービスはほかの渋谷系以上に

歌詞のパロディも多い感じだ。

フロントマンの曽我部さんは和文好きらしく

曲名に古い大衆小説の題をそのまんま引用したりもしている*1

そんな文学的な人だからこそ巧みにやれた業なのかもしれない。

 

松本隆も「自分の好きな文学と音楽が詞で繋がるとは思わなかった」と言っているように

案外音楽は色々な要素を入れられる寛大な器なのかもしれないネ。

Christmas of Love

Christmas of Love

 

 

*1:コーヒーと恋愛

好き!雪!本気マジック feat. 初音ミク/Mitchie M【2014】

今の人たちはコレみたいですよ。

www.youtube.com

 

2年前、こんな記事を目にした。

www.huffingtonpost.jp

当時の10代に聞いたランキングだそうだ。へえ。

これを見て当時から古臭い曲ばかり聴いていた*1僕は

「皆聴いている音楽って何だろう」と研究していた。

山下達郎不在のくせになぜWham!がいるか謎だけど。

まあ1位back numberはいかにも当時の流行りっぽい。

しかしよく見るとちょっと異質なものが。

そう、好き!雪!本気マジック 。なんと4位

まずこれクリスマスソングか怪しいし、初音ミクだし*2色々?があるが

10代が言うんだから間違いない。いいね?

では今回は、山下達郎よりも10代からの人気が高いこのクリスマスソング(?)を掘り下げましょう。

 

 まず作っているMitchie Mという人は、界隈では知らない人はいないほどの有名ボカロPで

なんてったって音楽制作のプロらしい。

なんであれプロがアマチュアの領域に手を出すと大概ヤバいことになるが、彼も例外ではなく

まるで初音ミクの中の人が普通に歌っているように調声する。

 


【調教すげぇ】初音ミク『FREELY TOMORROW』【公式PV】

すなわち、【調教すげえ】。

上のFreely Tomorrowの調声がニコ動で話題となり、一躍有名ボカロPになった人物だ。

曲調は80年代くらいのアイドル曲に90年代フィルターを通した感じ。

シティポップ・ニューミュージックといった趣で聴きやすい。

 

で、問題の好き!雪!本気マジックだが、これは元々札幌雪まつりの曲らしく

まさにイベント・ソングと言った感じで楽しげ。これが流れた札幌はさぞ幸せムードが溢れていただろう。

かといって完全に商業用と割り切っている音楽でもなく

シンセサイザーのSE的な使い方がなかなか斬新、かつ可愛らしい雰囲気を下支えするもので

その他ちょこちょこ挟まる小ネタもとても参考になる。

一切クリスマスに言及してないのにクリスマス・ソングに挙げられるのも、

そもそも非日常用BGMという側面があるからなのかもしれないネ。

 

個人的な話としては、この曲は僕のボカロ嫌い脱却の第一歩であったので非常に思い入れがある。

たまたま見たMMDの動画でのBGMで知った口だ。

やはりボカロを聴くときに障壁になるのは「電子音じみた声」であり

それを全く感じさせないMitchie Mはボカロ嫌い克服にうってつけだと思う。

あとこの曲はアレンジやメロなど全体的に若干大滝詠一風であるので気に入ったんだと思う。

歌詞についても意味があるんだかないんだか分からない感じが良い。こういう計算された適当さはなかなか出せない。

 

さて、この曲の一番の聴きどころだが、それは二番のAメロ部

アイスも魔法も

この部分だと思う。ここ調声ヤバくないすか。

もっと具体的に言うと「ス」の後の「も」。

「ス」と言った後に一瞬どもってから「も」と歌っているのだ

実際音読してみると分かるが、「ス」から「も」と発音するには

他の音節間に比べちょっと時間がかかることが分かる。

しかし、これを機械に再現させようとするのは至難の業。なんせパラメーターで設定しないといけないから。

こんな細かいところ普通の人であれば見落とすか気づいても難しすぎてやらないが、

プロは違う。こういうディテールから声の人間臭さが生まれることをよく知っているのだ。

 

 

ところでいつもこの曲を聴くときに気になっているのだが、最初のノイズは何?

CD版だとないのだろうか。気になる。 

バーチャル・ポップスター(通常盤)

バーチャル・ポップスター(通常盤)

 

*1:ちなみに当時のマイブームはテクノ御三家

*2:まあそれ言ったら9位のsnow song showも初音ミクだがこっちはちゃんとクリスマスを明示しているぞ。

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